フランスから独立したセネガルがインドシナと違い政治的に安定してきた理由/日本語にはbe動詞という動詞はないということ
Posted at 23/05/14 PermaLink» Tweet
5月14日(日)曇り
早朝は雨が降っていたが、今は止んでいる。予報では、午後や夜には雨が降りそうだが、自分の行動にあまり影響が出ないといいのだが。
「岩波講座世界歴史18アフリカ諸地域」で正木響「植民地経済の形成とアフリカ社会 仏領西アフリカ・セネガルを中心に」を読んだ。これは面白かった。
列強がアフリカに植民地を獲得する際、最初に河口部の首長と協定を結んで橋頭保を確保し、そこから川をさかのぼって内陸部に領土を獲得する戦略をとったという。だからガンビア川の周囲は英領になり、周りのセネガルは仏領になって、植民地支配の形態の違いから現代でも別の国家になってしまっていると。
これはわかりやすいなと思った。現代でもサハラなど砂漠の国境線は直線だが、熱帯地方はちゃんと曲がっているわけで、河川が軸になってると言われたらよくわかる。特に西アフリカの沿岸はいくつも縦長の国が並んでいてどういうことだろうと思っていたのだが、それを知れば納得できる。コンゴ民主共和国など、海岸線は全国境線の0.3%しかないが、広大なコンゴ川の流域の大部分を占めている。流域ごとに国家が形成されたということだろう。
ナイル川やニジェール川のような長大な川になると上流・中流・下流といったそれぞれの地域に植民地が成立しているが、これも川筋で考えれば基本的にはいいのではないかと思った。
ニジェール川の場合で言えば、フランスの西アフリカ支配の拠点はセネガルだが、セネガル川をさかのぼって分水嶺を超えてニジェール川流域に出、マリ・ニジェール・チャドと領土を獲得したということだろうか。ニジェール川の河口はナイジェリアにあるが、これもフランス語読みすればニジェールなので、つまりニジェールと同じ名前の国である。河口から遡って領土を獲得したイギリスと上流から下って領土を獲得したフランスがニジェール・ナイジェリア国境で分け合った、ということなのだろう。
フランスがセネガルに進出した時の拠点はセネガル川の河口の砂州上に築かれたサン・ルイという都市で、フランス領西アフリカの首都にもなったが、首都は1902年にダカールに移された。ダカールはフランスの奴隷貿易の中心都市で、主に中南米カリブ海地域に運ばれた。奴隷船が出航するのは18世紀は主にナントだったが、19世紀にはボルドーが中心になったという。
アフリカのフランス植民地は1895年に「フランス領西アフリカ連邦」に組織され、所管が海軍省から植民地省に代わり、軍政から民政に移管された。連邦・植民地(現在の国レベル)・セルクル(旧王国)はフランス人の行政官が治め、カントン・村のレベルは現地の首長が採用された。セネガル人を組織したセネガル歩兵部隊」が作られ、魅力的な制服に軍装が与えられたこの部隊には若者に人気で、彼らは植民地征服の先兵となった。
現地人や外国人傭兵を採用して部隊を作るというのは今でも外人部隊(エトランジェ)があるように、何かとてもフランス的な感じがする。ある種のフランスの理想の担い手でもあり、当然ながら現実的な軍事力でもあった。フランス外人部隊はナポレオン戦争で多くのフランスの若者が死んでしまったために兵士が不足し、七月革命前から始まったアルジェリア征服戦争のために七月革命後の1831年に創設された。本部は1962年のアルジェリア独立までアルジェリアにあった。
サヘル地域にはフランスが植民地化する以前からウスルーと呼ばれる通行税・関税があり、スーダン植民地(現在のマリ)を創設した直後から国境線をこえるキャラバンに課税したと。この税収はスーダン植民地全体の税収の4分の1を占めたという。
現地のモール人商人はフランスの求めるアラビアゴムの対価にギネ(約1mx15mの藍染綿布)を求めたため、フランスはインド植民地(ポンディシェリ)でこれを生産し、セネガルまで運んで対価としたという。ギネは事実上の通貨(10フラン相当)として流通していたという。
1888年の海軍省への報告によると25万フラン相当の通貨を内陸部に運ぶのに5フラン硬貨であれば1250kgなのにギネを持ち込んだので34tになったという。結局植民地政府は現地での納税にギネを認め、これを現地での支出に使うようになったという。
ただ時代が下り、第一次大戦後には納税において植民地通貨の使用が強制されるようになったのだが、十分な流通のない地域では通貨が高騰し、農産物が買い叩かれるようになった。この辺りは意図的に通貨流量を減少させて農民を窮乏化させた松方デフレと同じことが起こっていたわけだ。
植民地において政府へ協力する現地人の存在は社会の分断を招き、独立後の国家形成に障害になる場合が多いが、セネガルでは独立後も安定している。これは議論の対象になっているのだという。
これは私も読みながらWikipediaを調べていて、独立後に非常に安定した政治運営が続けられていることに驚いた。「世界のともだち セネガル」を読んでいても平和そうだし、公用語は今でもフランス語なのだという。
