「プロフェッショナル ジブリと宮崎駿の2399日」を見た。「君たちはどう生きるか」というより「高畑勲を失った宮崎駿はどう生きるか」だったとは。
Posted at 23/12/23 PermaLink» Tweet
12月23日(土)晴れ
昨夜は夜から雪が降り出し、今朝は積もっているかと思って外を見たら、とりあえず積もってはいないようだった。ただ私の家の周りがそうであっても他の場所はわからないから、気をつけて動かないといけないと思う。昨日は冬至、今日は上皇誕生日。明日はクリスマスイブで明後日はクリスマス。名前のついた日が続く。
昨日は朝から母を病院に連れていき、母に一言書いてもらった年賀状を受け取る。その後で近くの親戚の家に訪ねたり、お歳暮配りも二件、朝は時間がなくてご飯が炊けなかったのでセブンイレブンで弁当を買って家に帰ってきて食べて、細切れの時間で「プロフェッショナル 宮崎駿とジブリの2399日」を見た。自分の年賀状の一言も少し書いて、仕事中はそれなりに忙しく、定時より少しすぎて家に帰ったが、雪が降っていたので明日の朝は大変かなと思ったわけである。
夜はなんとなくぼーっといろいろしていたのだが、寝落ちして時計を見たら0時だったので着替えて寝た。起きてきたら5時半を過ぎていたので、けっこうよく寝たということになる。外はまだ暗いが道が雪で明るくはなっていないので、多分大丈夫だろう。
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2023121618116?playlist_id=d7267c5c-5953-4374-90f4-5768431d70c6
「宮崎駿とジブリの2399日」。ネットでもいろいろ感想が出回っているけれども、つまりは「「君たちはどう生きるか」制作ドキュメンタリー」ということなのだろう。私もこの作品は見た時に感想をいくつかブログにもTwitterにも書いたけれども、その時に感じたこと、考えたこととはだいぶ違うことも出てきていて、改めてへえっと思ったこともあった。
またこのドキュメンタリーの制作の仕方について、ジブリで働いた経験のある元アニメーターでアニメ評論家の人のNHKの番組の制作姿勢を批判する連続ツイートもタイムラインを賑わしていたので、そのようなこともいろいろ思わされることはあった。
現時点で自分が受け取っていることを書くと、このドキュメンタリーは「君たちはどう生きるか」というよりも「高畑勲を失った宮崎駿はどう生きるか」という内容だったと感じたし、またそういう姿勢で作られていたと思う。
公開当時は引退宣言を撤回しての宮崎駿10年ぶりの新作ということでついに後進への遺言みたいなものとしてこの作品は作られたのかと思い、私も含めてそういう解釈をしていた人は多いと思うのだけど、このドキュメンタリーの中心的な主張から言えば全然そんなものではなくて、高畑を失った宮崎のリスタートというか、第二の作家人生の始まりみたいなドラマだったのだなと思った。
このNHKの番組、おそらく荒川さんという人だと思うが、20年密着取材しているということなので、以前見た「崖の上のポニョ」の制作ドキュメンタリーも同じ方が作ったのだと思うけれども、同じ方向の「宮崎解釈」で作られていたと思う。基本的には宮崎さんの「天才ぶり」を書くことが使命ということで、その天才の内面に迫る、みたいなことだったのだろう。この手法が要は批判されているのだと思うけれども、宮崎さんにそうした文学的な一面はあるのは確かだと思うし、まず第一にジブリのアニメ映像をこんなにふんだんに使うことが許された番組ということ自体がすごいなと思う。
内容的にはこの制作のために作画監督を庵野秀明さんの株式会社カラーから本田雄さんを引っ張ってきたというのがすごいなと思うし、そのために作風自体が変わった、というのは面白いなと思った。「エヴァンゲリオンが引っ越してきた」という宮崎さんの言葉、ああちゃんと見てるんだなとも思ったし。
