「保守の見取り図」再考
Posted at 23/04/11 PermaLink» Tweet
4月11日(火)晴れ
昨日は午前中に神保町に出かけ、古書で吉行淳之介の対談集「拒絶反応について」(潮出版社、1978)を書ったのだが、これは文体論についての作家同士の対談で、面白そうだったので買ってみた。書泉グランデで古神道の本を少しみて、面白そうなのがあったのだが後で買うことにした。そのあと文房堂の喫茶室でフルーツタルトとコーヒーを注文したのだが、窓から見える三省堂本店の工事風景がシュールな感じがした。そういえば、工事が始まってから工事をやっている当日にここから眺めたのは初めてかもしれない。
大手町の成城石井で弁当を買って家に帰り、少しいろいろやったあと帰省の準備をし、2時半頃に出発。丸の内の丸善で仕事の本を買い、古神道の本を探したのだが先ほど見たものは見つからなかったのでAmazonで注文した。東京駅で弁当を買い、新宿に出て特急に乗車。特急の中ではずっとiPadで「フットボールネーション」を読んでいた。この作品はフィジカルの考え方が面白いのだが、単純にストーリーが面白いということもある。6時過ぎに地元の駅に着き、少し作業場で整理をした後自宅に戻って食事、「フットボールネーション」を既刊17巻まで読み終えてから寝た。
9時ごろ寝たので1時ごろ目が覚めてしまったのだが、トイレに行ってからもう一度布団の中に入り、4時ごろまでうつらうつらする。村上重良「国家神道」を読み終えて、頭の中がだいぶ組み変わった感じがあり、保守についての見取り図をもう一度書き直してみようと思って少し図を書いたりした後、ゴミを捨てに行ってから車で出て、柴田英里さんのフェミニズムと性表現の関係をめぐる論考が掲載された「実話Bunka超タブー」を見つけに出かけたのだが、コンビニを2軒回ったが見つけられなかった。2月に出たものは入手できたのだが、今回のはまだ見かけていないので、しばらくコンビニに行ったときには見てみたいと思う。
***
以前「保守の見取り図」というエントリを書いたのだが、近代的な意味での保守と古くから、古層からの保守という形で分類し、また現実的な保守と倫理としての保守という形で二つの軸を設定して考える、ということを素描してみた。
https://note.com/kous37/n/nb3d4a4c74914
近代的な保守、というものについての考え方、「自助を重んずる」「経済重視」「統治の安定重視」「国防意識が高い」ということについては今も基本的にそんなに変わっていないのだが、「自助」と「経済重視」に関しては社会主義・共産主義勢力に対抗することから特に強調されている面があり、「統治の安定」は「革命・改革」を求める進歩主義勢力に対抗する意味が強い。「国防意識」は特に日本で保守の特性として強いのだが、これは戦後の空想的平和主義に対するリアリズムとしての国防意識であり、最近は権威主義国のロシアや中国の軍備強化に対してリベラルな立場から再検討を求める動きも起こっていて、この辺りは見ていきたいと思う。
また前回は古層的なものに入れた「生活保守主義」だが、これは統治や社会が安定している国・地域においてはむしろ普遍的な現象と考えるべきで、近代や古層というよりは超時代的・普遍的な現象と見るべきではないかと考え直した。
一方「古層からの」保守思想というものに関していうと、日本の場合は明治時代に成立し終戦まで続いた国家主導による「神道国教(非宗教)主義」というものを中心に考えるべきではないかと思った。これは要はいわゆる「国家神道」なのだが、これについて読んでみて、だいぶ解像度が上がった感じがする。
この辺りを踏まえて、再度「保守の見取り図」を素描し直してみたいと思う。
戦前になぜ国家神道というものがあったか、必要とされたかというと、これは明治国家が明治維新によって成立したある種の革命政府=明治維新政府だったから、ということなのだろうと思う。革命政府は指導原理、指導イデオロギーを必要とする。これはロシア革命や中国革命はいうまでもないが、フランス革命でも「自由・平等・友愛」というルソーや人権宣言の思想があり、名誉革命においても成立当初はロックの市民政府論が、またフランス革命によってイギリスが批判されるとバークの保守主義論、「フランス革命についての省察」が擁護の役割を果たした。明治維新は徳川家の武家政権を打倒して朝廷=天皇の下に新政府を作るという巨大な政変だったわけだから、当然ながらそれを正当化するイデオロギーを必要とした。
維新までその原動力になったのが開国論をはじめとする西欧新知識を持った人々の開明思想以外には平田國學=復古神道の担い手の人々による國學理論や日本化した儒教とも言える水戸学の考え方であったわけだが、維新政府成立後はさまざまな紆余曲折を経て、「祭祀と宗教を分離」し、一般宗教たる仏教諸派、教派神道、黙認されたキリスト教とは別に、皇室祭祀・皇室神道を軸に中身を大幅に入れ替えた神社神道を大教=国教とする形で「祭祀であって宗教ではない」国家によって大幅に統制された「神道」が「国の指導原理」ということになった、と考えていいのだろうと思う。実質的には民法特に「家」をめぐる制度や「教育勅語」の思想などにおいては江戸時代以来の儒教の考え方も大幅に取り入れられているわけだが、明治における儒者の果たした役割というものについてはもう少し調べてみないといけないなと思う。
