明るいエーゲ海と暗いアテネ/楽しいものを提供してくれた坂本龍一/「頼山陽の思想」:「勢」について/絶賛と反動
Posted at 22/11/13 PermaLink» Tweet
11月13日(日)晴れ
昨日は仕事はまあまあ忙しかった。どうも最近食料を買いすぎてしまう傾向がある。自分で料理はあまりしないので惣菜類が多いのだが、気がつくと食べきれないくらい残っていたりして、賞味期限切れとの戦いになる。あまり食べすぎてもよくないので無理には食べないようにしているが、そうなると残ってしまうのでそれも勿体無いと思うのだが、腹は残飯処理の袋ではないという言葉を思い出してなるべく思い切って捨てるようにしている。
昨夜はブラタモリを見てからうたた寝をしてしまった。ブラタモリは長野の善光寺の回だったが、ほとんど知らないことだらけだったな。同じ県内でも諏訪と松本と長野ではだいぶ文化も違うし土地の成り立ちも伝わる民話のようなものも違う。佐久、木曽、伊那、安曇、北信とまたそれぞれ違うので、割と他地域のことは知らないよなあと思う。10時半に一度目を覚まし、歯を磨いてすぐまた寝た。ら、1時半に目を覚ましてしまったので二度寝したがあまり深くは眠れないうちに3時半になったので起きた。今朝は早くに出かける予定なのでブログを書くのと準備がある。
早く起きたのでなんとなくテレビをつけていたらエーゲ海の島々の教会が映っていた。エーゲ海というと真っ青な海、明るい太陽という印象なのだが、アテネの街にはどうも暗い印象があって、それはなぜかというとアンゲロプロスの「シテール島への船出」という映画の冒頭の場面で役者のオーディションが映っていて、その画面が暗かったからだ。
この映画では主役の老人が「私だよ」という場面から始まるのだが、街角でいろいろな人に「私だよ」と言わせるのがオーディションになるわけだ。そしてそのラストに主人公になる老人が現れて「私だよ」という。ああ、この人だよな主人公は、と納得させるような「私だよ」であるわけだ。
この映画は「ぴあ」で見つけて見に行ったのでだいぶ前のことだなと思う。「戦場のメリークリスマス」のすぐ後だった記憶があるので、1983年くらいだろうか。と思って調べてみたら日本公開は1986年だった。「戦メリ」の公開は1983年なのでこちらの記憶はあっている。「ラストエンペラー」が1988年か。順序はあまりよく覚えていないものだな。「アマデウス」の日本公開は1985年か。あの頃はいろいろな映画を見たなあと改めて思う。
今考えてみると当時は坂本龍一を割とフォローしていて、YMOの散開コンサートも見に行ったし、加藤登紀子とやっていた「Voices on the Border」にも行ったことがある。「ダンスリー」もよく聞いていた。「戦メリ」や「ラストエンペラー」も彼が出演していたから見に行ったという要素もある。加藤登紀子とのコラボはともかく、あの頃は坂本龍一や細野晴臣は「面白いもの」「楽しい音楽」を提供してくれる人たちだったよなと思う。高橋幸宏の「四月の魚」も良かったな。なんだか思い出話っぽくなってきた。まあ「あの頃」、80年代が楽しかったことは間違いない。
***
「頼山陽の思想」、彼の重要概念は「勢・権・機・利」その中でも特に「勢」が重要と。漢字は当然ながら多義的なので、これらの言葉が使われていてもそれがどういう概念かは人によって違うこともあるから、著者はそれを丁寧に比較していて、先秦時代からのさまざまな使われ方を検討して、それがどう頼山陽の思想形成につながっているかを見ていく。
「勢」は国家の安危興亡の所以になるものであり、大きくなってからコントロールするのは難しいがそれを起こしたり小さいうちに潰したりすることは可能で、また変化しているうちはコントロールもできるから、それをどう扱うかが大事だということになる。
これは前も書いたと思うがフランス革命の時に革命がどんどん過激化していくことを「事物の勢い」と表現する学者がいたことを思い出させる。
