フランス啓蒙時代の「文芸の共和国」と江戸後期の学問の自由な雰囲気
Posted at 22/11/11 PermaLink» Tweet
11月11日(金)晴れ
昨日は懸案が一つ進んだ。進んだと言っても解決したわけではないのだが、先の見えない話なのでとりあえず前に進んだということでよしとしておこうと思う。それにしても最近もの忘れがひどいというか、やろうとしていたことをやる直前になって忘れる、みたいなことがよくある。今日もゴミの日なので何箇所かのゴミを集めて回ろうと家を出たのに、家のゴミを持って出るのを忘れた。今日は最後に家のゴミを回収して捨てることになるが、まあ仕方がない。
濱野靖一郎「頼山陽の思想」(東大出版会)、荻生徂徠とその後継者たちのところを読んでいる。同時にウィキペディアを読んだり、「日本思想史ハンドブック」(新書館)のなかの片岡龍「分水嶺としての荻生徂徠」を読んだりしている。江戸時代の思想史はそんなによく分かってないので、読んでいて色々な発見がありあるいは解釈しながら読んだりしていて、その解釈が正しいのかどうかもよくわからないのだが、それぞれが面白い人たちだと思った。
荻生徂徠については「天」や「先王の道」を自分たちが作ることはできない隔絶したものと見て、孔子でさえ彼らの作ったものを祖述し後代に伝えることができただけで新たに作り出すことがなかったというのが面白いと思った。「思想史ハンドブック」では道徳に厳しい朱子学者を道学先生と呼んで批判したという記述があったが、ある意味学問を倫理から解放したといえばいいか、文学を儒学から解放したといえばいいか、どちらかといえば堅苦しいものであった学問がある意味人間解放の手段として、特に文学に関してはその方向に解釈されるようになったきっかけが荻生徂徠であるというふうに読んだのだ。
徂徠は朱子学という官学を批判したことで旋風を呼んだが熊沢蕃山のようにお預けにされたりすることはなかったのは、学問がより客観的な価値のあるものとして認められるように幕府も社会も変化したということなのかなと思う。これも「思想史ハンドブック」の記述だが、徂徠の弟子たちは詩文を重視するグループと経学を重視するグループにわかれたが、一世を風靡したのは詩文派の方だったと。江戸後期の詩文というと酒を飲んで高歌放吟というイメージがあるが、この辺り方が生まれたのだろうか。
江戸時代後期の学者たちのある種の自由さというかそういうものがいつどのようにして生まれたのか不思議だったのだが、徂徠の影響が大きいのではなかったかと思った。思想は違っても、寛政三奇人や蘭学者グループみたいな人たちが出てきたのはそういうある種の自由さが必要だったのではないかと思う。徂徠を受け入れたのは吉宗の度量だという指摘が「頼山陽の思想」にあったが、蘭学の研究の端緒も青木昆陽らにそれを命じた吉宗から始まるわけだし、吉宗の「開明性」ということもあるかなと思う。
吉宗の政策の積極的な部分が田沼意次に受け継がれ、倹約など引き締め的な部分が松平定信に受け継がれたという印象があり、その意味で江戸後期の政治の出発点のような意味があるかなと思った。
私がフランス革命を専攻したこともあるのだけど、革命に先立つ啓蒙思想の時代に、ヴォルテールやルソーのキリスト教に基づく伝統的な思想や体制を批判する自由な言論が盛んに行われたことで若者たちがある種の「文芸の共和国」みたいな理想を持ってパリに集まった、という話と似ている感じがした。橋本治に「江戸にフランス革命を」という本を思い出したりしたが内容は覚えていない。
18世紀のフランスではそういう若者たちが現実にぶつかって作家としては食べていけず、ブリソーのように当局のスパイになったりサン=ジュストのようにポルノまがいの小説を書いたりして食い繋ぐ中で不満が鬱積していき、革命が起こると彼らがその中で頭角を表して革命家として活躍するという下地を作っている。徂徠に始まる学問や文芸に対してのある種の自由な雰囲気というものが江戸後期の学者やその教えを尊重する武士や町人たちの間にある意味育まれて行ったことが、黒船来航その他の危機において志士として立ち上がる人々が数え切れないほど出てくるような下地を作ったのではないかと思ったのだった。
このエントリの内容は結局頼山陽に関わる内容ではなくなってしまったが、頼山陽という人も相当素行に問題があったということは言われているし、そのような人物が評価され人気を得て行ったのも、荻生徂徠にはじまる道学批判的な部分が一つの下地になったのではないかと思ったりはした。
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