先崎彰容「新・富国強兵論」を読んで「自由」や「死者との連帯」について考える/マイナス10.9度/中年のくたびれた男性と若い女性のカップル
Posted at 23/01/26 PermaLink» Tweet
1月26日(木)晴れ
今朝の気温はマイナス10.9度。定かではないが、おそらく今季最低気温だろう。二十四節気では大寒、七十二候では水沢腹堅。いかにも寒そうな言葉が並んでいる。まあ、1年で一番寒い季節だと言っていいのだろう。寒いのはだから暦通りだといえばそうだ。
作業場の水道が凍結し、トイレも薄氷が張っている。まだ毎日来ているからこの程度で済んでいるが、数日空けたりすると溶かすまですごく大変になる。以前はバーナーで溶かしてもらったこともあったが、最近はそこまでは冷えないから自分でなんとかできるのだが、寒い時にはいろいろなところで不具合が発生しやすい。電気湯沸器のスイッチが入らないのでストーブで温めてからセットしたのだが、中を見たら大きな氷が浮いていた。
毎日これといった用事があるわけではないのだが、1月末が期限の書類というのが割とあって、そういうのを片付けたりしているうちにいつの間にか時間が消えているという感じ。昨日は仕事関係の書類をふたつ銀行に出して年末調整の書類の市役所に出す文を出しに行き、仕事場の蛍光灯の修理の部品をホムセンに買いに行って修理し、ついでにパナソニックのBD-REを10枚組2セット買った。品切れのところが多いようだけど、ホムセンは穴場だったのかもしれない。とりあえずこれしばらくはもつが、BD難民が今後何を使う方向にいくのか動静を見ておかないといけないなと思う。
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それから「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」の2巻が出たのでビッグガンガンと一緒に買ってきて読んだのだが、この間読み返していた「社畜と少女の1800日」のように「中年のくたびれた男性と若い(高校生または20代)女子」というパターンの話がいつの時代も一定需要があるのだろうなと思う。作者は男性だけでなく女性もあるのだが、少し前の連載でいえば月スピから週スピに移って連載された「恋は雨上がりのように」もそうだった。「雨上がり」は結局女性側の恋情を若い時の気の迷いみたいな話にしていてラストがあまり納得いかなかったのだが、その辺はポリコレ的なものが厳しくなってきた背景があったのかなと思ったりする。
「社畜」のラストはそういう風潮に敢えて異を唱える形になっていて良いと思ったが、相当ポリコレに配慮していて成人(それも20歳)になるまで関係を持たないとかまあちょっと聖人君子すぎるんじゃないかという感じもあった。「ヤニ」は女性の方がタバコを吸っているくらいだから成人女子なので特に問題はないのだが、他の2作と違うのは45歳の男性が超純情男子であるところで、まあこれはある種女性側の欲望の反映なのかもしれないなと思ったりした。
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昨日は文藝春秋の2月号で先崎彰容「新・富国強兵論」を読んだ。先崎氏は保守の論客の中でもタイムラインで時々見るので一度何か短いものを読んでみようと思っていたのだが、この文章は文芸誌で20ページなので手頃感があった。
印象に残ったことをいくつか。「令和の富国論は新自由主義に懐疑的であるべきであり、令和の強兵論は米中対立に必ずしも左右されない独自の防衛政策と外交秩序を目指すべき」というのが目を引いた。一見してもっとも、というか自分の考えも簡単に表現すれば似たようなものになるなと思うのだが、一見するとそういう方向性での理想論を言っているだけのようにも思える。しかしこの先を読んでいくと「新自由主義」というのも竹中平蔵氏的な冷酷な市場原理主義のことだけを言っているわけではなく、「独自の防衛政策と外交秩序」というのも自分があまり考えてなかった提案があって、後になって賛成するかどうかはともかくへえっという感じはあった。
特に、「デジタル田園都市構想」を新自由主義の最たるもの、とする見方にはへえっと思った。まあ湾岸のタワマンやドバイやシンガポールへの移住というようなものに象徴されるのが新自由主義的な成功の人生観だと思っていたから、五島昇に始まる東急の都市開発や大平正芳が持っていた割とグリーンぽい構想の方向に「新自由主義」があるとは思わなかったのだが、これは「分散」と「集中」というキーワードで切り分けると集中の方向ではなく分散の方向、国家や社会のためにではなく個人の自由のためにという方向になるから、個人は公に対する意識を失い、国の力を弱める方向にある、という指摘がへえっと思った。
なんというか、国家の目的は個人の自由を高めることにある、みたいな思想もあるわけで、それは国家そのものが個人の自由の足枷と考えるリバタリアン的な方向性とは違うが、国家が再分配によって所得の低い人たちの行動の自由を支援するというニューディール的な意味でのリベラリズム(日本は旧共産主義・社会主義系の人たちがリベラルを自称しているので自由というより平等重視になりがちだが、アメリカのリベラリズムは「自由においての平等」を目指す方向にある)には考え方が共通するところはあるなと思った。
先崎氏がいうところの「新自由主義」とは「公を閑却して個人の自由のみを追求する」という方向性を指しているということだなと思う。先崎氏はそうした冒頭に述べている「国民が持っている漠然とした不安感や空虚感」を解決するために必要なのは「分散」つまり個人の自由の拡大の方向性ではなく、「安心」を与えることであり、生死に直結する社会福祉政策などの生活インフラを充実させることであり、それには「集中」が必要だと説く。