また、漫画「キングダム」でも「戦いの中で重要なのは「火をおこす」ことだ」という台詞があって、それが割と重要な概念になっているのだが、これはスポーツや戦争において「勢い」を重視することと似ている。これらは戦う「相手」がいることだから、どちらが勢いに乗っているか、どちらが勢いをコントロールできているか、つまりどちらが「主導権」を握っているか、が重要になるわけで、例えば野球の戦法でもランナーが塁に出たら「「セオリー」通り送りバントを決める」ことで勢いを掴むという考え方もあれば、好きに打たせてどんどん勢いを加速させるという考え方もあるわけで、全然違うように見えて「勢いを重視する」ということには違いはない。また自軍が不利な状況で起死回生のホームランを打つようなビッグプレーというものがあり、これも勢いをつけることに重要性があるわけで、例えば今回の戦争でも「キエフとハリコフを守り抜いた」とか「マリウポリを失った」とか「ヘルソンを奪還した」というような戦果が勢いをつけたり失ったりすることに重要だということがある。
政治における「勢い」というのはそうした敵味方の攻防、例えば失言した大臣を守るのか更迭するのかまたそのタイミングをどうするかというようなことが重要になる局面もあるが、経済に勢いをつけるために思い切った減税をするとか、安心感を与えるために福祉を手厚くするとか、政策によって流れを生み出すことも多い。
現在は民主主義的秩序がそれなりに作用しているので安倍元首相暗殺のような暴力的な事態が起こらない限りそんなに急激な変化は起こらないわけだが、前近代では君主と民衆の力関係をどう扱うかなども重要な「勢」に関する考え方であり、また地方政治や国際政治などにおいては「権勢」とか「威勢」といったようなものがいまだに大きな力を働かせていることは、プーチンや習近平が何をやろうとしているかということを見ていればわかる。北朝鮮が何をやっても「虚勢」を張っているとか、今の近代国家の人民は「去勢」されているとか、政治において「勢」に関わることは多い。最後の言葉は勢力だけでなく「性」に関わる言葉でもあるが、それが「勢」と関わりがあるものと考えられてきたからこそそのような言葉が生まれたわけでもあるだろう。
***
言葉のイメージを掴むのが大変で、なかなか読み進められない部分があるのだが、自分の中の知識や経験を総動員してその言葉にイメージを付与して自分なりに理解しながら読み進めている。他の本を読んでいてもそうだけど、頼山陽はおろか荻生徂徠まで「悪の近代日本を作り上げた元凶」のように見なす人たちがいるとか、とかく「反動的」とみなされてきた人々が、特に「日本外史」が売れすぎたことで「勤皇愛国」の教祖みたいにみなされてしまった頼山陽の本当の意図するところが埋もれてきてしまっているところを、ちゃんと掘り出して正当に評価するという試みは本当に重要で、近世・近代思想史の外形もかなり変わりうるのではないかと思う。
この本を読んでなるほどと思ったことの一つは山陽の著作のうち「日本外史」が道徳的な応報論の立場を割と強調し、「日本政記」が「上が驕り下が不満を持つことで政治が転変するのは必然の勢」という見方を示し、「通議」では源氏の政権奪取は国司の権力が弱く中央が権力争いに明け暮れたことによるもので、制度の欠陥であるとした、というようにそれぞれが重点を変えて語られているということで、山陽自身としてはかなり戦略的に書いているということは理解できた。今読んだところまでのこの本の骨子はそういうことだろうと理解している。
しかし実際は「日本外史」と志を歌った「詩文」が評価されて学問的な部分は明治以降はあまり見えなくなってしまったが、実際には大きな影響を持ったというのが「天下の大勢の政治思想史」の骨子であると考えて良いのだろう。
実際この本は読みでがあり、返却期限の26日までに読み切れるかどうかわからないが、頑張って読んでみたいと思う。
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