イスラエルとウクライナとパレスチナとロシアとアメリカ
Posted at 23/10/20 PermaLink» Tweet
10月20日(金)晴れ
植木屋さんの作業が昨日午後で終わり、だいぶ綺麗になった。楓の枝がだいぶ分厚くなっていたのを梳いてもらったら軽い感じになってかなり印象が変わった。そういうことってあるのだなと思う。
今日は母を病院に連れていくので朝はやはりあまり時間はないのだが、少しだけ書く。
パレスチナ情勢だけれども、アメリカのバイデン大統領は緊急にイスラエルを訪問し、支持の姿勢を取り付けるとともに行動に関して何らかの枠をはめに行った感じがする。常に支援するということは常に監視するということでもあるだろう。すでに米軍のある種の部隊はイスラエルにいるようなのでこれからどういう活動をするのか、イスラエルのガザ侵攻にも同行するという感じなのか、アメリカの関わり方が注目されると思う。
パレスチナ問題でいっとき世界の注目が外れたウクライナ情勢だけれども、印象的なのはゼレンスキー大統領が明確にイスラエルを支持していることかなと思う。侵攻したハマスをロシアに、攻撃を受けたイスラエルをロシアに準えるのはある意味でシンプルすぎ、アラブ人たちが住んでいた土地にユダヤ人たちがイスラエル国家を建国したという過程を考えればそんな簡単に割り切っていいのかとも思うが、ソ連解体後という時代のスパンで考えるならイスラエルをデフォルトの存在と捉えて割り切るという思考なのかもと思うところもある。それが妥当かはともかく。
その意味でゼレンスキーの姿勢はある種の戸惑いを呼ぶものであったが、彼のイスラエル・アメリカ支持の姿勢はあくまでもウクライナのロシアとの戦いの支援への感謝と今後の共闘のためだということをはっきりさせているところに意味があるのかもしれない。イスラエルもそうだが、ウクライナもとにかくアメリカの支援を必要としている。アメリカ以外からの支援とアメリカからの支援とどちらがより必要かというと後者だということなのだろう。今は国際世論よりも何よりも軍事的勝利が重要だと考えているということなのだと思う。
難しいところだけど、ここで中途半端な全方位外交的な姿勢をとっても意味はないし、ロシアはここぞとばかりにアメリカに反発する国々の支持を取り付けようとしているし、イスラエルも現状ロシアまで敵に回す余裕はないから沈黙している。ウクライナが強力にイスラエルを支持するのはやや迷惑な面もあるように思うが、表向きはそれを受け入れるだろう。
ウクライナの戦争目的がシンプルに「ロシア軍を国内から追い出すこと」であるのに対し、イスラエルの戦争目的は複雑だ。
ハマスにしても本当に欲しいのはアラブ諸国の支持とイスラエルと国交を結ぼうとするイスラム諸国がイスラエル寄りの姿勢をご破算にすることの方が意味があるだろう。だから今のところ外交的にはハマスの勝利だろう。イスラエルとしてはハマスの意図を砕くためにはハマスを潰すしかない。
しかしガザは「自分たちの土地、自分たちの街を奪われたパレスチナ人」およびその子孫が大部分を占め、土地を失ったパレスチナ人の怨念そのものなのでイスラエルがガザの人々に彼らの街や土地の回復を認めない限り反イスラエルの精神はなくなることはない。
そうした前提で考えると、もしイスラエルが「ほとんど民間人に被害を出さずにハマスを組織的に壊滅させる」という奇跡のようなことが実現できたとしても、根本的な問題は解決しない。パレスチナ国家を樹立するための選挙では、主流派のファタハを抑えてハマスが勝利した過去がある。パレスチナ人の世論は妥協ではなく闘争にあるということがある意味示されたわけで、イスラエルもそれを受けてのパレスチナ国家の樹立には賛成はしにくくなっている。ハマスを滅ぼしてもパレスチナ人の意思が変わらなければ、第二第三のハマスが出てくるだけなので、イスラエルの討伐はいたちごっこに陥ってしまうだろう。
バイデン大統領が出国した後もまだ侵攻は始まらないが、イスラエル政府内でもアメリカから突き付けられたメッセージにどう対応するかを検討しているということなのだと思う。病院爆破がどちらの手のものによるかは不明だが、アラブ世界や欧米の市民の反イスラエルの世論を盛り上げるには効率的に使われたことは確かだ。
イスラエルも建国当初のキブツなどの社会主義的な基盤を基にした体制はすでに変質し、イデオロギー的にも超右派から世俗派まで幅広くなって、従来中心であった左派は勢力を失っている。リクードの右派連合というのは勢力が多いようだけれどもやはりポピュリズム的な傾向が強いように思う。社会主義的体制における軍のあり方と世俗化が進んだ社会の中での徴兵による軍のあり方なども実際には様々な矛盾があるだろうし、平和的な共存を望む勢力と西岸入植地を広げようとする勢力との分裂も実際にはかなり厳しいような気がする。つまり、イスラエルの指向性も分裂している。海外のユダヤ人の中にはもともと反シオニズムの人たちもいるし、イスラエルの軍事行動が自分たちに対する差別や迫害を助長することを懸念する人たちもいる。
パレスチナ人の側も、わかりやすいハマスやイスラム聖戦などの過激派や穏健化した多数派のファタハもあるし、それぞれの側を支持する民衆もあればいつまでも続く抗争に将来を見出せない人々も多い。長期的に見ればイスラエルの外交努力で諸外国との関係は改善されつつあったが、ハマスの侵攻によってそれらはご破算になった。イスラエルはもう取り戻せないものが多いのだが、ハマスを壊滅させないと納得しない勢力もある程度あるだろう。今はハマス支持でパレスチナ人の多くはまとまっているように見えるが、情勢が沈静化してきて個別の対応が問題になれば、また分裂していくことになるだろうと思う。パレスチナ側も一枚岩ではない、というかその民意を統一する主体が確立されていない。本当は自治政府を握っているファタハが多数派になれば一つの理屈もできるのだが、現実はハマス支持者の方が多いので再び選挙をやればファタハ政権の正当性が失われるために選挙もできないというどん詰まり状況にある。
両者とも分裂しているからどのような解決案を示してもどこかが不満を述べ、それは直ちに実力行動に繋がるだけにプランを示すにも慎重さが求められる。
パレスチナ人にしてもユダヤ人にしても彼らの非妥協的な姿勢は今まで考えられた手段では解決することのできないこの問題の根深さを改めて印象付けるものだなと思う。まずは「暴力的な手段を用いない」ということで双方の合意ができればいいのだが、ウクライナ戦争以降特に「実力行使が成果を上げる」ことが再び明らかになりつつあり、その辺りを進めるのもなかなか難しい。関係者関係各国の努力を願うしかない。
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