こうした「新自由主義」、これはなんというか「国家に対して否定的だった戦後民主主義思想」から「公共の再構築の意思」を引いた「痩せた自由主義」みたいな感じで捉えてるのかなと思ったのだけど、現在の国民の多くはその視点から人生観や国家観も組み立てている、というのはあるなと思った。
この観点においてはつまりは死生観というものが問題になるわけだけど、ということは戦って死ぬ可能性もある軍事の問題に関わっていくから「強兵論」に話を移行させている。
印象に残ったことの二つ目はこの「終戦以来の我が国が圧倒的に生者の論理で動いてきたという事実」の指摘というところだ。これは小林よしのり氏や故・西部邁氏などもよく言っていたように思うけれども、国家とか歴史とかを考えるということは、「使者との会話」をするということだというある意味での歴史学の根本倫理みたいなものとも繋がる。
史料主義の徹底というのはもちろん実証が本旨であるにしても、ある意味では「死者の本当の声を聞く」ということでもある。史料は人間が作ったものだから、場合によっては統計数字からだって生々しい声が聞こえてくることもあるわけで、「生者の都合」だけで歴史や国家を構想することはできない、ということもある。これはエドマンド・バークが保守主義の四つの柱として国家と墓標(先祖=死者たち)と暖炉(家庭)と祭壇(教会)を挙げていることとも繋がるし、「戦艦大和の最期」や「きけわだつみのこえ」のような「死者たちの魂を鎮めるとともにその声を聞く」という話とも繋がってくる。
ロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権国家主義の極度の強まりといった現代日本の置かれている状況は、「戦って死ぬ人たち」が出ることを想定せざるを得ないわけで、ここに「生者の論理だけでは語れない」深さが政治に要求されるようになってくるということを言いたいのだと思う。
文化や伝統を大事にするということは死者との連帯であり歴史との連帯であるわけだが、「国を守るために死ぬ人たち」が出るということは、「死んだ人たち」と「生きている人たち」の間に強い連帯意識がなければ成立しない状況が日本に再び現前するということになる。これは少年マンガであれば「NARUTO」にしろ「鬼滅の刃」にしろ後進に遺志を託して年長者が命を捨てて道を切り開く、みたいな話になるわけだけど、現実の日本で新自由主義的なヤーヤーのために命を捨てるのでは馬鹿らしくてやってられない、という話にならないとは限らないわけだ。まあこれは古来戦争というものが必ず持つ性質ではあるのだけど。だから命を捨てて戦う人たちは英雄でなければならないし、命と引き換えにせめて名誉や顕彰が得られなければならないということになる。
米中対立において日本がどちらにつくべきか、というのが最終的に問題になるのは、中国の覇権主義が今に始まった話ではないというところに本質があるというのが先崎氏の指摘であって、つまりはそれは「中華思想」と言われるものであって、必ず「王道国家・中国」が「覇権国家・アメリカ」を打ち破って天下を太平にする、という思想につながるというわけだ。アメリカももちろん他国に頭を下げることのできる国ではない、アメリカが他国に従うことはないというのはいわば「マニュフェストデスティニー」だと考えるような国だから、ここで両者が相入れることはない、妥協することはあり得るが、という指摘は、福島亮太氏の「ハローユーラシア」などを引用して説明している。
私は基本的に自主防衛論者なのでアメリカにも中国にもつかないという視点は重要だと思っているのだが、ウクライナ戦争以来日本は「国際法秩序」の中にいるべきだと考えるようになっていて、しかしそれはおそらくは中国から見れば「欧米中心の世界秩序」に過ぎず、打破すべきものであると思われているだろうなと思うしそういう指摘はわかる。だからこの世界秩序の中で独自のポジションを取るというくらいしかできないかなと思っていたのだが、先崎氏は北岡氏のインドネシアとの関係を深めてEUにおける独仏のような関係を築くべき、という論を取り上げていて、そういう発想は自分にはないなあとは思った。
ただ、日本が「アメリカの取り巻き」でいて中国とことさら敵対するということは中国に対するリスクがあるということでももちろんあるが、アメリカが急に中国と手を握るという事態になった時に孤立する可能性があるという指摘もまあその通りだとは思う。これはニクソンやキッシンジャーの外交を思い出せばすぐわかることで、親米親台だった佐藤栄作内閣は状況の変化についていけず、田中角栄が北京に飛んで日中共同声明を出すことで両大国間の間に埋没しないで済んだという前例は既にある。
だから安倍氏の「自由で開かれたインド太平洋」という構想は状況が変化しても日本が孤立しないためには重要な枠組みの構築であるわけだけど、北岡氏のいう日本ーインドネシアーオーストラリアーインドというアメリカを抜きにした西太平洋連合の構想というのはうーん、そんなに上手くいくのかなという気はしないではない。
ただ、中身がどうあれまずはそういう国々との関係を深めることはプラスではあると思うので、それが軍事的なレベルでの協力までいけるかどうかはともかく、それらの国にとって「中国よりは日本の方が行動をともにできる国である」、という関係を持っていくことは重要になってくると思う。
多岐にわたる議論でなかなか短時間でそれぞれの問題を深めるのは難しいのだけど、読んでいろいろ思うところはあった。
***
7時50分の時点でまだマイナス10度以下。ただ予想としては最高気温は2度なので、とりあえず昨日よりは6度ほどは高くなるかなと思う。まあ、寒い。
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