暖かい寒中/文化系が輝いていた時代と企業活動の力/減点法と加点法
Posted at 23/01/14 PermaLink» Tweet
1月14日(土)雨上がり
今日は二十四節気で言えば小寒、七十二候で言えば「水泉動」、厳しい寒さの中にも春の予感がする、みたいな気候の日であるはずなのだが、気温は高く、雨が降っている。昨夜10時ごろ外に出た時に雨が降っていて実際驚いたのだが、天気図を見ると冬のシベリア高気圧だけでなく、移動性高気圧が太平洋に移動して夏の高気圧みたいになっていて、その間の前線が日本列島を縦断しているわけで、なかなか見ない気圧配置だなと思った。
こういう気候だと朝夕の車のフロントガラスの凍結を気にしないで済むのでその面ではありがたいが、マイナス10度を下回る日が一定期間続かないとできない諏訪湖の御神渡りは今年も期待薄だなと残念に感じる部分もある。私が子供の頃、ということはもう50年以上前になるわけだが、人々が氷の上を歩くのはもちろん、氷を割ってワカサギ釣りをする人たちがいたり、氷上に車を乗り入れてグライダーを牽引して飛ばす人たちもいた。
この辺りでは家の中でもかなり冷え込む時は冷え込むので、台所に置いておくと凍結してしまうので冷蔵庫に入れておく、みたいなこともあったのだが、今年はそこまで寒くない感じの日が多い。
昨日は母を病院に連れて行き、その行き帰りにいろいろ話したのだが母のことを話しているつもりでも母の方は私の方のことを気にする部分が多くて、まあ少しなんとも言えない気持ちになる部分もあった。母を身体的にも経済的にも支えていくのはまあ大変ではあるのだが、精神的な部分で他の兄弟たちとあまり分担できない状況(コロナで面会等ができない)というのは割と大きいし、その面での他の兄弟の不満も大きいのだが、なかなかどうしたらいいという解決が見えないのは難しい。
今日から大学入試共通テスト。受験生の方は実力を発揮できるよう頑張ってください。
***
いろいろなことを考えていて、私は減点法で考える傾向が結構強いなと思ったり。減点法というのは要はリスクがあるとそれを避ける方向に動くということで、加点法というのはいわば良いことがあればリスクはあってもやってみるという行動につながる。リスクという面でいえばリスクを取るのが加点法、リスクを避けるのが減点法ということになるだろう。
もちろんどんなリスクでも取ればいいというものではないし、どんなチャンスでも飛びつけばいいというものでもない。それでもリスクをとって挑戦する方が結果的に成功することはあるわけで、結果リスクを取る人たちの方が世の中で幅を利かすようになるわけで、だからリスクを取らない人たちは勢力を弱めていくということになる。
というようなことが特に学校社会などでは起こるので、リスクを取る(何も考えてないだけかもしれない)ヤンキーの方がリスクを取らないオタクよりも学校でスクールカーストが上位になる、などという現象が起こっているのだろう。我々の学校時代にはそんなになかった現象なのでこの辺りの分析は雑だがそういうことかなと思っている。
ただ、我々の時代には文化系男子がもっと幅を利かせていたわけで、それに比べると現代は文化系の地位はかなり低下しているなということはツイッターなどを読んでいても感じる。アカデミアなどにいるジェンダー平等意識高めの文化系男子など見ているとこれはバカにされてもしゃあないわ、という感じになるのだが、逆に言えば我々の時代はなぜ文化系男子の地位が高かったのかということの方が考えるべきテーマになるなと思った。
我々が10代20代の頃はまだオタク文化黎明期で、本当にごく一部の人々の趣味という感じでしかなかったし、だから庵野秀明さんや岡田斗司夫さんなどは突出した存在だったと思う。また別の意味で有名だったのは宮崎勤死刑囚だが、彼の事件がオタク界の及ぼした影響は甚大だった。
