「正論」:安定感のある保守論壇誌/「貴族とは何か」読了:「イギリス貴族の特異性」と「倫理観の高さと戦争」
Posted at 23/02/20 PermaLink» Tweet
2月20日(月)晴れ
昨日は久しぶりにゆっくりできる休日だったので、朝もゆっくりした感じだったし午前中もブログを書いたり本を読んだりして過ごしていた。部屋の整理などもしようと思ってはいたのだが、なかなか手がつかなくて少しずつやっていた。
夕方車で岡谷に出かけて、書店で中古CDのフェアをやっていたので少しみてシェレンベルガーとイタリア合奏団のイタリアバロック・オーボエ協奏曲集を買った。録音されている曲の作曲家はヴィヴァルディ以外はよくわからないが、車の中で聞くには良さそうな感じだったので、しばらく聞いてみたいと思う。
それから本を見ていたら、「正論」の3月号に佐伯啓思・川久保剛「日本における保守とは何か」という対談が掲載されていたので買うことにした。他にも岩田規久男さんの防衛増税についての防衛増税への反対論や東野篤子・グレンコ=アンドリー両氏のロシアのウクライナ侵略に関する対談など、目次を見ていてやはり今の日本で「保守」のスタンスを代表する雑誌はこの「正論」なのだろうなと改めて思った。「諸君!」の休刊後は「月刊WiLL」や「Hanada」など右派系の雑誌も出ているが、感じとしてはこれらはネトウヨ系という感じで「保守」というにはどうか、という感じがある。やはり老舗の「正論」の方が幅広い安定感があるのかなということを感じた。
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君塚直隆「貴族とは何か」(新潮選書)読了。全体的に、貴族というものの倫理的な側面、「高貴なるものの義務=ノブレスオブリージュ」をめぐっての論考ということで、古代ギリシャローマ・古代中国・大陸ヨーロッパ・イギリスとそれぞれの貴族の在り方をめぐって検討が続き、いかにイギリス貴族が「特別」であるかということも説得力を持って理解することができたように思う。もちろん大陸ヨーロッパの貴族たちも現代においても社会的な活動に従事している人たちもいる(ヨーロッパ連合を唱えたリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーや欧州議会議員のカール・フォン・ハプスブルクなど)し、日本においても筆頭の公家である近衛家の血を引く細川護煕元首相など政治に新しい息吹をもたらそうとした人がいることは確かなのだが、イギリスにおける層の厚さのようなものは現代においては世界に類例を見ないものだなと思う。現代において君主制が維持されている北欧諸国やベネルクス3国などにおける貴族のあり方なども調べてみると面白いかもしれないと思ったが、国家としての存在感においてもイギリスほどではないので、影響力という意味ではイギリス貴族が突出しているのだろうと思う。
日本における華族制度や貴族院制度についても突っ込んだ内容が読めて大変面白かったのだが、近衛文麿の弟の指揮者の近衛秀麿(彼がNHK交響楽団の創設に関わったことは今回調べていて初めて知った)も子爵に叙せられていて互選で貴族院議員にもなっているが、貴族院の実態を「貧乏な議員が多いので幹部が借金の整理をしてやり、任期中は頭が上がらないようにしていた」、と言っていたようで、金に困らない当時の近衛家だからこその話だなとは思った。この辺、Wikipediaを見ても貴族院議員としての活動は全く書いてないので現在のところそれしかわからないのだが。
あと、今読んでいる「修養の日本近代」と関係することが出てきているが、「武士道」の著者である新渡戸稲造が修養雑誌である「実業之日本」に「今後の道徳は武士道ではなく平民道である」という主張を載せているというのも面白いなと思った。また団琢磨(血盟団事件で暗殺された三井財閥の総帥)も「人格第一主義」という論考を載せていて、つまりは貴族や武士ではなく国民一人一人が人格の完成を目指し徳のある生き方をしていく必要がある、ということなのだけど、この時期の本を読んでいて気持ちがいい部分があるのは、社会全体が若者にそういうものを求めていた雰囲気があったということだなと思う。
ただこれもまた別の問題はあり、「戦艦大和ノ最期」に描かれた学徒動員された急造将校たちの義務意識などを読んでいるとノブレスオブリージュで多くの若手貴族が戦死したイギリスの第一次世界大戦と共通するものも感じざるを得ず、恐らくはこの辺りのフレーズが戦後封印されてしまったのはそういうこととも関係があるのだろうと思うし、戦後の立役者たちが必ずしも、特に戦後世代の立役者たちがそうした社会への義務感を持たずに社会を壟断してきているのも中途で挫折してしまったノブレスオブリージュ意識の養成と関わりがあるようには思える。
それにしても、歴史学において倫理意識のような非物質的なテーマを正面から取り上げて論考することができるようになったのは感慨深いなと思う。自分の勉強している頃はそういうものにも関心はあったが、うまくテーマを掴むことができなくてそういう方向の研究ができなかったなあと思う。イギリス保守主義において貴族という存在の大きさは改めて感じたが、ヒューム以降の懐疑主義の哲学的伝統も改めて読んでみたいとも思った。
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いろいろ考えなければならないテーマが多いな。いろいろやらなければならないことが多いので考えて書いていくこともなかなか時間を取るのは大変なのだけど、頑張って時間を確保しつつ勉強して書いていきたいと思っている。
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