モーリス・ラヴェルという音楽家
Posted at 23/03/13 PermaLink» Tweet
3月13日(月)薄曇り
予告したので、今日はラヴェルについて書こうと思う。
もともとは土曜の朝5時からFMでやっている「音楽の泉」にラヴェルが取り上げられていて、そこでかけられた「ヴァイオリンソナタ」が面白く感じ、そのことについて書きたいなと思ったからなのだが。
https://www4.nhk.or.jp/P685/x/2023-03-05/05/70164/4295410/
https://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=0685_01
(聞き逃し配信、2023年3月18日午前5時50分まで聞くことができます)
ラヴェルというと華麗なオーケストレーションというイメージがあった(初めてラヴェルが手掛けたものを聞いた(認識した)のがムソルグスキーの「展覧会の絵」の交響楽版だった)ので、この曲はヴァイオリンとピアノしか出てこないわけだし、何というか世界のとらえ方みたいなものが面白いなと思ったので、ちょっとその印象を書いてみたいと思ったのだった。
この作品は1927年、ボレロが作曲された前年の曲だそうなのだが、私はまずラヴェルという人がその時代の人だという認識がなかった。ストラヴィンスキーが「火の鳥」でデビューして「20世紀音楽」が始まり、ラヴェルはその前時代の人という印象だったのだが、実際にはストラヴィンスキー(1882-1971)のデビューは1910年、ラヴェル(1875-1937)とは7歳しか違わないし、ラヴェルのデビューが1898年なのでこちらも12年しか違わない。
ラヴェルとよく対比して言及されるドビュッシーは1862年生まれで1918年まで生きていて、ローマ賞を受賞したのが1884年なのでこれをデビューとするとやはりラヴェルとは1世代違う感がある。印象主義という言葉でくくられがちではあり、ラヴェルも「亡き王女のためのパヴァーヌ」などの感傷的ともみられる作品を残しているので共通する部分もなくはないのだけど、(ちなみにこの曲はラヴェル自身も評価していなくて、晩年失語症(?)に陥ったラヴェルがこれを聞いて「美しい曲だね。これは誰の曲?」と尋ねたという)
ラヴェルはその父がドビュッシーと親交もあったということで、最初は尊敬し支持していたが、ドビュッシーが自分の曲とよく似た曲を発表したことから対立が起こり疎遠になったのだという。
私自身としてはドビュッシーはやはり19世紀的というかショパンの世界の延長線上に生きていた感じがし、ラヴェルは20世紀的というかある種の実験精神みたいなものが強くあるような感じがする。ドビュッシーもそうだがラヴェルはエリック・サティ(1866-1925)の影響を強く受けていて、生涯尊敬したというのもうなずけるのだが、この辺の関係も調べてみるまではよく知らなくて、サティはコクトーやピカソと活動した印象が強く、ディアギレフのバレエ・リュスで初演した1917年の「パラード」でピストル音を使ったことなどから20世紀の音楽家という印象があって、そのあたりの前後関係が調べてみないとよくわからないことが多いし本当にこの時代の音楽シーンは多士済々だったのだなと思う。
しかし、現代においてラヴェルという音楽家がその実力そのままにちゃんと評価されているかというと疑問だなと思うところもある。
自分の持っているLPレコードやCDをそうざらえしてラヴェルの作品が収録されたものを調べたら11枚あり、昨日3枚買ったので合わせて14枚あるのだが(見落としもありそう)、ラヴェルの作品のみで制作された盤はそのうち3枚しかない。1枚はバレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲、もう一つはオーケストラ曲集として納められた同じくバレエ音楽の「マ・メール・ロワ」全曲に「ラ・ヴァルス」「亡き王女のためのパヴァーヌ」「スペイン狂詩曲」「ボレロ」が収録されたもの、3枚目は昨日買ったバリトン歌手のフィッシャー=ディースカウが歌う歌曲集である。
https://ml.naxos.jp/album/C061831A
そのほかの盤はすべてほかの作曲家との取り合わせで、昨日神保町の富士レコードとディスクユニオンで探したけれどもラヴェルのみの盤はとても少なかった。しかしディスクユニオンの「ラヴェル」のコーナーはかなりの枚数があり、しゃがみ込んで一枚一枚改めていたら立ち上がった時にちょっと立ちくらみを起こすくらいだった。モーツァルトやベートーヴェンならこういうことはないわけで、やはり扱いが違うんだなと思わざるを得なかった。
「音楽の泉」では「バイオリンソナタ」はピアノとバイオリンの二つの楽器の機能の違いがよく表現されていて面白い、みたいな感じで言われていたが、なんというかわたしは同じような音程で絡み合う二つの楽器の二つの音がまるで双子(あるいは一人の人間の二つの声)が同じような声で同じように同時に思っている二つのことをしゃべっているように聞こえておもしろかった。
これはカントロフのヴァイオリンとルヴィエのピアノだから、だったかもしれず、昨日買ったミシェル・オークレールのヴァイオリンとジャクリーヌ・ロバン=ボノーのピアノの盤ではもっと二つの楽器の独立性が強く感じられた。私はカントロフとルヴィエの盤の方が好きだが、好みはあるだろうと思う。
いずれにしてもこの時代、つまり世紀転換期のフランスの音楽家たちは誰も好きなように生きていて、さまざまな現代に残る曲を書いているのだが、ラヴェルにしても溢れる才能を遺憾なく発揮した(必ずしも評価されないこともあったが)前半生と、第一次世界大戦に軍に志願して負傷し、1917年には母親も失ってほとんど人が変わったようになってしまったらしく、また1927年には記憶(言語)障害が現れ、1932年にはタクシーに乗車中に交通事故に遭うなど大変だったようで、最後にはその障害の起死回生の回復を願って脳外科の手術を行ったものの結局帰らぬ人になった、ということだったようだ。晩年には頭の中に音楽が鳴っているのにそれを書くことができないという苦しさに苛まれたということで、これは本当に歯痒かっただろうなと思う。
私は音楽の専門家ではないので自分の聴いた印象や読んでなるほどと思ったことを書くだけだけれども、彼は「音楽の革新者」から「音楽の大成者」になる途中で死んでしまった人なのだろうなと思う。そのあたりがモーツァルトやベートーヴェンに比べて悲劇的だなとは思うが、時代が下るにつれて音楽家を取り巻く雑音も多くなるわけで、こういう時代にオリジナルなものを創造する作曲という営為も、オリジナリティが求められる他の営為と同様、大変になっていくのだろうなと改めて思ったりした。
ラヴェルについて現時点で思うこと、考えることはそのようなことなのだが、またいろいろ聞きこんで思うことがあったら書こうと思う。
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