ただ私はそういう意味のオタクではなかったので中1の頃マグリットの絵に感動したりどちらかというとアート系の趣味を持つ人、という感じだった。子供の頃は本はたくさん読んだが中学生以降「大人の読書(文学)」に移行せずにどちらかというとドキュメンタリー系や歴史系のものを好んで読むようになって、大学では歴史を専攻することになる。天文学なども好きで、つまりはシンプルに未知のものを知りたいというところが強かったので、アートなど画面に未知なものを現出させるものが好きだったのだろうと思う。
私が大学に入ったのは1981年だが、東京ではまさにセゾン文化が花開こうとしていて、アートの展覧会やヨーロッパの小粋で前衛的な映画、また当時勢いを得ていた小劇場演劇や舞踏系のダンスなど、新しいアートが花開いていく感じで、自分も演劇に関わり、毎日「明日は何をして遊ぼうか」という感じになっていた。あの時期は本当に楽しかったなと今でも思う。私はあまり関わらなかったが、アカデミアの世界でもニューアカデミズムと言われる新しい潮流が起こり、パラノイア的な従来の文化ではなくスキゾイド系の新しいポップな文化を逍遥する流れが起こっていた。
しかし90年代に入ると、特にその半ばごろから、文化系の凋落が始まる。この辺りは今考えてみると、要は企業などが文化にお金を出さなくなったということなのだろうと思う。そして文化活動は公的助成に頼る部分がより大きくなっていったように思う。そして恐らくはそこで何かが変質したのだろう。
逆に言えば、80年代の文化活動がなぜあんなに輝いていたのかと考えてみると、それは企業が積極的に文化にお金を出していたからだということになる。そうした企業の活動はメセナ活動といわれたが、バブルが崩壊するとその辺りは一番に切られることになったわけで、ヨーロッパ映画を単館上映していたような映画館は次々潰れていくことになったりした。
つまりは企業家が文化に目を向けなくなったということだが、逆に言えば80年代は企業が文化に積極的に金を出すことで日本人の生活を変えていこうという大きな動きがあったということになる。その中心になったのがセゾングループの堤清二であったということになる。彼が構想した渋谷は文化の発信源であり、それは東急の方向性とも一致して渋谷は文化の街になった。90年代にはセンター街のチーマーに乗っ取られてしまうけれども、80年代の渋谷は新しい文化の中心というオーラを持っていた。
そう考えてみると、私が80年代に渋谷に近い大学を中心に生活していたことは、本当に奇跡的というか恵まれていたのだなと思う。90年代になって自分自身がそういう環境から離れたということもあるのだが、急速に世界が変わっていく感じは逆に現実感がなかったなと思う。今考えてみれば、あの奇跡のような80年代の渋谷を、世界のデフォルトのように自分は感じていたので、世界や人々の変化についていけなかったところは大きかったなと思う。
もともと企業人と文化というものは日本ではつながりが深く、戦前は三井グループの総帥の益田鈍翁が有名な茶人であったり、強盗慶太と言われた後藤慶太が東急グループを作り上げて田園都市構想や東急文化会館など関西の小林一三の向こうを張って質の高い生活と文化を作ろうという動きが強くあった。堤清二自身も複雑な家庭とはいえ当時の実業家・堤康次郎の二代目の一人であり、詩人でもあって、文化へのこだわりは強くあったという背景がある。関西に本拠があるはずのサントリーグループも東京にサントリーホールやサントリー美術館など文化の拠点作りをしていたし、逆に80年代の「セゾン」に代表される企業が牽引した文化というのは明治以来の企業と文化というもののが咲かせた最後の花だのかもしれないとも思う。
90年代以降出てきた新しい実業家たちは、不思議なくらい文化に関心がない。逆に、文化に敵対的な姿勢をとる人さえ多い。その辺りは80年代以降の「驕った文化人」への反発からくる面も大きいとは思うが、本質的に不思議なくらい文化に関心がない。IT系の、つまり理系の実業家が多いということは一つの理由として考えられるが、例えばアメリカではアップルのスティーブ・ジョブズなどを考えるとIT系であるから文化に関心がない、というのは必ずしも当たらないということはわかる。彼は機器の形態に異常なまでにこだわり、またフォントなどもものすごく深く研究していたようで、それらが今のスマートフォン文化に与えた影響は相当大きいと思うが、日本で出てきた新しい企業家たちは戦闘的ではあっても文化の裏付けがないそこの浅さのようなものが見え隠れし、その辺りで文化を担う人たちと企業家たちの間の溝がどんどん深くなっていって、文化を担う人たちの公的資金への依存も深まっていったのではないかという気はする。