だからここで成立した神道はまず明治政府の正当性・正統性を保障するもので、そこに民衆強化の手段として農耕儀礼等を大幅に取り入れ、農村の村落共同体の保守主義と親和的な部分を作るなど、さまざまなものを取り入れて神道体制自体を形成していった。
最も重要な部分は国体論、日本は天壌無窮の神勅以来の万世一系の天皇が統治する万邦無比の国体である、という主張であったわけだが、これは敗戦、すなわち丸山眞男の表現によれば「8月15日革命」の際に大きく傷つき、天皇と皇室、その中の近親の皇族の存在は許されたわけだが、天皇を象徴とし政治から厳しく分離した憲法の制定によって従来の国体の主張は否定されたわけで、「国体が護持された」と言ってもだいぶ後退してしまったことは間違い無いだろう。
ただ、「万邦無比の国体」の考え方は日本の素晴らしさを伝えたいということから、いろいろな意味で「日本の良さ」を再発見することにつながった面もあるように思うし、一概に批判するのもどうかと思う。自国を一番と考えるのは世界中に見られる現象ともいえ、それ自体にはあまりこだわることもないようには思う。「日本すごい」論はよく左派の批判・嘲笑の対象になるけれども、商業主義的な部分は行き過ぎもあるようには思うが、実際良いところを知れて良かったと思うことも私などにはある。
もう一つは国のために戦った殉難者を祀る靖国神社や護国神社というの存在に絡み、本来新政府下では関係のない「武士道」=武士の階級としての矜持・道徳が国学によって意義を与えられた「やまとごころ・やまとだましい」の語と合流、混同されて敢闘精神を讃えるややファナティックな美学的ないろどりを与えられたことも挙げられる。ただこの辺りも、今回のウクライナの戦いの中でロシアの攻撃に最後まで抵抗した兵士が讃えられたように、ある程度はどの国にも共通するものでもある。ショーヴィニズム(極端な愛国主義)という言葉がナポレオン戦争で従軍したショーヴァンという人物に由来するように、左右や国に関係なくこうした思想はある。
しかしその結果「武士道」や「やまとごころ」という言葉や概念に対する解像度が下がり、あるいは誤解されるようになったのはやはりいいことではないので、この辺りの誤解を解く試みが近年行われているのは良いことだと思う。
逆に、戦前においても神道国教主義に収斂していかない多くの考え方があったのは事実で、そうしたものがある種のアンチテーゼとして残っているとも言える。その中にはもちろん弾圧されたものもあったが、ある程度はそうした考えと距離を保ちつつ独自の議論を展開した分野もあり、文化的な伝統、芸能などの世界では一定の協力をしつつ自らの伝統が守られていたわけだし、また「民藝」や「民俗学」など、国家的な神道が拾いきれないところから日本のあり方を見ていこうという分野もあった。国文学なども源氏物語など儒教的な国家主義からは批判されても本居宣長の国学以来の伝統が支えになって研究が途絶えなかったところもまたあるだろうと思う。
また、浄土真宗をはじめとする「仏教の復活力」というものもまた目を見張るものがあったと言えるのだと思うが、真宗以外では本来認められていない僧侶の肉食妻帯といった変化もこの体制の中で被ってはいる。また廃仏毀釈でかなりの被害を受けた仏像や仏教建築なども、フェノロサのエピソードに代表されるように西欧的な美学の観点から「仏教美術の美」「仏像の美」という観点から再評価され、「国宝」に指定されるなどの形で生き延びることができたのも明治期の特徴だろう。そのほか、美学論・風土論など神道の考え方と違う形での日本という国の評価がなされていたことは、戦後の価値が転倒した時期にも「日本の良さ」を見失わずに済んだ一つのよすがにはなったようには思う。
少し前、昭和後期の保守論を読んでいて、というかおそらくは現在もそうなのだけど、保守思想にとっては「敗戦」という厳然たる事実がとても大きなものであったということを改めて感じた。我々のような昭和30年代以降の生まれにとってはもうそれは「どうしようもないこと」であり、それを踏まえた上で日本の将来を考えていくしかないと思うしかないわけだが、それ以前の世代にとっては繰り返し悔やまれることであるのだなと改めて思う。
こうしたメンタリティは敗戦時に20歳前後だったアプレゲール世代、10歳前後の小国民世代など、独特の影響を与え、この辺りでは世代論も説得力を持っていたわけだけど、民主主義ネイティブの第一世代であるいわゆる団塊の世代が、現代社会においても大きな影響力を持ったことは記憶に新しい。
明治維新のより徹底的な革命性に比べると、8月15日革命は政府も廃止されず、議会制度は維持され、天皇もその存在を継続できたという点で革命というよりは半革命とでもいうべきものではないかという気がするが、この辺りのところもまたアイデアの素描というべき部分が多く、また考えたいと思う。
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