こうした政治の安定の理由にはこの論文では二つの仮説が示されている。一つは農民が落花生生産に従事し収入を得たので極端な富の偏在が避けられたこと。二つ目は植民地政府に協力的だったスーフィー教団が中間組織として社会関係資本を担い、大衆のアトム化を阻止して社会の安定に寄与したこと。「世界のともだち セネガル」を読んでもセネガルはキリスト教とイスラム教が共存しているようだが、そういうことかなと思った。
一般にフランス植民地は独立も困難だし独立後も戦乱が続くことが多いとされ、インドシナやアルジェリアの例が挙げられることが多いが、セネガルは当てはまらないわけである。イギリス植民地はそれが少ないというが、アメリカ独立戦争米英戦争、やインド・パキスタンの分断、スエズ戦争など例がないわけではない。ネットを見ていても、フランスを貶めイギリスを称賛(ブリカスという表現に現れる屈折した形であれ)する言説が多いけれども、全てがそれで説明されるわけではないというところには注意が必要だと思う。
独立後のセネガルの安定した政治運営については、19世紀後半において「非欧米世界でなぜ日本だけが<近代化>に成功したか」という問題と共通するものがあるのだろうと思う。どちらも理非にあまりこだわらずに欧米文明に対して積極的だったこと、事実上の宗教的権威が安定していて人心がアトム化しなかった、ということではないだろうか。貧富の差については明治以降大きくなった面もあると思うし、高度成長後までそれは解決はしていない(最近は再び拡大しつつある)が、セネガルについてはもう少し勉強しないとよくわからない。
いずれにしても、この論文はとても面白かった。
***
日本語にはbe動詞に当たる言葉はない、という当たり前の事実を昨日突然認識した。日本語で「私は学生です」は順に「名詞・助詞・名詞・助動詞」なわけで、日本語の「〜は〜だ」という文型には「動詞がない」。しかし英語ではI am a student.になるわけで「代名詞・動詞・冠詞・名詞」の順になる。
しかし、be動詞を「〜は〜です」という「意味」だ、と覚えてしまうと、「彼「は」テニスをします」がHe 「is 」play tennis.に なってしまう。どこかの時点で「be動詞に当たる言葉(動詞)は日本語にはない」「英語は(基本的に)動詞が(一つだけ)必要」ということを徹底しないとこの間違いは直りにくいのだと。
実際には日本語は名詞に助詞・助動詞がわちゃわちゃくっついていく「膠着語」で、英語は一つ一つの単語が独立して変化する「独立語的な屈折語」だ、日本語と英語はことばの成り立ちが違うのだ、ということも理解できた方がいい。最初の段階でつまづいている子供にはここがブレイクスルーになる子は多いのでは。
できる子、頭のいい子というのはなんでも柔軟に受け入れていくのでそういうところではつまづきにくい。だから周りも何が難しいのかわからないうちに場合に応じて丸暗記したり理屈は通ってないけどそういうものなんだろうで片付けていき、どこかで急に行き詰まったりする。
しかし融通のきかない子、愚直な子と言うのは逆に自分の理解した通りに書こうとする。be動詞が「〜は」という意味だと覚えてしまったら、He is play tennis.のどこが間違っているのか理解できない。なんとか矯正できても「英語は理屈が通らない言葉だなあ。覚えるしかないなあ。」と思うようになる。
というのは、中学生の時の私がそうだったからで、三単現のsとかしょっちゅうつけ忘れていたし、高校になっても長いthat節が主語の時などかなりの確率でつけ忘れた。理屈が分かってなかったし、理屈が通っていること自体もわかってなかったからよくわからないけど間違えた、みたいになっていた。
英語ができないために相当なハンデを負ったことはすごくあり、今でも中学の英語教育が文法を「ちゃんと」教えないことには強い疑問を持っている。まああらゆる傾向の生徒に対応することは難しいし、それが一斉教育の限界でもあるわけだけど。
特に指導要領が変わり、小学校から中学校への英語教育の接続が混乱している現在、英語ができなくなっていく子供はとても多いと思うし、学校でも対応が大変だと思う。一番問題なのは小中連携の悪さなので、ここはなんとかした方がいいと思う。
***
厳密に言語学的にいうと、主語と述語を結ぶ品詞をコピュラ(繋辞)と呼び、日本語では助詞・助動詞、英語ではbe動詞がそれに当たるという。アラビア語・ロシア語・インドネシア語にはコピュラがないか、あっても使わない場合が多いというわけである。
だから厳密に言えば英語の「be動詞」は「は・です」という助詞・助動詞ということになるが、この教え方では英語の原則と言っていい「一文(一つの節)に(基本的には)必ず動詞が一つある」ということを徹底させられない。子供は複雑な概念よりも自分の理解を優先させるからだ。
まあこのとりあえずの教え方みたいなのが「掛け算順序問題」みたいな弊害を呼ぶのはあるのだが、「とりあえず今の段階ではこう考えて、こういうふうには考えないようにしてくれ」というのは便宜上妥当な考え方だとは思う。
こういうのは言語を修得する場合の難易度にかなり関わってくるので、言語一般について日本語からの習得のしやすさについてまとめたものがあるといいかなとは思う。どうしても必要度が高いものから習得せざるを得ないし、第一歩が英語になってしまうのはある意味仕方がないのだが。
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