生きるというのはどうしようもないこと/林智裕「正しさの商人」を読み始めた:流言蜚語の背後にある宗教なき時代の再魔術化
Posted at 23/07/25 PermaLink» Tweet
7月25日(火)晴れ
昨日はどうも一日いろいろと調子が悪かったのだが、思考の方はそれなりに進んで、今朝寝床の中で考えていて一つの結論みたいなものは出た。それにどう取り組んでいくかはまたこれから先のことなのだけど、自分がどういう人間なのかということも少し分かったのでまた整理してからいろいろ書いてみたい。
昨日は昼を食べてから職場に出て少し銀行関係の仕事を片付け、銀行に書類を出しに行った。本当は25日でもいいのだが、今日の仕事を少しでも減らしておこうという気持ちもあったので。
夕方に書店に出かけて少し本をみたがこれというのはなく、スーパーに行って夕食を買って帰った。7時ごろから久しぶりにビールを飲みながら食事をしたら夜にやろうと思っていたことを始める前に撃沈してしまい、8時過ぎには床に着いた。夜中の1時過ぎに一度目が覚めたが、パジャマを着てなかったので少し冷えた感じで、パジャマを着てから汗をかきながら寝たがいろいろ考えていて一つの結論に達したわけだ。
目が覚めたので時計を見たら4時で、そんなに深い眠りではないにしてもかなり寝たことは確かだなと思いつつ起きた。思ったことをノートと紙に書き出してから、アフタヌーンが読みたいなと思い少し早いがファミマまで車を走らせた。
4時過ぎというのはまだこんなに暗いのかと思いながら走って行ったのだが、ファミマで雑誌のコーナーを見たらもう届いていて、ラッキーと思う。水とフルーツ系飲料とカップをセットするコーヒーを買って、「雑誌って何時ごろ来ますかね」と聞いたら「特別のことがなければ1時と2時の間くらいですね」と言われたので、なるほど起きた後なら多少早くても大丈夫だなと思う。早く行きすぎるとまだ届いてなくて二度手間になると嫌だなと思っていたのだが、それなら大丈夫だなと。
アフタヌーン、今月号は「スキップとローファー」も「宝石の国」も「おおきく振りかぶって」も休載なのでいつも読んでいる作品が休んでしまっていたのだが、「ブルーピリオド」は広島編の大詰めに来た感じ。
真田まち子の死の真相は思ったより呆気なく、八雲が引きずってしまうのも仕方がないかなと思うし、その引きずり方がまた真摯で、はっちゃんやモモも含めて強烈な思いを八虎は受け止めてしまい、結局自分の中に起こったその思い、を作品にすることにしたわけだが、最後にまた一波乱あって・・・みたいな感じ。
まあ生きるってことはどうしようもないことだよな、みたいなことは「ハンチバック」を読んでも改めて思ったし、まただからこそどう生きるかってことが大事なんだよなとも思う。「フラジャイル」もそんな感じな話になっていた。
「天国大魔境」は今まで「お姉ちゃん」についての謎が明かされてきたが、高原学園の崩壊が描かれたのちに、マルの秘密が少しずつ明らかにされている。こちらの方が特に物語全体に関わることだと思われるのだが、記憶が薄れているところもあり、もう一度読み直さないといけないなと思う。時間があるかどうか。
***
昨日は23日にKindleで値下げの告知があったので買った林智裕「正しさの商人」(徳間書店、2022)を少しずつ読んでいた。(もう元の価格に戻っている)
私は基本的に文字の本はなるべく紙の本を買うようにしているので、これはいい機会だと思って買ってみたのだが、やはり読み慣れないなとは思う。
さまざまな流言蜚語や誤った情報が流されるだけでなく、社会全体がそちらの方に流されてしまった例として、作者さん自身がずっと主体的に取り組んでいる福島第一原発事故後のマスコミやリベラル政党・文化人たちによる「風評加害」だけでなく、子宮頸がんワクチンの例や新型コロナワクチンの例などもあげて分析している。
まだ読みかけなのだけど、こういう現象がなぜ起こるかについて、「現代は宗教なき時代だから」ではないか、という指摘がなるほどと思った。
日本でも宗教各派の信者の減少は続いているが、特に新興宗教では3割から6割も減っているのだという。ヨーロッパでもキリスト教会が経営破綻し、移民向けのモスクになっていたりするというのは初めて知った。宗教学者の島田裕巳氏によればそれは死生観の変化によって死後の救済を信じなくなったからだとし、著者はそれをそれが故に人々の生への執着が強まり不安が高まっていると言えるという。
その結果、「安全・安心」の美名の元に安心を求める人の需要に応えるために、ないしはそれに漬け込んで、その「救い」は野放図に多様化細分化し、奇妙なカルト的な「救い」が現れてきているという。
それはマックス・ウェーバーのいう近代社会の「脱魔術化」によって人智を超えた神の加護というよりどこりを亡くした人々が「再魔術化」を求めるようになり、「情報災害の一因である流言やフェイクニュースが生まれる一因になっている」と指摘する。これはなるほどと思った。
実際のところ、東日本大震災以降明らかに化学やそれまでの自然保護の実践などに基づかない奇妙な言説や実践の例が報告され、その分野に関わってきた人たちが大慌てでそれを否定する、みたいなことがしょっちゅう起こっていた。
現代の処理水の放出問題なども、明らかに非科学的なレベルのこだわりから反対する人が多く、それを朝日新聞や東京新聞などのマスコミ大手がバックアップしている(時には主導したりしている)ことが多いのも、「人智を(つまり科学を)超えた救済」を求める人々の集団ヒステリー的現象と考えると理解はしやすい。「NHKに受信料を払わないことが正しい」とかよくわからないスピリチュアルな主張をする政党が国会に議席を持つようになってきたのもそういう「人智を(つまり常識を)超えた救済」を欲しがる人が増えた、再魔術化現象とみればなるほどと思う。
これは行き過ぎたフェミニズムやLGBT運動がキャンセルカルチャーや「人智を(つまり性別観念を)超える正義」を主張することとも共通した現象のようにも思われる。こういう文化(つまり人智)破壊こそが救済なのだ、という千年王国的というかラダイト運動的というか焚書坑儒(ヴァンダリズム)的な動きみたいなものが強まっているという懸念は強く感じる。
私は科学者ではないので科学を全面的に信頼しているわけではないけれども、伝統とか文化というものを大事にしたいとは思っているので、そういう人類が築き上げてきた「智」を破壊することによる救済・正義の実現みたいなものは押し留めるべきだと思う。科学者と人文知の専門家はなかなか共闘することができない(人文知の側は科学・技術の加速度的な進展に疑問を持ち、科学の側は人文学の非科学性を信用しない)のだけれども、「人類の築き上げてきた智の体系を守る」という点において、共闘はできるように思うし、またその断絶の出発点である「理系・文系の峻別」みたいな教育のあり方を見直していく必要はあるように思う。
戦後のある時期までのある意味での文系理系のバランスの取れた発展は、おそらくは旧制高校の教養主義にあって、文系も理系もお互いにその教養を大切にしあっていた部分があるように思う。そうした伝統をもう一度考え直すのも悪くないのではないか。
まあそんなことを読みながら考えた。
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