で、そうなると今度は政治の面から維新の橋下徹氏などがそこに反発を持って文楽などを削ろうとしていくことになるわけだが、こうしたある種の反文化勢力が日本で企業家や政治家などを含めて勢力を持つようになっていることはある種日本の他の国にはあまりない(全然ないわけではないが日本は特に強いように思う)特徴である気がする。
これは世界的な文化的オーソリティの覇権がいまだにヨーロッパやアメリカに握られていることと関係はあると思うし、日本文化の価値というものが日本の経済的凋落とともにあまり誇れない感じになってきていることも大きいだろう。また、セゾン文化の段階において日本の文化を改めて称揚するということよりは(それもそれなりにはあったのだが)ヨーロッパの現代美術や新しい表現などを取り入れたりする方に走り、日本的価値を蔑ろにする傾向がややもすればあったということは今に禍根を残しているのだろうなと思う。
日本の文化傾向はだからいわゆるハイカルチャーとそれにつながるモダニズムのサブカルチャーというものが痩せ細ってしまって、パリピ文化とオタク文化の二極化という感じになっているように思う。
これらについてはまた政治的な背景も考えられるのでそれだけで限定して語れることではないし、私自身が95年ショック(阪神大震災とオウム真理教事件)でカルチャー左翼系から保守系に移った人なので、元々の保守系の文化のようなものはあまりよく知らないところが大きいから、ちょっとその辺は読んでいかないといけないなと思う部分はある。
まあ私自身としては文化の復権というものは必要だと思っているし、それはより保守的な文脈からそう思う。いわゆる保守の人たち、ネトウヨと言われるような人たちが多い感じはするが、彼らは保守的な文化復興というものに関心がない人が多い感じがして、要は左翼やリベラルと言われる人たちへの反発からそのポジションをとっているということが強いのだろうなと思う。暇空さんの戦いに現れているようにこうした勢力との戦いはもちろん重要なことだと思うのだけど、それでは一体何のために戦うのかということもある。
暇空さんは「自分を救ってくれたマンガやゲームを守るために」という動機がはっきりしているので底辺わかりやすいが、「表現に対する攻撃」というのはもちろんフェミニストの萌え絵攻撃だけでなく、ネトウヨの「あいちトリエンナーレ」攻撃もあるわけで、つまりは「表現」というのは両者にとっての戦場になっていると考えるべきだろう。
その辺りについてはまだ十分に考えきれていないところはあるが、きちんと一つ一つ読み取っていくことは必要なのだろうと思う。
概ね進歩的設計主義がリスクを取る加点法、保守的な慎重な姿勢がリスクを避ける原点法と結びつきやすいが、この辺りに関しては六代目中村歌右衛門が言っていた「歌舞伎における新しい試み」について語っていたことをよく思い出す。「歌舞伎の新しい試みを行うことによって壊れるものはあると思いますか」という山川アナの言葉に歌右衛門は「私はあると思いますよ」と答えていた。伝統文化、伝統芸能を守っていくということはそういうことで、理由がわからないしきたりみたいなものを理由がわからないからいらないと変えてしまうと根本的におかしくなってしまう、などということがよく起こる。その辺りが伝統というものの怖さで、そういうものは総体としてのバランスをとって成立しているということが重要なのだろう。
ただまあ、日本の文化を復興するという面から考えても必要なのはある種「積極的な保守主義」ではないかと思うので、その辺りのことをもっと考えていけるといいなと思っている。
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