国家神道という概念の虚構性と見ていくべきことなど
Posted at 23/03/30 PermaLink» Tweet
3月30日(木)晴れ
いろいろやることが多い。それぞれについて何をどう考えていくかを考えるのだが、プランは出てもそれを実現していくための方向性をしっかり詰めていくのはなかなか大変。まあ焦らず一歩一歩進んでいこう。
***
村上重良「国家神道」読んでいる。江戸時代までの、「前史」の部分は読了して、とても面白いし勉強になった。ただ平田神道=復古神道の叙述になるといきなり教条的な説明になってしまうのがどうなんだろうなと思う。学説がいきなりイデオロギー展開に変わった感じで戸惑ってしまう。
教派神道の発生についての説明はとても面白いと思った。江戸時代には学派神道の教義は一般には知られていなかったので、懊悩を抱えた個人を救う(つまり内面的救済)のは仏教の役割だったのだが、幕末には仏教の権威低下(政治権力と近すぎる)と神道教義の普及が見られ、それが新宗教の叢生につながったというのは面白いというかちょっとワクワクする話だなと思った。オリジナルなスピリチュアリズムが爆発的に誕生して、それが神道系の新宗教になったわけだ。
特に、神道講釈師の増穂残口『艶道通鑑』などが神道の大衆化に果たした役割の大きさというのは面白いなと思った。彼は神道家であり講釈師の祖でもあったと。仏教で否定され解脱すべき対象とされる愛欲なども、神道では人間性の表れとして受け入れられる、みたいな。褒められるかどうかは別にして。
新宗教の嚆矢となったのは1802年に開かれた如来教であると。この辺りももう少し調べてみると面白そう。如来教は尾張藩の尋問を受けるなど反体制的な性格を持っていて既存仏教に吸収されるという形をとったが黒住教は封建道徳を説いたので政治権力に融和的で、幕藩体制内で成立した最後の有力教団になったというのも興味深い。
また天理教は当時としてはかなり斬新な教えであって、終末観的な世直しを説く宗教だが、金光教は俗信を退けて個人の内面の信仰を重視する、「神がかり=シャーマニズム」的な面が希薄ないわば合理的な宗教だという。この辺りの教派神道のそれぞれの個性も面白いなと思うのだが、「保守の源流」という意味での調べ方とはちょっと方向性が異なるものになるかもしれない。
明治以降は「国家神道」そのものについての説明になるわけだが、読んでいて思ったのは「国家神道」というのは神道の側から出てきた呼び方ではなく、GHQの「神道指令」で初めて出てきた言葉だというのを知る。これはそういう意味では浸透を解体しようとする側の言葉であって、「天皇制」や「天皇制ファシズム」みたいなそれを解体しようとする側のバイアスがかかった述語なのだということはしっかり押さえておくべきだと思った。
それでは解体しようとする側は「国家神道」の実態をどう捉えているのかというと、これは研究者によって違う感じになっている感じだ。とりあえず共通して指摘・批判されているのは「皇室の神道儀礼」と天皇が「国体」であるという「国体概念」、あとは靖国神社などの「神道儀礼による戦没者顕彰システム」、「教育勅語」や「大日本帝国憲法」などの国家が公認し普及させようとする「国家と人倫の基本的な捉え方」概念、などなので、それらのものの総体を「国家神道」と指しているのかな、という感じである。
神社神道そのものを「国家神道」と見做しているわけではなく、神社神道については「国家神道に動員され再編成された対象」であり、神社神道の信仰そのものは問題ない、という考え方と捉えていいようだ。
だから「国家神道」というものはそういう実体があるというわけではなく、日本の国家主義的な思想の宗教的根拠としてそういうものがあると考え、それを実態に当てはめて理解しようとしたある種の「分析概念」であるのだが、それが占領政策やその後の左翼による「国家主義イデオロギー研究」によってあたかも実体のあるもののようにみなされたある意味幽霊のような概念だと考えていいのではないかと思った。
その捉え方自体が乱暴だし、まず批判ありきから始まっているので中にいるものの「信仰」とか「信念」というものが捉えられているとは言えない。「国家神道」というものを上記のように捉えてみるとこれは「信仰」というよりはある種の「信念」であって、宗教というよりはまだイデオロギーの方に近いと考えるべきだろう。
ただ、「神道」が占領軍の攻撃対象になったことは確かで、当然ながら戦後「神道」や「神社」というものは攻撃を受け、神職の教育機関などもなかなか作られなかったし、天皇や皇室に対するタブーも徐々に失われて行きつつあった。その辺りのことがどうあるべきかを考えるのはまた別の問題だけれども、神社神道や教派神道、或いは国学などの学派神道の歴史を直接的に明治国家のイデオロギー政策と接続して「国家神道の成立」と見做すのは無理があるのではないかと思った。
だから日本の保守を明らかにしようとしていく立場からすれば、そのような批判があったという捉え方は必要だが実態はどうだったかということをもっと丁寧に観ていく必要がある、というものだと思った。
だから、国家神道について考えるべきなのは神道つまり「宗教側の動き」と、国家のイデオロギー政策の変遷、つまり「国家側の動き」をある意味分けて考えていかなければいけないと思う。
基本的に明治以降の歴史は「国家が宗教を統制する」という政策であって、「宗教の側が主体的に国家の成立原理にまで干渉していく」という方向は少なかった。結局は日本は近代国家を作らなければならなかったわけだから、国家にとって都合の良い部分は採用し、そうでない部分は採用しなかったわけで、王政復古の際に「神武創業に帰れ」と唱えた玉松操などの真正復古派は明治政府の近代化方針に失望して政府を離れていくわけで、明治政府首脳の国家概念や人倫概念から遠くかけ離れたような宗教性というものが国家の宗教政策にもたらされるはずはなかった。
特殊な時期があるとしたら昭和の戦前で、国体明徴問題など昭和10年以降に「国家総動員」の方向性の一環として「国民精神総動員」が唱えられて以降のことになるわけだけど、これもフランス革命の際にロベスピエールらがキリスト教(カトリック)に代わる宗教として「最高存在崇拝」を持ち出してきたようなものであって、天皇とか神話とか「国家=天皇のために誠忠を尽くすのが国民のあるべき姿」という教化が目的であったというべきだろう。
これはまあ行き過ぎであったことは確かだが、国家や社会のために貢献することは正しいこと、ということ自体はケネディが「国家が何をしてくれるのかを問うのではなく、国家に何をできるかを問うべきだ」と演説したのと同じく、ある意味市民社会における近代国家においては普遍的な考え方であるから、その辺の個人と公(おおやけ)の関係という大きなテーマの中で考えることであり、国家や社会を重視し個人を否定するのは良くないというそれ自体は間違っていない思想が「国家や公を考えることはファシズム」みたいな感じの極論につながりやすかったのはある種の反動でありその辺は納得のできる保守の思想として展開していく必要があると思った。
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