貴族とは何か・私のイメージ
Posted at 23/02/07 PermaLink» Tweet
2月7日(火)曇り
昨日は弟が来ていて母の入っている施設と話をしに行ったりしたのだが、その後弟を駅に送り、少し休んでから地元の書店に本を見に行ってTwitterで取り上げられていた君塚直隆「貴族とは何か」(新潮選書、2023)を買った。
貴族とは何か、というのはいろいろとあるのだが、自分のイメージを簡単にまとめてみる。
古代においては神に仕えて文字などの知識を独占した神官階級と軍人である貴族階級が権力を争い、メソポタミアでは貴族(とそのトップである王)が権力を握ったが、インドでは神官階級がバラモンとして貴族のクシャトリアよりも上位に立った、とか中世ヨーロッパでは祈る人=聖職者身分と戦う人=貴族身分と働く人=庶民、農奴身分があったとか、日本では貴族と武士が割と別の範疇で語られがちであったが最近では平安末から武士の頭領=軍事貴族という考え方が出てきているとか、フランス近世でも家系の古い帯剣貴族と庶民が官職を獲得して貴族の仲間入りをした法服貴族があったとか、まあその国その文化その歴史その伝統によって貴族というものはさまざまな実態を持ちさまざまに語られてきている、ということは言える。
自分の概念の中では貴族というのは西欧中世近世的な感触が強いので貴族=領主というイメージが強いのだが、農奴の身分解放が早くに進み領主権も実質的に廃止されていって地主化していったイギリスなどではまた感じが違うだろう。
一つ共通していると思われるのは、貴族身分だからといってそれらが同等であるということは少ない、というか古代ローマの元老院階級などはある意味平等だったと思われるがそれは「王のいない貴族政治」というかなり特殊な形態だったからで、普通の場合は国王からの距離とその出自や伝統によって細かに階級が定められ、上下関係がはっきりしているというところがあるのではないかと思う。西欧における公・侯・伯・子・男の爵位の区別とか、大公位・辺境伯といった特殊な地位、日本においては正一位からはじまる官位の制度、摂関家・清華家・大臣家・羽林家・名家・半家といった家柄の違いなど、また宮廷序列などの身分差秩序があることが一つの特色なのではないかという気がする。
そうした歴史的な実態とは別に、貴族という言葉に込められたイメージは「社会の領導者」というプラスのイメージと「社会の搾取者」というマイナスのイメージの両方があるだろう。前者の代表的なイメージは「ノブレス・オブリージュ=高貴なるものの義務」という言葉にあり、後者の代表的なイメージは「いいご身分ですね」という言葉に表されるような「世間を知らない、ボンクラ、お坊ちゃんお嬢ちゃん、無知なくせに傲慢」といった印象だろう。
後者のイメージにはマルクス主義的な階級史観の影響があるように思うけれども、良くも悪くもステロタイプにはこと書かないのが貴族というものだろう。
「貴族とは何か ノブレス・オブリージュの光と影」では、私の認識と共通する部分ももちろんあるが、かなり違うところもかなりあるように序文を読んだところでは思う。特に、歴史的にどうだったかはもちろんだが現代において「貴族というものの価値」はどこにあるのか、というところに焦点が当てられているように思う。それはつまりは各国において、特に日本においても混乱している「リーダーシップのあり方」ということなのだと思うが、そういう「貴族的意識からくるリーダーシップ」の光と闇、功罪というものを考えながら読むと良いのかもしれないと思った。
例えばアメリカには「マニュフェストデスティニー」という観念があったが、これはアメリカが西方に進出するのは神に嘉みされた「明白な運命」であるということだから、ある種の貴族意識と言えるだろう。それに非迫害者の感覚が加わると選民思想的なものにつながったり、「ウクライナは偉大なロシアの一部」といった感覚につながったりするのだと思うが、そういう弱者的な、ないしは非迫害者的な意識がないのが「貴族」というものの良くも悪くも特徴なのだと思う。
著者は「貴族」が中世以降の政治に強い影響を与えてきたのはヨーロッパに限られるとしていて、それはちょっと過言ではないかという気はしたが、それはつまりは「貴族」の定義づけにもよるという気はする。ただ日本では高貴なる人間は近世においては特に「そうせい」でいい、という感覚があって、「「貴族であるから」バチバチに戦うべき」という感覚は言われてみたら希薄かなという気はする。そういう存在が政治でリーダーシップを取るというのはなかなかなく、総理大臣になるにしても「シャッポは軽くてパーがいい」という状況であることが多いように思う。
近代において貴族が権力者であったというのは例えば西園寺公望や近衛文麿、木戸幸一などが思い浮かぶが西園寺は「たまたま生き残った元老」感が強いし一筋縄ではいかない人物であることは確かだが表立ってリーダーシップを取るタイプでもない。近衛はまさに貴族中の貴族だが、政治家としては日本の状況を迷走させた印象が強いし、木戸幸一は天皇の近臣ではあるが明治の元勲=江戸時代は下級武士であった木戸孝允の養子(甥)であって貴族としても新貴族というべき存在だろうと思う。
日本には確かに公家という人たちがいたけれども、彼らの一つの特色は「屈折」というものがあり、ヨーロッパの貴族のような光り輝く印象はない。出自によって光り輝くようなリーダーシップを取る、ということができるという点でヨーロッパの貴族たちが魅力的であるのだとしたら、そういう人たちがいるという点においてヨーロッパが魅力的に見える、というか「貴族」が世界におけるヨーロッパの「資源」であるという面もあるかもしれないと思う。まあ「光り輝くような」というのは良い形容であって、「ギラギラした」と言い換えた方がいい場合も多いだろうとは思うのだが。
読む前、というか「はじめに」まで読んだところでの自分の貴族のイメージを素描してみたのだが、この後読んでいってまた考えたことを書いてみたいと思う。
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