「安倍晋三回顧録」安倍さんの懐かしい語りと官僚動物園/「貴族とは何か」貴族のあるべき姿とそこからみた貴族の実態
Posted at 23/02/09 PermaLink» Tweet
2月9日(木)晴れ
昨日はまた何だかいろいろあってメンタル的に大変なのだが、しかし最近はコンテンツ上もいろいろ充実していて読みきれない感じになっている。昨日は「安倍晋三回顧録」が発売になり、最初に蔦屋に行ったのだが入ってなくて、平安堂に行って買った。まだ第1章しか読んでないがかなり面白い。
また、君塚直隆「貴族とは何か ノブレスオブリージュの光と影」もなんとか頑張って第2章まで読んだ。その他仕事の会計を進めたり自分の確定申告の準備をしたり母の状況を聞いたり車の一年点検の準備をしたり仕事場のソフトのアップデートをしようとしたらまだできないということが判明したり、銀行に行ったり買い物に行ったりしていた。やること多すぎるんだが。全てワンオペというのはこういうのが大変だ。
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「安倍晋三回顧録」。安倍さんは以前から、というか特に自民党下野時代に総裁になってから、歯に衣を着せぬ発言が多くなってきた印象があるが、この本は本当に安倍さんのそういう語り口を彷彿とさせて、読んでいてとても面白い。今読んだのは第1章のコロナが蔓延し始めてから退陣するまでの間についてのインタビューで、2020年初頭のダイヤモンドプリンセス号での感染拡大の話から、コロナ対応のさまざまな政策、PCR検査が進まなかった理由や医師会が動かなかったこと、一斉休校、入国制限、五輪延期、いわゆるアベノマスクの配布、緊急事態宣言、特定給付金10万円、といった政治決断についての裏話がいろいろと面白かった。
特に厚生官僚と財務官僚とのやりとりが面白かったが、中国からの入国制限を決めた時に内閣法制局長官が遅刻してきて、そういう形で抵抗を示したという話とか、厚生官僚はコロナの状況について報告はするがどうしたらいいとは言わなくて「絶対に責任を負わないという強い意思を感じた」というところは笑ってしまった。消費税アップ10%についてもこれは安倍さんの失策の一つだと思っていたが、やらないと財務官僚から倒閣の動きを起こされて大変になるからやらざるを得なかったとか、アビガンは厚生労働省トップは承認するつもりだったが薬事課長の反対でダメになったということなのだけど、それは薬害エイズの時の血液製剤課長だけが罪を問われ、ハンコを押した局長は不起訴になったという前段があって、どうせ罪に問われるなら自分の判断を押し通すという姿勢になっていたということなど、まさに官僚動物園といった感じの描写が多かった。
新型コロナ感染症など、誰も経験したことがない事態なのだから政治決断でどんどん対策を進めたらいいと思ったし、実際安倍さんはよくやったと思うけれども、もちろんそれが妥当でなかったという批判はある。それは新しいことにチャレンジしたら当然そういうこともあるということなのだけど、官僚はそういうのが苦手というか、大丈夫なことしかやりたくないという習性があるし、特に以前失敗して懲りたことは絶対に2度とやらない、というのは慎重で良いところでもあるのだが、羹に懲りて膾を吹くといった趣もあるし、一度の失敗で完全に萎縮し切るということでもある。またそういう官僚の習性に手をつけようとすると激しく抵抗し、場合によっては裏から倒閣運動を起こすということもあるわけで、官僚の生態というのはどの国もある程度共通してはいるのだけど、それにしても日本の官僚はこういうものなのだなあと改めて思った。
もちろんこれは政治家から見た官僚の姿であって、官僚自身から言わせればいろいろと反論はあると思うが、安倍さんという不世出と言っていい政治家から見てもやれたこととやれなかったことがあるうち、官僚に妨害されたことは随分多いのだろうなあと改めて思った。それでもあのコロナの時期にこれだけのことができたのは安倍さんだからだったのだろうなと思う。