まとめて言えば、まずは知らない情報が結構あったので面白かったということだろう。演出意図はあったと思うけどそれが適切かどうかは判断しようがない、というかそれに対する好き嫌いはあるだろうけど、私としては「ああこういう感じに表現したかったんだな」という感じで受け取った。
「大叔父=高畑勲」の決別を父親殺し的なものとするのは言いすぎな気もするが、高畑さんに激重感情を持ってたのは確かだろうし今でも持ってるだろうと思う。でもやはりあの莫大な量の感情を全部画面に封じ込めて乗せていくからああいう作品になるんだろうなとは思った。
作画監督がカラーから引き抜いた本田さんになったことで主人公がエヴァンゲリオン的になったというのは考えたことはなかったけどでもああいう憂いの描き方というのは、今までにないキャラではあったなと思った。しかし宮崎さんの原点に返るキャラではあったんだろう。
しかし思ったのは、ああいう鬱屈した少年というか若者を主人公にするのはすごく反時代的で面白いなと思ったということ。少年の主人公が多い時代に宮崎さんはナウシカに始まってサツキやキキや千尋といった少女を主人公にしてまさに一時代を築いたわけだし、今はその影響を受けて少女主人公の全盛時代、ジャンプですら女の子が主人公になる時代になってるわけだけど、「鬱屈した少年」という昭和初期みたいなキャラクターを前面に押し出したのはなんていうかみんな戸惑ったんじゃないかという気はする。そこに本田さんの作画監督だからエヴァのシンジ色が加わってちょっと複雑になったとはいえるのかもしれない。
これは劇場で見たときにも感想で書いたが、ジブリ=宮崎アニメと言えば元気な少女が主人公というイメージが強いけどパズー、ポルコ、アシタカときて、(ハウル)、宗介、堀越二郎と特に21世紀になって男性主人公が続いていて、ついに古典的少年私小説の主人公みたいな眞人になったというのは、宮崎さんの転回として面白い。しかしこれも、このドキュメンタリを見たうえで考えてみると宮崎さんは高畑さんを失って原点に返らざるを得なくなって自分を主人公にしたこの作品を作ったのではないか、という気もしてきた。そうなるとここからが宮崎駿の第二の人生、みたいな気もする。それを全うするには160歳くらいまで生きる必要がありそうな気がするが。
宮崎さんの遅いリスタート、新規巻き直しがこれから始まるとしても、年齢はやはり隠せないから、次にトライするのはやはりナウシカなのかなと最後のカットを見て思ったけれども、それはまた見てみたいような見たくないような。もし途中で宮崎さんが亡くなるようなことがあったら、続きを作るのは庵野さんくらいしか考えられない気もするし、「風立ちぬ」の時から宮崎さんの中で庵野さんの重みが増してる感じもするし、だからこそ本田さんを取ってしまったような気もする。
この手の話は後深草上皇と亀山天皇が後深草院二条を「共有」した話とか小林秀雄が中原中也の恋人を奪った話とかにも通じるし、それが高畑さんと宮崎さんの間では近藤喜文さん、宮崎さんと庵野さんの間では本田さんということになるのかもしれないなと思ったりした。
個人的にはあのドキュメンタリの中では「アオサギ」の動きがプロデューサーの鈴木敏夫さんの動きと重なってそこがかなりウケた。というか鈴木さんの動きから取材してあのキャラの動きを作ったのかもしれないな、モーションキャプチャー的に。
いろいろ感想を書き並べたが、多くの人が言ってたし私もそう思ってたが、「君たちはどう生きるか」という映画が「次世代への遺言」なんてものでは全然なく、「高畑勲を失った宮崎駿はどう生きるか」であったということは、かなり目くるめくものを感じた。あらゆる意味で天才・宮崎駿はこちらの想像を超えてくる。
NHKプラスで視聴可能なのは12月23日午後8時48分まで、24日以降は来年1月終わり頃まで有料ですがNHKオンデマンドで見ることが可能になるようです。
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