「アフリカ史の挑戦」:人類史における非合理性・感情や狂気の問題をどう評価するか、など
Posted at 23/04/25 PermaLink» Tweet
4月25日(火)晴れ
今朝の最低気温は0.4度。マイナスにならないで済んだが、4月下旬でもまだ寒い時は寒いな。1月や2月に比べれば燃料費は減ってはいるが、まだまだストーブをつけている時間がある。今朝もゴミを捨てに外に出た時、ウールのジャケットでなくてダウンを着て出たら暖かくてまだこういう季節なんだなと思ったり。最高気温の予想は15度。衣替えはまだ無理だ。
それでも季節は確実に移り変わっていて、うちの庭先でももう花海棠が終わってツツジやサツキ、あやめが咲き始めた。春紅葉も綺麗に紫蘇のような色の葉をつけている。これが夏になると青々としてくるのも不思議だが、うちの先祖の派手好きみたいなことの一環なんだろうなと思ったり。
***
「岩波世界講座18アフリカ諸地域」の「展望」の論文の二つ目、「アフリカ史の挑戦」をなんとか読了。アフリカ史というものはこちらが基本的な知識がないのでいちいち勉強だなと思いながら読んでいて、読むよりもネットで関連事項を調べている時間の方が長いくらいなのだが、後半は「ユネスコ版アフリカの歴史」について書かれていて、それ自体をめぐる諸問題についての話がいろいろ考えさせられた。
このプロジェクトはアフリカ人が中心になって進められ、「アフリカの視点」が大きく取り入れられているのだが、そのバックボーンを成す視点や思想、方法論的枠組というものが、いろいろ批判されたりしていて、それ自体が現代における問題設定というものになっているのだなと思う。
第一の枠組は「内部からの視点」、つまりアラブやヨーロッパなど外部からのアプローチで歴史が動いた、という視点ではなく、アフリカ人自身がどう動いていたかということを重視する視点ということになる。しかし例えば現代史を植民地と内側と内部の複雑な権力の力学を明らかにするポストコロニアル理論で批判しようとした著者に対して、もっと植民地主義批判でいけ、のような方向性が強要されたりすることにもつながったという。
第二の枠組みは「全一性の視点」、つまりエジプトや北アフリカまで含めた中でアフリカを記述しようとする試みで、これはパンアフリカニズムの強い影響によるもので、それに対する反発もあったという。
第三の枠組みは「主体性と抵抗の視点」になるが、これが一番興味深かったのだけど、「初期抵抗」という概念があり、南アフリカの「コーサ人牛殺し事件」やナミビアのホッテントット蜂起=「へレロ・ナマ虐殺」などの例が挙げられている。前者は預言者の「牛を殺し穀物を焼き尽くせば死者が蘇って白人を海に追い落とす」という指示に従ってそれを実行したために大量に餓死した。後者では「魔法の水を塗ればドイツ軍の銃弾に当たらず液体に変えてしまう」とやはり預言者が言ったために数十万人の犠牲者を出した(マジマジの反乱)というのがあったそうだ。
この初期抵抗をどのように評価するか、というのが問題になったということで、これが「主体性と抵抗」と位置づけられるのか、と問いかけられた。前者は人民寺院のケースを、後者は義和団事件のケースを思い起こさせるが、こうした非理性的に見られる現象を歴史においてどう評価するかはまだ難しい面がある気がする。
また、こうした西欧的視点から見れば「未開・野蛮」に見えるような出来事がアフリカ史には(アフリカ史だけでは本当はないが)多く見られるわけだが、このユネスコ版ではそうした視点は「避けるべき」とされたようで、ペイガニズム(邪教・異教徒)・フェティシズム(呪物崇拝)・アニミズム(汎霊説)などの用語は使用が禁止されたのだという。この辺になると行き過ぎの感もあるが、それらの概念が差別的に用いられてきたこともまあるのだろうなとは思う。しかしそこに価値を置く考え方もあるわけだし、こうした話は日本やアジアの歴史を見直す上でも刺激的なので、それらの概念を否定しないで考えていきたい感じはある。
こうした思想が例えばアフリカ人やアメリカ黒人、ヨーロッパの黒人の間に様々な影響を与えたといい、その例としてアフロセントリズムやネグリチュードの例が挙げられている。前者はアメリカで起こった思想でアフリカ人の卓越性を主張し、西洋古典はエジプトの影響の下でアフリカ人(黒いエジプト人)によって生まれた、という文化的権力関係を逆立ちさせる思想だそうだ。
私は前のエントリにおいてパンアフリカニズムと勘違いしたことを書いてしまったが、要は「クレオパトラを黒人が演じる」というのはこのアメリカ起源のアフロセントリズムの表れと解釈することができるわけで、この思想への反発ということになるのだろう。
ネグリチュードは西欧的理性から嫌悪され否定されてきたもの、狂気や感情、非合理を全面的に賛美する運動で、1930年代にパリに留学していたセゼールやサンゴールらによって言語化されたのだという。1920年代ニューヨークのハーレムルネサンスにおける「ニューネグロ」も同様に「洗練された知的な黒人アーティスト」のイメージに転換させることを狙った「反転」であった、という。
これらは多くの批判にさらされたがサルトルがこれを支持し、「黒人の優越性の主張は経過であって最終目標ではない」、歴史的使命を終えたら自己解体して消滅する、と言ったという。
これに関しては、TERF(トランス排除的ラディカルフェミニスト)とTRA(トランスジェンダー権利活動家)とどちらがより社会に深刻な影響を与えるか、という議論に関してTERFは一時的だがTRAは本質的に深刻な影響を与えるとする議論があったけれども、フェミニズムを「最終的に男女平等が実現されたら消える思想」と捉えればその主張は理解できる。後者がセックスやジェンダーの概念を破壊することを最終的に目指しているなら、文化的な影響の深刻さは確かに大きいかもしれない。
***
昨日は午前中は仕事場や職場の片付けをしたり銀行に提出する書類を書いたりしていたが、午後は母を病院に連れていき、なんだか疲れたので帰りに洋菓子屋でケーキを買って帰った。あまり精神的な余裕がなくていけないが、少しでも頭と心を休めつつ、今やっていることに取り組んでいきたいと思う。
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