情報を握るジャーナリズム権力の問題点と一部記者の振る舞いの淵源について考えてみる
Posted at 23/10/19 PermaLink» Tweet
10月19日(木)晴れ
昨日は午前中松本に出かけて整体の操法を受ける。昔に比べて一つのことを集中して考え続けてしまうようなことがなくなったのは歳をとったからか、みたいなことを尋ねたらそれはうまく放せるようになってきたということだろうと言ってもらったので少し安心。体調とメンタルのバランスをとりながらまあなんとか今日も生きているという感じではある。
ジャーナリズムというものを考えてみている、というほどは考えていないけれども思考実験みたいな感じで考えているのは、もともと「調べて情報を得る」ということ自体は古代から人を制するには重要なことで、例えば「孫子の兵法」などにも「彼(敵)を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」とあるように、外交や間者によって情報を得ることは重視されていた。
これは商人にとっても同じことで、情報を収集してどこで売れるものが手に入るか、どこでそれが売れるかというような情報は隊商貿易などでもそうだし日本でも大坂の堂島市場の米相場を瞬時に遠方に伝えて有利な時に米を売る、みたいなことは江戸時代にも行われていた。
また情報というものは積み重なっていけば知識となり、それを学ぶ学問となるけれども、最初は新しい情報としてもたらされるわけで、情報は新しい学問の基盤でもあり、また学問にとっては新しい要素を付け加えていくものでもあった。しかし学問の体系が一度できてしまうとそれに合わない情報は嫌われるようなこともあり、また違う文明の人たちと遭遇すると一からの情報収集になり、それがヴィヴィッドな記録として残され、後世から見れば客観的にその文明のことを知る手がかりになることにもなる。
それらは情報収集とその活用ではあるが、一般にジャーナリズムとは言えないだろう。ただ、情報収集がジャーナリズムの一つの本質であることは確かであって、その「情報を得る」という人間活動の中の一つの分野として報道やジャーナリズムも位置づけることができるだろう。
報道ということでいえば、つまりは権力者や商人などの情報を握ることで力を得る人たちのために行うことではなくて、広く一般大衆に対して情報を伝えること、ということができるだろう。それが権力によって行われれば教育や教化・あるいは洗脳ということになるだろうが、外部から情報を伝える宣教師的な人々や行商人などもまた副次的ながら大衆への情報伝播の大きな要素だっただろう。
教育ではなく情報を伝える専業のような人が現れるのは日本では江戸時代、ヨーロッパなどでも近代の瓦版とか新聞のようなものが始まりだと思われるが、両者とも印刷技術を前提としているので印刷が普及していないところでは報道も起こらない。瓦版も売れなければならないから誇張も多いしガセネタも多かったと思う。
これは頭の中で考えたことと記憶をもとに書いているので不完全な見取り図に過ぎないが、日本で新聞がで始めた頃は「大新聞」と「小新聞」があり、大新聞は政治思想や主張を伝えるもので、小新聞は情報を伝えるものだったと記憶している。これはジャーナリズムの二つの側面を表していると言えると思う。
今、ジャーナリズムというと一般の人々は「新しい情報を偏りなく伝えること」が最も重要であると考えているわけで、そういう意味では「小新聞」こそが本来のジャーナリズムのあり方だと考えている。しかし新聞記者の側からすると、「事実を伝えること」より「自分たちの「正しい」思想、物の見方を伝えること」の方が重要だと考えている人が多いようで、これは日本が世界に比べても際立っているらしい。
そういう意味では、今でも日本のジャーナリズムは「小新聞」の「正しい情報を伝える」よりも大新聞の「自分たちの考えを伝える」ことの方を重視しているのではないかという歪な感じがあるなと思う。
また、江戸時代からそうだが新聞は商売でもあるから、売れる=読まれる記事を書かなければいけないので、より過激な取材が行われがちな傾向がある。いわゆるメディアスクラムというものもそれが原因だろう。また情報を集めるということは情報を握るということであり、ある人にとって不都合な情報を手に入れる機会に多いわけだから、それを公開するかしないかが報道側の胸先三寸ということになり、報道されて被害を受ける人たちもいればそれをネタに対象者をゆする記者も出てきたりして、「羽織ゴロ」などと言われるケースもあった。現在もあるのかどうかは知らないが、情報を手に入れる・握るということはそれだけいろいろな意味で「スレスレ」の行為でもあるわけである。
現在ジャーナリズムが重視されるのは、日本が近代国家であり民主主義国家であることと関係があるわけで、明治維新の五箇条の御誓文にも「広く会議を興し万機公論に決すべし」とあるように、さまざまなことを議論しながら物事を進めていくことは近代国家にとって重要なこととされ、情報は国家権力だけでなく在野にも広げられなければならないと考えられていた。
戦後になると主権者は国民になったわけで、主権者である国民が情報を知ることは原理的に重要なことになった。ジャーナリズムが強化され、ある意味「神格化」されたのもそのことと関係があるだろう。「権力者たちは常によからぬことを考えていてそれに関する情報を隠したがっている」という「国家性悪論」的な前提のもとに「国家の秘密を暴き「真実」を世に知らしめることこそ真のジャーナリズム」というある種の日本のジャーナリズムの自己イメージが成立していくことになるわけである。
これは一つには極東軍事裁判、東京裁判によって確立された「戦前の日本・大日本帝国=悪」というイメージがもとになっているのだろう。善悪や当否はともかく、戦前の日本は各所に機密情報があり、それを明らかにすることは禁止されていたわけで、国民が与り知らぬ情報も多くあったことは確かであり、東京裁判の過程で明らかにされていった内容の中には、国民の多くに衝撃を持って感じられたことも多かっただろう。いわゆる「ウォーギルトインフォメーションプログラム」などにしてもアメリカ占領当局(特にニューディーラーが多かった社会主義的なGS)が戦前の日本の「真実の」姿を日本国民に知らしめるという企画として行われたことは事実である。
日本の現代の報道・ジャーナリズムはこの占領軍の姿勢を受け継ぎ、日本国家の悪を監視し暴き出すことが自分たちの使命であると考えている人が多いように思われる。これは当初はそれなりに需要があったのだろうと思うが、現代においては「より正確な情報」を求める人の方が受益者側には多いと思われるし、「悪の日本国家という神話」を信じる人はどんどん少なくなってきているだろうと思う。しかしまだ報道側はそれを暴くことにヒロイズムを感じている人が多いようで、その乖離が激しくなってきているのが東京新聞の貴社の姿勢などに表れているのだろう。そうした一部の記者の官邸での記者会見やジャニーズ事務所の会見などでの振る舞いは、眉を顰める人も多いが支持する記者たちも一定数いるというのはそういう背景があるからだろうと思う。
大体私がジャーナリズムということについて考えてる全体像の見取り図的なものを書くとこういう感じになるが、また考えて書いていきたいと思う。
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