アニメ「葬送のフリーレン」と「原作に忠実であること」/イスラム的移動の自由と対立する主権国家体制/来日する中国知識人たちと日本の対応
Posted at 24/02/05 PermaLink» Tweet
2月5日(月)曇り
今日は午後から雪になると東京では言われているのだけど、めぐりあわせで今日は東京に来ているので、実家に戻る電車が少し心配ではあるのだが、いまのところは何もお知らせは出ていないので、とりあえず予定通りということで行動するつもりにはしている。
昨日は朝出かける直前に最新回(21話「魔法の世界」)の「葬送のフリーレン」の録画を見ていないことに気づき、出かける前にBDにダビングした。思ったよりダビングに時間がかかることがわかったが、とりあえずダビングできたのでBDを持って出かけた。
午前10時半過ぎの特急で帰京し、列車に乗る前に駅前のツルヤで天丼を買っておいて12時になってから食べたのだけど、冷えているのは仕方ないとはいえ、コストパフォーマンスは悪くないと思った。列車の中では「ふつうの軽音部」を読み返したり中田考『イスラームから見た西洋哲学』を読み直したりしていた。
東京についてからは丸善で少し本を見てから帰宅。少しゆっくりして、「葬送のフリーレン」を見始めたのだが、日のあるうちに出かけないのはもったいないなと思って4時近くになっていたが出かけた。いろいろ考えたが日本橋で降りて、コレド室町のあたりを少し見て回り、タロー書房で本やマンガをぱらぱらみた。それから三越の地下で夕食を買うことにし、まい泉の海鮮のり弁当というのを買った。丸善まで歩いて本を少し見たが結局買わず、そのまま帰ってきた。
https://frieren-anime.jp/story/ep21/
帰宅後は「葬送のフリーレン」を最後まで見る。とても面白かった。特に、原作マンガでは比較的あっさりと描かれている魔法を用いた戦闘の場面は、このアニメの白眉と言っていいだろう。今回見たもので言えばデンケンとの戦いとゼーリエが張った結界の解除、それにカンネの大規模な水を操る魔法。それを使わせるためにフリーレンがゼーリエの結界を破る、という大掛かりな仕掛けをこともなげにやってのけるところが相変わらず面白いなと思う。
https://frieren-anime.jp/story/ep08/
私はアニメの「葬送のフリーレン」を初めてみたのは第8話が初めてで、フェルンが窓の外に浮いている場面と、フリーレンの同じ描写を見て、もうこれは間違いなく面白いと思ってみることにし、原作も読み始めた。毎回魔法の描写があるわけではないのだけど、原作を読んでいるから大規模な魔法が使われるときは今度はどのように描写されるのだろうととても楽しみにしている。
***
この作品は小学館の雑誌「少年サンデー」に連載されたものがマッドハウスの制作でアニメ化され、日本テレビ系列で放送されている。つまり、小学館と日本テレビが絡んだマンガ原作作品という点では「セクシー田中さん」と同じなのだが、こちらは原作に忠実に、それでいて原作の世界を映像表現を補って原作以上に再現している感があり、「セクシー田中さん」で語られている話とはかなり違うなと思う。
アニメでは最近は「原作に忠実にアニメ化する」ことが一つのトレンドになっていて、それが成功している例が多い。私が10年ほど前にアニメを見始めるきっかけになった「進撃の巨人」もWIT STUDIOの演出は立体機動の場面をはじめ原作の世界の静止画では表現できない部分を補って作られている感じがして、大評判になった。
そのようにアニメでは「マンガ原作ありき」でそれに忠実に作られることが定着しているのだけど、ドラマでは生身の人間がセットの中で演じるという都合もあり、アニメにはない縛りが多いということはあるのだろうと思う。
しかしそうしたスケジュールのハードさにかまけて原作者と十分に話し合えない現状というのはやはり双方にとって良いことではないだろう。お互いが十分に納得のいく話し合いをしたうえで制作に入る体制が築けるよう、一読者・一視聴者としてお願いしたい。
***
中田考「イスラームから見た西洋哲学」52/229ページまで。イスラム法学やイスラムの国家観というものについて、ちゃんと読んだことは初めてなのだなと思う。同時に人権やそれに類したものに対する考え方もかなり違うことが分かり、イスラム教徒と「共存」することが可能なのかどうか、考えさせられるところもかなりあったが、まずは理解することが先かなと思って読み進めている。特に「移動の自由」は人間にとって基本的なものであり、「国境」や「国籍」で人の行く手を阻み差別するのは許されない、という考え方は現代政治学が前提としている主権国家体制とは全く反するものなので、この辺の歩み寄りがどう可能なのか、何が出来て何ができないのかなど、考えるべきことは多いと思った。
日本は主に農耕民から成る社会だった(もちろんそれだけではないが)から、よそ者を受け入れるか否かは共同体が決めるとか、主権国家体制のその部分はすんなりと受け入れたわけだが、世界には遊牧民や隊商などの商業民、農民でも移動生活が主なサハラ以南のアフリカの生活形態など、そうした部分で主権国家体制になじまない生活形態の人々も多い。万里の長城は農耕民の中国と遊牧民の北アジアとの対立の象徴なわけだが、大国と衛星国という考え方のプーチンロシアなど独自の国家観を持つ人たちもいて、もちろん難民の問題もあり、この問題はなかなか一筋縄ではいかない話だなと考えてみると思う。
***
中国人の知識人たちが中国にいられなくなり、一時は香港に避難していたがそれもできなくなったので、彼らが東京に集まってきているという記事を二本読んだ。
https://toyokeizai.net/articles/-/731663
https://toyokeizai.net/articles/-/730965
