「2.5次元の誘惑(リリサ)」139話「淡雪」を読んだ:「夢を諦めた虚無感」と「コスプレを利用した罪悪感」に苛まれるトップコスプレイヤー

Posted at 23/06/10

6月10日(土)薄曇り

今日は時の記念日。確か、日本書紀の天智天皇の時代の記事に、6月10日に漏刻(水時計)を作らせたというのがあって、それが由来だったように記憶しているが、そういう記念日は歴史を感じさせて良いなと思う。

昨日は午後から仕事でかなりやることが多くて忙しかった。仕事から帰ったのが夜10時半を過ぎ、夕食をとってから少しゆっくりしていたらもう12時になって、今日は「2.5次元の誘惑(リリサ)」の更新日なので寝る前に読もうかなと読んでしまったら、案の定なかなか眠れなくなり、一度寝たが起きたのが3時過ぎでこれはヤバいともう一度寝たら4時半は過ぎたのだが、それでも結局4時間くらいしか布団の中にいないので、今日はちょっと慎重に過ごそうと思っている。

https://shonenjumpplus.com/episode/4856001361316991020

「2.5次元の誘惑(リリサ)」139話「淡雪」を読んだ。

以下ネタバレがかなりあるのでご承知おきください。

読んでからしばらくいろいろ考えて眠れなくなったわけだけど、「淡雪エリカ」のモデル担当、ユキの心の地獄、身につまされたからだなと思う。自分のやりたいことではないことで認められてしまった時の居心地の悪さからどうしても抜け出せず、自分を取り戻すためにはコスプレをやめなければならないと思い詰めている、ということかなと眠る前は考えていたのだけど、投稿されているコメントを読んで、起きてからもう一度読んでさらに考えた。

今回はユキの過去編なのだが、みんなそれぞれまちまちな感想があって、それでもその深刻度の深さは誰もが感じているという感じ。

私が最初わからなかったのは、ユキのいう「安っぽい感情」というのが何か、ということなのだけど、読み返してみてそれはつまり「何者かになって」「みんなを見返してやりたい」という思いだったのだと思った。同窓会に出る、というのがまず成功した自分を見せつける目的だったと思うのだが、そこで「自分をバカにした奴ら」がそれぞれ自分の足で立って生きてることを知り、自分のことを全くわだかまりなく賞賛してくれるのを見て、見返して満足するどころか自分は何をやってたんだろうという気持ちになってしまったのだろうなと思った。

成功したらいいとか悪いとかではなく「自分自身は何も実現していない、エリカの夢を形にしただけ」と思ってしまった。そしてそれで名声を博したこと自体、本当に心の底からコスプレが好きでやってるリリサたちに対して申し訳ない、自分はコスプレを「自分をバカにした奴らを見返すため」だけに「利用」してしまったんだ、という後悔に苛まれているのだと思う。

純粋すぎるといえばそうだし、罪の意識が強すぎて、「馬鹿にしたヤツらを見返したい」と思った気持ち自体を否定している。

実際には夜姫もそうだし753もそうだし、ツイッターで見かける実際のレイヤーさんたちのつぶやき見てたりしても、「みんなを見返したい」という気持ちは多かれ少なかれ持ってることが多いと思う。というか、クリエイターには多かれ少なかれ誰でもあるのではないだろうか。コメント欄を見ていると先鋭的なエリカやユキの発言を嫌って今は穏やかなまゆり先生を褒めているものも見かけるのだが、彼女も現役の時は「ただやりたいだけ」ではなかっただろうと思う。四天王の中では一番純粋に楽しんでいた人だろうとは思うけれども。

だから「見返したい」という気持ちそれ自体が悪いわけではない。だけどそれを実現するための努力が夜姫や753には孤独なものとしてあったけどユキはエリカのやりたいことを実現するプロ的なモデルとして活動して成功した。つまりそれを実現できるならそれはコスプレでなくてもよかった。あとで語られるがユキは「自分のやりたいこと」が本当にはあった(絵を描くこと)のに、それを棚に上げて活動して評価されることで、自分のやりたいことが評価されたわけではないという「満たされなさ」に苦しむことになったのだろう。

モデルとして活動することが自分のやりたいことだったら、もちろんそういう人もたくさんいるわけだし、それでよかったはずなのだが、「夢を投げ出した罪悪感(ないし虚無感)」に耐えきれなくなったということなんだろうなと思う。だから「本当はずっとやりたかった絵を描くこと」に改めて向き合いたいと思った(実際作中にもカラーで出てきてサブタイトルにもなってるユキの日本画作品「淡雪」は本人の低い評価と裏腹に素晴らしい出来栄えで、読者の多くが感動したコメントを残していた)のだけど、そうなると今度は「コスプレを利用していた」というもう一つの罪悪感に囚われて、そのことを言い出せずにいるということなのだと思う。私自身もこういう「罪意識の自縄自縛」にハマりがちなのでユキの苦しみはよくわかる気がする。

もちろん客観的に見たらそれだけの成果(テレビの取材を受けて日本一のコスプレイヤーと言われ、美大の同期で1番の年収を稼ぎ出したこと)が出せたことはすごいことだし、ここで区切りをつけて今度は「本当にやりたかったこと」に取り組めばいいだけだと思うのだけど、リリサが「コスプレへの思い」と「奥村への思い」との狭間で苦しんでるのを見て、つい自分のことを言ってしまったということなのだろう。

コメント欄にもいくつも「リリサの悩みとユキの回想はちぐはぐではないか」という指摘があるのだが、私もユキの話はリリサの「やりたいこと」と「恋愛」と「友人への想い」というそれら全てを成り立たせることができるのか、あるいは全てが崩壊してしまうのではないかという「怖さに耐えている苦しみ」とではズレがあると思う。

ユキの語りも、実際にはエリカの奥村へのアドバイスと同様、「天才であるが故の暴走」みたいな面はあるのだと思う。エリカが発想の天才であると同様、ユキがその発想を現実化する天才であったからこそ「淡雪エリカ」が成り立っていた、というのはこの話の世界では事実だと思う。

しかし、そう考えるとこういうリリサ・奥村・エリカ・ユキの「悩みの複合体」みたいなものが一体どういう話に昇華していくのか、また奥村への思いを募らせている美佳莉や、奥村を思っているアリアやまりなが揃ったことで、一体どういう展開がこれからあるのか全然見えてこなくて、だから次回奥村がリリサに何をいうのか、それに応えてリリサがどう行動するのか、先が読みたくて仕方がないことになっている。

2週間待ってようやく続きが読めた、と思ったらあっという間に読んでしまい、また2週間待つのかという感じで、そろそろ結論を読みたいという気持ちはとても強いのだが、まあここはこの作品最大の山場の、少なくともその一つではあるのだと思うし、ある種多少カオスな形で作者さんの想いや言いたいことが溢れ出ているのだろうとも思う。そういう意味では今こういう作品をリアルタイムで読むことは僥倖なわけで、それをリアルタイムで読んでいる幸せみたいなものも感じる。

長々と書いたが、つまりは「早く先が読みたい!」ということなわけで、また他の方々の感想も読んでみたいと思うのだった。

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