WBC優勝という栗山監督の偉業:日本の指導者像の新たなスタンダード
Posted at 23/03/23 PermaLink» Tweet
3月23日(木)晴れ
昨日はずいぶん気温が上昇して、暖かい1日になった。今朝も気温が10度を下回ってなくて、久しぶりに暖房なしで寝たけれども全然平気だった。
昨日の午前中は他にやることもあったのだけど、結局野球を見てしまい、久々に野球を面白いと思ったしいろいろなことを考えさせられた。
今回は大谷やダルビッシュ、吉田や邑上、近藤といった才能が今までになく集結した大会になったと思うけれども、それを実現し、また優勝にまで持ってきた栗山監督の手腕というものがやはり注目に値すると思った。
プロ選手のみが日本代表を構成するようになって、そんなに時間が経っているわけではない。最初にプロ出身の監督が日本代表監督になったのは、2003年の長嶋さんが最初だった。これは2004年のアテネ五輪に向けての就任だったわけだが、長嶋さんが急病で倒れ、結局中畑さんが引き継いでオリンピックを戦ったものの、銅メダルに終わった。なかなか最初から前途多難だった。
以下、国際試合における日本代表監督を時系列的に並べてみると、
長嶋茂雄→中畑清 2004アテネ五輪 銅
王貞治 2006WBC 優勝
星野仙一 2008北京五輪 4位
原辰徳 2009WBC 優勝
山本浩二 2013WBC 3位
小久保浩紀2015プレミア12 3位
2017WBC 3位
稲葉篤紀 2021東京五輪 金
栗山英樹 2023WBC 優勝
ということになる。野球というものは、日本において戦前からの歴史を持つ長い球技で、その中でもプロアマ異なる団体だったり、さまざまな対立があって一番一筋縄でいかない競技なのだが、ようやくプロのトップ選手中心のチーム構成になってからまだ20年しか経ってないわけだ。
それを引き継いで代表監督を務めてきたのは、上記のような現役時代に錚々たる成績を残したメンバー。また山本浩二監督まではプロ球団の監督としても実績を残している人たちだった。
日本球界から大リーグに参加するようになったのは歴史は古いけれども、流れができたのは1990年代の野茂英雄投手からだろう。大リーグ、プロ野球、それぞれの参加条件もなかなか難しく、大リーグ機構自体が主催するWBCが始まってようやくどこに所属する選手も参加しやすくはなったが、開催時期が開幕前になったことでシーズンを重視する選手たちは参加を躊躇う例も多くあった。
また王・長嶋のような完全なカリスマならともかく、星野・山本の世代では「無理偏に拳骨」的な指導があったりスタッフだけでなく選手も子飼いで固めたりしてあまり運営がうまくいかなかったチームもなかったとは言えない。優勝が原監督の2009年WBCを最後に途絶え、日本開催の東京五輪での2021年まで復活しなかったのはいろいろな理由があっただろう。
そう考えてみると、野球日本代表=「侍ジャパン」の監督というのは、相当困難な仕事であることは十分に理解できる。
現代の日本代表監督に求められるのは、カリスマだけではダメだし、強権的な指導もうまくいかない。稲葉・栗山両氏のような「兄貴分的なリーダー」がチームの雰囲気を良くするのだろう。今回はダルビッシュがその部分を分担した感じもあり、また投打の中心になった大谷という存在があったことも大きかったが、ここにその両者と関係がつけられる元日ハム監督の栗山英樹氏の起用がバッチリとはまったということはあったと思う。
今回の優勝後、日ハム関係者の写った集合写真がツイートされていたが、びっくりするくらいの人数である。選手でダルビッシュ、大谷、近藤、伊藤の4人。スタッフで栗山監督以下、白井さん・吉井さんはすぐ分かるが城石さん、清水さん、厚澤さんも。そしてブルペンキャッチャーを務めたのがダルビッシュ・大谷・伊藤の球を受けていた鶴岡さんだったというのも知って驚いた。
https://twitter.com/TR_MZDAO/status/1638381825029705728
https://twitter.com/TV_no_Jun/status/1638393900519026689
https://twitter.com/Shinya_Tsuruoka/status/1638499619331031040
信頼できるメンバーをこれだけ固められたというのも栗山監督の人徳という部分が大きいだろう。実際の采配が際立っていたことは言うまでもないが、栗山監督自らがもともと大リーグ志望の大谷を口説き落として日本ハムに入団させると言う前史がなければ、今日のこの優勝はなかったと思われるわけで、この辺りの神がかりぶりもすごいなと改めて思う。
栗山監督は選手としては持病もあって非常に成功した選手とは言えない。規定打席に到達したのは一年だけだし、タイトルもその年に取ったゴールデングラブ賞だけである。本塁打は実働7年で7本。国立大学からドラフト外という経歴でヤクルトに入団し、野村監督の就任によってレギュラーを外されて引退するという、不運もあった。
しかしどういうわけか印象に残る存在であり、その後も解説者等で活躍し、報道ステーションで野球コーナーのキャスターを務めた後、日本ハムの監督になった。明晰な野球理解で期待はしていたが、ダルビッシュの大リーグ移籍の後で大谷を入団させ、そして日本一も獲得するなど、監督としての実績は十分に積んでいた。
だから同じ日本ハムで活躍した稲葉監督の後を受けて日本代表監督になったときはそれなりにやってくれるとは思っていたけれども、ここまで神がかったチーム運営でこうした形での優勝にまで導いてくれるとは思っていなかった。
栗山監督はこの大会で退任するとのことなのだが、稲葉・栗山という路線はこれからも継承して行った方が現代の日本代表というチームカラーにはあっているように思う。
私は保守について研究していて、保守というと雷オヤジみたいなのが想像される人も多いと思うのだが、強権的な独裁者というものが日本史においてうまく行った例はそう多くない。これはロシアや中国、イラクなどの国々が「独裁者でないと安定しない」というのとは大きな違いである。だからと言って親しみやすい政治家が成果を上げるかというと必ずしもそうでもない。
近頃でいえばうまく行った政治家というのは安倍さんのような戦闘的かつフレンドリーで敵は多いが人を惹きつけるタイプ、岸田さんのようなリベラルな風貌でなんとなく人を丸め込みながら周りを出し抜いてキエフを訪問するようなある意味で非常に実行力を持ったタイプ、という感じになっている。小泉さんのようなぶっ壊し屋が持て囃されるときはあったが、彼も人事においては安倍さんを幹事長や官房長官に抜擢するなど、石原慎太郎氏を唸らせるような手腕を見せていた。
フレンドリーだが、実力はかけねなし、というのがやはり栗山監督であったわけで、こうしたタイプがある種日本の指導者の新たなスタンダードになっていく感じがした。
日本代表ファンとしても、北海道日本ハムファイターズファンとしても、大変幸せな1日だった。ありがとうございました。そしておめでとうございました。
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