今見るとこれは両方東洋経済の記事で、同じ舛友雄大さんの署名記事なので、各方面でそれが話題になっているかどうかは分からないが、その内容やツイッターなどで見る反応などからしても、考えるべきところはあるのだろうと思う。
中国の亡命知識人や学生が東京に集結したというのは記事にもあるように清朝末期に見られた現象で、あとは天安門事件のときに一時的にそういう状況になったことはあるが、彼らの多くは東京にとどまらずアメリカに亡命した例が多いと思う。清朝末期の場合は東京が一つの革命運動の拠点になり、犬養毅や頭山満、宮崎滔天など多くの今では右翼に分類されるような人たちが革命家たちを支援した。彼らの支援もあり、辛亥革命が成し遂げられ清朝は倒れたわけだが、その数年後に勃発した第一次世界大戦のさなか、大隈重信政府の加藤高明外相が「対華21か条の要求」を出したことによって周恩来など多くの中国人が反発し、日本を離れることになったと言われている。
当時の日本は日清日露の両戦役に勝利し、戦後の不況にあえいでいたとはいえ、日英同盟だけでなく日露協商、また日露戦争の仲介をしたアメリカとの関係も良好で、列強とまともに利害の交渉ができる唯一のアジアの国として、まさに東アジアの政治的中心だったと評価できるだろう。
しかし今の東京は政治的には安倍元首相や岸田首相の外交により西側世界では存在感はあるものの北京の圧倒的な存在感には劣り、経済的には上海や香港やシンガポール、製造業では台湾や韓国などに押されていて、「文化」でかろうじて首位を取っている、それも大衆文化では韓国に押されているが、科学技術や学術において何とか面目を保っているというような状況だろう。
しかしだからこそ北京や上海では存在を許されなくなり、香港も中国化が進む中、対習近平政府の最前線が東京にまで後退した、ということの表れがこういうことになっているのだろうと思う。
そこには村上春樹さんの小説が読まれたり、上野千鶴子さんのフェミニズムの著作が読まれたりするような背景があるのだろうと思う。欧米も含めた世界で通用するハイカルチャーが東アジアでもっともあるのはやはり東京だということなのだろう。いいか悪いかは別にして。
こうした中国知識人たちが東京にやってくること自体をどう評価し、われわれがどう対処すればいいか、ということを考えると、やはり清朝末期の状況を思い出すわけで、孫文らを援助したなかでも頭山満は声を封じられ、犬養毅は暗殺され、土肥原賢二は「南京大虐殺」の責めを負って極東軍事裁判で処刑されるなど、あまりよい展開はしていない。まあこれは今後中国とどういう関係を取っていくかということとかなり関係はあるわけだけど、中国自体が今後も現在のような強権的な大国であり続けるのか、民主化や没落などの変化はあるのか、など様々な要素があるので予想は難しいだろう。
今来日している中国人は、以前はノンポリが多かったが、最近では大阪の中国領事の過激なツイートにも表れているように、きわめて体制ゴリゴリの人々と、亡命知識人のような反体制の人々に大きく色分けされつつあるらしく、逆に言えば東京で両派の対立が表面化することもあり得なくはないという感じにもなっている。
そのあたりは迷惑という感じはしなくはないが、中国駐在の日本大使として中国に苦言を呈してきた垂秀夫元大使は
「「中国人の日本渡来ブームは、清朝末期と改革開放後についで今回が3回目。今回は中国に対する国民感情が悪い、そして来日する中国人には富裕層が含まれているという特徴がある。何十年後かに振り返って、『あの時、3つ目の波を日本社会はきちんと受け入れられていたか』という検証に耐えられるような対応を考えなければならない」
といい、そこから見えてくるのは、富裕層が知識人を支えて、新たな政治的勢力を育てる可能性に対し垂氏は
「日本に逃げてくる中国人を中国共産党の一味と捉えるべきでなく、こうした人々を逆に戦略的に取り込むくらいの発想や度量が求められるのではないか」
と指摘しているわけである。
日本への知識人の招聘を進めてきた東大の阿古智子教授は現時点で体制変革にコミットする中国人は多くないといい、
「中国が経済的にも軍事的にもかなり厳しい状況になった時に、どう声を上げるかですよね」。
たとえば台湾有事などが本当に差し迫った時には、在日中国人により何らかの組織が立ち上げられるのではないかとの見方をしているという。
このあたりをどう判断すべきかは難しい。日本がこうしたある意味での「外交上のカード」を持ちながら、うまくそれを使えた例はあまり考えつかない。古くは金玉均もまざまざと殺され、近くはペルーのフジモリ元大統領もただ収監されるに終わっている。
中国の知識人や富裕層が今の習近平政府を変える体制変革を担える勢力になるかというと難しいし、それが日本自身や日本政府の利益になるような行動をするかと言えばそれもまた難しく、アメリカの政権やCIAなどにうまく使われるのがオチだ、という気もしなくはない。
ただ、彼らを腫物のように扱うだけでなく、彼らの主張を理解するだけは理解し、日本の体制や文化や主張を吸収してもらうことで日本への理解を深めてもらうことがある程度のプラスにはならないとは言えない。ただ無制限の支援がよいかと言えば先に書いた先人たちの失敗も頭によぎるわけで、慎重に、というべきだろうとは思う。
ベルリンの壁が崩壊した後も、中国は天安門事件を起こし、一党独裁体制を守った。その中国を変えるのは容易ではないように思うし、また変化したら日本の外交環境がよくなるかというとそこもちょっと難しいところがある気もする。
しかし習近平政府の影響力を下げることは当面日本にとってプラスになることは多いだろうし、台湾海峡の緊張も下がればそれに越したことはない。
いろいろなファクターを見極めながら、冷たくもせず入れ込みもせずという大人の対応で、彼らに接していくのがよいのではないかと思う。
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