文系アカデミズムの魔力/古神道研究と様々な方向性

Posted at 23/03/25

3月25日(土)雨

2月から3月にかけて、これまではあまり雪も雨も降らなかったのだが、このところよく雨が降る。天気は人間にはどうにもならないことだけど、気持ちも上がったり下がったり、スッキリしたりどんよりしたりはする。ただ、今なんとなくスッキリしているのは、雨だからではなくて心の持ちようなんだろうなとは思う。心も、意思でなんとか維持しようとしてできる部分と、どうにもならない部分はあるが、まあその辺もまた人間をやってるある種の醍醐味でもあるんだろうなと思う。

国家神道 (岩波新書)
村上 重良
岩波書店
2019-10-24

 

村上重良「国家神道」読み始めた。最初は左翼バリバリの「国家神道」「近代天皇制国家」みたいな言葉遣いで読む価値あるのかなと思いながら読んでいたのだが、宗教の類型分析などアカデミックな部分になると、最初はこれも古い分類わけなんじゃないかなと思いながら読んでいたのだが、だんだん面白くなってきて、なるほどこれがある種の文系アカデミズムの魔力なんだなと思い始める。

恐らくは、何も知らないまっさらな状態で読み始めたら、一生懸命理解しようとして読んで、それでアカデミックな分析の魅力に捉えられたら、なるほどと感動して、著者の言っていることが全部正しいと思うようになる刷り込みが起こるんだろうなと思った。そういうのがあるから、古色蒼然とした左翼的文系学者が再生産されてしまうのだろうなと思う。

しかしまあ、例えば小室直樹や渡部昇一にしても、アカデミックな部分があるから説得力があるわけで、その説得力によって信奉者が再生産されるということにおいては同じなんだろうと思う。そういう意味では積み上げられてきた文系諸学、人文学アカデミズムというものは侮れない。ジェンダーだのカルチャーだのスタディーズ系にはそういう積み上げがないから、最初からどっぷりイデオロギーに浸かってしまい、他の分野の人たちと言葉が通じなくなってしまうけれども、ちゃんとしたアカデミズムの積み上げの成果は、ある意味その学者がどんな思想を持っていても誰にでも利用可能になるわけで、その辺のところをこの本を読んでいて改めて感じた。

私は歴史専攻なので、どちらかというと事実の積み上げというか史料批判的なところに注目して読みがちなのだけど、宗教学などにしても理論構築の面白さがあって、その辺は歴史はやりすぎると唯物史観とかある種のトンデモになる恐れがあるから怖いけれども、ただ認識の枠組みを作るという点では理論構築は欠かせないわけで、時系列的な捉え方が必要な学問とある種空間配置的な理解の方が重要な学問とではその理論構築も方向性が異なってくるなと思った。

私も保守について考えていると、自分が歴史専攻なのでどうしても時系列的な方向で考えてしまうのだけど、実際の保守の構成要素みたいなものを考えて平面的に捉えてみると今まで見えてないものが見えてくるところもあって、自分の中の世界を広げながら描く楽しみがあるが、読み物としても面白く、またアカデミックにもある程度の水準があり、それでいて思想の本であるというレベルに持っていくように考えているので、日々勉強だなとは思う。



この本(p.17)で示された系統図を見てみると、仏教伝来以前の神道は原始宗教から原始神道へという流れ、そこから「神社の起源」というところからの合流があり、サイドにアニミズム・自然崇拝・祖霊崇拝・シャマニズム・農耕儀礼と書かれている。いずれにしても、仏教伝来以前には我が国(ないし日本列島)に独自の宗教(信仰)があったという考え方は例えば国学者の発想と同じであって、国学者はそれを現在の信仰から儒仏道三教の要素を取り除くことで引き算で「元々の日本らしさ」を再構成し、「清き明きこころ」とか「日本に本来あった信仰」を掴もうとする方向性であるが、宗教学者は考古学的な祭祀の遺物や遺跡、また世界の原始宗教からの類推等で仏教伝来前の信仰を再構成しようとする方向性になっているのだろうなと思う。

これはどちらもある種のバイアスがかかっていることは間違い無いので、文字のない状態からこころの中身を再構成するという離れ業に挑んでいるという共通性があるわけで、それぞれの説得力のある部分を参考にしていくということなんだろうなと思う。

保守系の歴史を確立しようとしている西尾幹二「国民の歴史」や読んで無いのだけど百田尚樹「日本国紀」などでは記紀の内容だけでなく、考古学的な成果も取り入れようとしているのだけど、その辺りはどうしても立ち位置の違う科学を一つにして描かなければならないという限界があり、無理をするくらいなら両論併記でもいいと思うのだが、いずれにしても「一度失われたものを再構成する」という難しさはよくわかる。この辺りの信仰についての研究で最近面白かったのは溝口睦子「アマテラスの誕生」(岩波新書、2009)なんだが、神話研究の成果なども取り入れながら書いていければいいなと思う。

国民の歴史
西尾 幹二
産経新聞ニュースサービス
1999-10-01

 







やはり本を読むことで自分の中の様々なものが掘り起こされてくることはあるなと思う。面白い本を読んでいきたいものである。









月別アーカイブ

Powered by Movable Type

Template by MTテンプレートDB

Supported by Movable Type入門

Title background photography
by Luke Peterson

スポンサードリンク













ブログパーツ
total
since 13/04/2009
today
yesterday