目次を見ると第二章は第一期政権がメインだが、小泉政権において幹事長になった時から辞任し自民党も下野して吉田茂以来の政権復活を果たすまで、第3章は第二次政権発足、第4章は官邸主導政治、第5章は歴史認識、第6章は海外首脳、第7章は戦後政治の総決算、第8章は政権を揺るがしたさまざまな要素、特にモリカケ桜問題など、第9章は外交、第10章が令和改元の頃、終章が長期政権の理由という筋立てになっていて、それぞれ大きなテーマに直接切り込んでいく感じになっているようだ。
この後もさまざまな魅力ある登場人物が出てくるだろうし、その辺りは期待していきたい。
「貴族とは何か」第2章「ヨーロッパにおける貴族の興亡 中世から近代まで」を読んだ。1・2・3節が古代末期から中世初期にかけて成立していった貴族という存在の称号や爵位について、また貴族の基本的性質としての戦士・領主・官僚という要素の獲得と展開、そして貴族という身分に与えられた特権について語られ、貴族というものの形成の外形面について語られている。
そして4節が「徳による統治の系譜ー貴族の理想像とは」となっていて、アウグスティヌス、ソールズベリのジョン、トマス・アクィナス、マキャヴェッリ、エラスムス、トマス・モアが描き出した「貴族のあるべき姿」について語られている。
自分にとっては徳にこの4節のあたりが重要である気がする。3節までの貴族の形成史や特質を獲得していった過程というのは自分にとっては慣れ親しんだ、歴史を学ぶときの基本的な押さえるべきところとして読んでいたけれども、この「貴族のあるべき姿」という視点は昨日も書いたけれども自分にとっては欠けていたところで、しかも自分にとって大事なこと、自分にとって知りたいことだったのだなと読みながらしみじみ思った。貴族には「あるべき姿」がある、しかし歴史学というものは「あるべき姿(sollen)」ではなく「実際の姿(sein)」を明らかにしていくべきものだというある種の唯物的な歴史の見方がとても強固に染み付いているんだなとはっきり認識させられた。
しかし自分の知りたいことは、自分の意識として「こうあるべき」と思っている人たちが実際にはどう行動し、どう成功してどう失敗しどう挫折したか、みたいなところであったのだなと改めて思う。自分が大学院で歴史研究をしていたときもその「こうあるべき」みたいなところを意識的に避けていたところがあって、それはそういうところに踏み込むと客観性を失うと思っていたからなのだが、この本ではそこのところがちゃんと客観性を失うことなく書かれていて、そうかこういうふうに書いていけばよかったのだなと今更ながら思わされた。
5節は貴族が担った文化的役割、それによる雇用の創出、パトロンとしての機能、礼儀作法の基準としての宮廷、外交のことなど。ラテン語に変わりフランス語が外交用語になったのはルイ14世の宮廷の影響力というふうにしか認識していなかったが、プロテスタント諸国が「カトリックの言語であるラテン語」を敬遠したこと、リシュリューのアカデミーによる「標準フランス語の確立」などもそれに大いに関係しているというのはなるほどと思った。
6節はフランスの大革命に至った要因、そして19世紀を生き延びながら第一次世界大戦で没落していった大陸の貴族たちについてその原因として「徳」が失われたという要因は確かにあるだろうなと思った。こういう話は日本に置き換えると「武士が武士としての強さを失ったから江戸幕府は倒れた」とか「明治の人々は素晴らしかったが昭和になって信じられないほどひどくなった」みたいな精神論というか、ある種の司馬遼太郎史観のような感じになってしまうのだけど、そればかりが決定的要因というのは難しいとは思うけれどもやはり精神的な堕落とか退廃の問題は国や社会の変化に関係ないはずはないわけで、その辺りも避けずに適切な程度に触れているのがいいなと思う。
具体的な細かい記述についてはいろいろあるのだけど、今日は全体的な感想として書いてみた。
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あまり関係ないが、周りの人のおかしな動きも動物と見れば腹も立たない、みたいな話は柴門ふみ「小早川伸木の恋」に出てくる話だったことを思い出した。
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