「戦争」や「コロナ」という時代の刻印/憲法が本来的に持つイデオロギー性/生活と世界で進む進歩と自由への異議申し立て/「権威主義」にどう歯止めをかけるか
Posted at 23/04/12 PermaLink» Tweet
4月12日(水)晴れ
だいぶ暖かくなってきた。昨日はいろいろ考えすぎていて何をどうすればいいのか困っていたのだが、仕事をして食べて寝たらかなりマシになった。私は日月が休みなので、休みの期間にいろいろ考えすぎてしま雨ということはある。ものを読んだり書いたりする方に集中することで現実的な足場を失いがち、ということもあったりはする。気分転換も大事だが、しっかり足元を踏まえて動くこともまた自分にとっては大事なのだよなと思ったりする。
戦後の保守、あるいは右翼の一つの目標というのは一言で言えば「戦前回帰」というものがあったと思うし今でもあると思うのだけど、それぞれどの部分の戦前回帰を目指すのかというところは違いがあったと思う。また、戦前にどれくらいの期間大人として生きていたかによって何を重視するかの考え方は違ってきたりする。私が都立高校の教員になったのは平成元年だったが、まだその頃には特攻帰りの人とか「今の教育より戦前の教育の方が良かった」という人が現役の教員としていて、その先生方の話を聞くのは楽しみだった。
そういう先生方がどんどん現場を去り、いわゆる団塊の世代が年齢的な、また立場的な上層部を占めるようになると、この世代は組合の組織率も高いのでそうした雰囲気が強くなった。団塊の世代というのは「戦争を知らない子供たち」の世代であり、戦後ネイティブ、民主主義ネイティブの世代であって、上の世代の「古い価値観」を打ち破り、左派優位の言論空間を作って行った世代だ。もちろん戦前生まれの左翼の人たちもいるが、一つ上の少国民世代=教科書墨塗り世代や、戦後すぐに無軌道な行動をして問題になったアプレゲール世代ということになる。その上になるとほとんどが戦場を経験している戦中派や、その上の必ずしも兵役を経験していないオールドリベラリスト世代、さらに上が上層部が公職追放されて自分たちが中心にならざるを得なかった三等重役世代、という感じになる。戦争の時代にどの年代だったかによって世代分けがかなり違うことになる。これはコロナ禍でもそうだが、時代の刻印というものだなと思う。
団塊の世代は戦争は経験していないが学生運動の中心になった世代で、人数的にも多いから社会的にも影響力が大きい。現在の70代が大体この世代になるだろう。戦後の古い時期の保守というのは頑固で古い考えだが頼りになり存在感のある父親、という感じだった。つまりは「家父長」ということだけれども、そうした父親像も団塊の世代になると自由気ままなお父さんになり、我々の世代では優しいパパになり、今では父親である前に子育てにも主体的に関わる夫、という感じになってきている。
欧米でも保守の担い手が中高年男性から比較的若い女性がリーダーなところも増えてきていて、必ずしも保守=家父長という感じでもなくなっている感はある。
2023年現在で、自らを保守と考えている人の中で、戦前体制に戻したいと具体的に考えている人はそんなに多くはないだろう。戦後体制や現在進行中のさまざまな事態がいろいろな面で問題があるにしても、戦前もまた問題があった体制であることは間違いないと思う。本当は憲法もその場その場で作り替えられる柔軟なものであった方が時代には適合しやすいのだが、帝国憲法は56年間、日本国憲法は73年間、一度も改正されていない不磨の大典になっている。
「国家神道」を読んだ今考えてみると、帝国憲法もまたそうした神道国教(非宗教)体制の一部と捉えられる分けで、ある意味では信仰し拳拳服膺すべきものということになるから、変えるということ自体が「国体の変化」を意味するということになってしまうという認識があったのだろう。また現在の左翼の人々が「憲法を守れ」というのは憲法をよりどころでありよすがにしているということで、ある種の信仰対象になっているからその聖典を変更するのはあり得ない、ということになっているのだろうと思う。
憲法をめぐっては同性婚法案などに対しては「両性の合意のみによって成立」という男女の結婚以外は違憲、という主張の根拠になっていたり、どちらも攻防に使われているのが最近の新しい事態とは言える。
憲法というものはどこの国でもそうだしあるいは国際機関の憲章などでもそうだけれども、一定のイデオロギー性は持っているので、その元になる主張を検討して国の進むべき方向を決めていく必要はある。
戦後日本は高度経済成長を成し遂げたが、その原動力の一つは人々が「便利になる」ということで科学技術の進歩を歓迎し、その購入を目標にして勤労意欲を高めて働いていた、ということが大きかったなと思う。現在では科学技術の進歩は必ずしも「便利になる」という方向だとは限らず、簡単に店で現金で買っていたのがeコマースでIDやパスワードやクレジットカードの番号を入力したりしなければならなくなったり、またその個人情報が盗まれたりと、かえって複雑で不便になっている面もあり、「技術が進歩すれば快適な生活になる」というコンセンサスがあまり成立しなくなっているのもなんとなく日本で産業が停滞している理由なのではないかという気がする。
経済的不平等が克服されたという幻想のもと、現在ではさまざまな少数者=マイノリティの不便や差別を解消する方向に動いてそれが進歩だと考えられているが、それらは多数者=マジョリティの負担のもとで成り立つという面もあるし、また伝統的で常識的な観念に打撃が与えられて個人や社会が不安定化するという側面もあるから、そうした面で保守的な考え方をする人が多くなっているということもあるだろう。
冷戦時代は自由主義(資本主義)対社会主義というわかりやすい対立構図になっていたけれども、どちらも進歩主義であることには違いなかったのが、冷戦崩壊後はまずユーゴ紛争など民族主義が起こり、イスラム原理主義が起こり、キリスト教原理主義や白人右翼の運動が起こり、中国やロシアが「権威主義」化して、インドや東南アジアの諸国が経済的に発展するとともに冷戦で勝利したはずの「西側」の価値観を受け入れない諸国が増えていて、ウクライナ戦争という権威主義国と西側の間の破局が起こってからもアフリカでは旧宗主国のフランスの影響力を離れてむしろロシアとの繋がりを深める諸国が増えるなど、それぞれのアイデンティティを主張してグローバルに権威主義の力が高まり、相対的に「西側」の価値観が低下していくという側面も出てきている。
これらの一つの理由にはフェミニズムやLGBTの運動に対する強い反発があるのではないかと思うのだけど、自由主義が建前の諸国でそうした運動が進展し、それを世界に押し付けようとすることでより多くの国々からの不信を買っている、という側面があるように思う。
私自身はこうした運動と自由主義が心中することはあまり良くないと思うのだけど、自由主義を建前とする以上、「歯止め」をかけることがそう簡単でないだろうこともわからなくはない。
まだこの先の処方箋については自分もよくわからないのだけど、西側=自由主義諸国が保守というものの価値を見直すことでより世界的に多くの支持を得ることは可能になると思うし、非人道的なやり方が一般化している権威主義国の体制強化につながらないようにしていくことは重要なことだと思う。
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