天皇誕生日に神武天皇について考える
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2月23日(木)天皇誕生日・曇り
昨日は水曜日で割と余裕のある日だったはずなのだが、なんだかいろいろやることが出てきたのとブログを結構頑張って書いたのでだいぶ時間をとった。あまりアクセスも反応もないのが残念だが、まあすぐに反応があるような内容でもないので仕方がないかとは思う。ただ、現在の現状認識と問題意識、問題設定みたいなものについてはだいぶ書けたかなとは思う。また考えて書いていきたい。
読む本がたくさんあったので後回しになっていた「神武天皇論」を急ぎ足で読んでいる。古代からの神武天皇に対する意識の画期は何度かあった感じだが、最初は古事記・日本書紀の編纂を企画した天武天皇の時だろう。推古天皇の時代に史書の編纂が志されたというのは記録にあり、「推古」の諡号もそこからきているという指摘を読んでやはりそうだよね、と思ったのだが、現状残っている記紀の記述が壬申の乱に勝利した天武天皇の企画の流れによって書かれていることは重要だろう。
昨日読んでいて自分にとって新しい発見だったのは、そうした日本書紀が出版されたのは慶長四年が最初で後陽成天皇の勅によるものだったということ。それから慶長15年に日本書紀全巻が古活字版で出版され、寛文九年に版本で書肆から発売されたと。これが国史体系本・日本古典文学大系本の底本になっていると。
出版という事業そのものが日本で軌道に乗ったのは安土桃山末期から江戸初期にかけてだという認識がなかったのでそのこと自体がへえっと思ったのだが、そういう意味では桃山文化の精華としてそういうものも取り上げるのは良いのではないかと思った。宣教師が持ち込んだ活字や朝鮮から持ち込まれた「古活字」を使用したもの、そして日本独自の手法として木版刷りによる版本が出版され、江戸初期にはすでに6000点ほど流通していたというのは多分初めて認識した。
日本書紀は中世は師資で伝授されてきた神書であり、要は書写するしかなかったわけだが、近世になって出版されたということは画期的なことだと言えるだろう。聖書がグーテンベルクによって刷られたのと同じような意味があると見做せるかもしれない。グーテンベルクの聖書は聖書の普及に大きく貢献し、宗教改革にもつながるわけだが、日本書紀の公刊もまた国学の勃興に繋がるのは間違いないだろう。全然知らなかったが後陽成天皇は日本の出版史に大きな影響を残しているということを初めて認識した。
後陽成天皇は「神武百数代の末裔」という意識を持っていたというが、これは父の誠仁親王が祖父の正親町天皇に先立って亡くなって一代飛び越えて皇位を継承したということに、天皇自身が特別の思いを持っていたということを表しているのだそうで、そういう意味では三種の神器なしで即位した後鳥羽天皇や大覚寺統の中継ぎとして即位した後醍醐天皇、傍系の閑院宮家から皇位を継承した光格天皇と並んで皇位というものを特別に意識せざるを得ない立場にあったということなのだと思う。そうした天皇は朝儀の復活など皇室の伝統の復活に強い意識を持つ例が多いわけだけど、特に神武天皇を意識したというのは中古・中世の朝廷の復活というよりも、もっと原理主義的な「人皇初代(初代天皇)に対する意識」というものが強かったということなのだろうと思う。
この辺吉田神道との関連についても書いてあったのだがその辺りはしっかり読めなかったので次回また読んでおきたいと思う。
現代につながる形で神武天皇が意識された重要な画期は「王政復古の大号令」だというのはその通りだと思う。江戸時代以来の行政文書で神武天皇が言及されたのは初めてだという指摘はなるほどと思った。これは以前も書いたがこの王政復古が何を目指すかについて、多くの公家は「後醍醐天皇の建武の中興」を目指す、という意識であり、岩倉具視も元々はそういう認識だったようだが、玉松操にそれを質したところ、建武の「中興」を目指すような小慮ではなく、神武「創業」のような大事を目指さなければならないと答え、ここに「神武創業」の文字が入ったという指摘はなるほどと思った。
これは明治「維新」が「建武の中興」のような幕府を倒して朝廷を復活させるというレベルではなく、「政府を一から作り直す」ということを意味して維新の担い手たちを励ましただけでなく、天皇中心の神道に基づく政治を志した玉松操の意図を超えて、近代西欧システムを政治の仕組みとして取り入れるという全く新しい試みを可能にした、「神武以来の改革」を行えるようになったということだろう。玉松は「錦の御旗」をデザインしたり維新の完遂には功績大の人だったが、西欧化を進める明治政府に不満を抱き、政府を辞して京都に帰ったわけだけど、玉松自身は西園寺家の庶流の山本家の出身でつまりは公家だったわけで、薩長の下級武士たちが武士の時代を終わらせたのと同様、下級公家が天皇の近侍を独占してきた公家中心の朝廷を終わらせたのだなと思った。
改めてこの本に取り組んでみると、考えなければいけない点はとてもたくさんあり、とても返却前のドタバタで読み切れるものではないなと思った。日本の天皇は天照大神を祖先神とし、その子孫として神武天皇が「人皇初代」であると定義づけられているわけだけど、その存在は日本国家の存在の根拠のようなものとして、「日本」や「正統」が意識される時に立ち現れる象徴的な存在だと言えるだろう。山陵の修築などはその根拠をいっそう確かなものにするために必要なものと考えられたわけで、国家の危機に際して国家の基礎を定めるという意識から行われたわけだ。
今回の借り出しは時間が十分に取れずにしっかり読み切れなかったので、また改めてしっかり読んでみたいと思う。
読む必要があると感じる本は多く、読むスピードはどんどん落ちているけれども、なるべく必要な本を必要な時に読んで考えを進めていきたいと思う。
今日は天皇誕生日。今上天皇の63歳の誕生日に当たるわけだが、こういう日に神武天皇について考えるというのも何かゆかりがあるのかもしれない。考えてみれば2月11日は建国記念の日だったのだからその方が神武天皇については相応しかったわけで、そういう意味では令和の時代には天皇という存在について考えるチャンスが2月に2回もあるわけだから、そういう機会は大事にしていった方がいいなと思った。
世界ではロシアのウクライナ侵攻が始まって明日でまる一年になること、あるいは結婚を価値のないものという思想を浸透させたフェミニストで東大名誉教授の上野千鶴子さんが実は結婚したいたという事実が判明したこと、そのほかさまざまなニュースで持ちきりで、自分としてももちろん考えることはあるのだが、今日のところはそうした時代に背を向けて、日本の国の基についてあれこれ考えてみた。
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