滅び去った国の文化も見直してみたい:「元明詩概説」を読んでいる
Posted at 22/09/25 PermaLink» Tweet
9月25日(日)曇り
昨日は朝ご飯の頃からよく晴れて、一日いい天気だった。午後はしっかり仕事をして、夜はブラタモリの下北半島の回を見ているうちに何度も寝落ちしそうになり、9時ごろには寝て、3時ごろ起きた。
作業場に来てコーヒーを飲んでいるけれども、自分で淹れるコーヒーとセブンのコーヒーのどちらにしようかと思うことは結構あり、今日は自分で淹れているけれどもセブンで買うことも多いのだが、味が違うのは豆の違いか抽出方法の違いか。専門店で飲むコーヒーの方が無論美味しいのだが、最近はほとんど行ってないのでそういうことを考えていたりする。
昨日は図書館で見て面白いかなと思って借りてきた吉川幸次郎「元明詩概説」(岩波文庫)をパラパラと呼んでいたのだが、何人か気になる人が出てきた。
https://www.iwanami.co.jp/book/b246148.html
まずは金の詩人・元好問(1190-1257)という人物。この人について読んでいて初めて知ったのだが、いわゆる宋金時代、つまり南宋と金の並立した時代というのは、教科書的にも南宋の文化についてはよく書かれていても金についてはほとんど触れられていないので、金にこういう卓越した詩人がいたということさえ驚きだったのだが、南宋は金を文化的に見下していて、実際にほとんど文化人の往来もなかった(宋の詩人が捕えられて金の政府機関の翰林に強制的に出仕させられたことは何度かあったようだ)ようで、後世にもその実態があまり伝わらなかったということもあったようだが、元好問の詩に現れている金の都市の様子などを読んでいると、モンゴルに滅ぼされるまでの金はある程度の文化的繁栄をしていたということがよくわかる。漢文を読めなかったモンゴルの皇帝達と違い、金の皇帝達は自ら漢詩を詠んだりしているのだという。
元夕
元好問
袨服華粧著処逢
六街灯火鬧児童
長袗我亦何為者
也在遊人笑語中
正月15日の夜、すなわち元夕に、着飾り化粧した女性達に至るところで会い、また子供達は六つの街路いっぱいの灯籠の灯りに騒いでいる。書生の服を着た自分は何をしようか。夜を楽しむ人たちの笑い声の中で気ままに歩いている、というような意味だろうか。これが書かれた時期はすでにモンゴルに北京を占領されて開封に遷都しているわけだが、北宋の時代の首都・開封の繁栄のように、同じように賑やかな繁栄を示していたということのようだ。
それが一転してモンゴルに征服される。彼の詩が強く印象に残っているのは最初に引用されていた「岐陽」という詩の一説だ。
岐陽
元好問
百二關河草不橫
十年戎馬暗秦京
岐陽西望無來信
隴水東流聞哭聲
野蔓有情縈戰骨
殘陽何意照空城
從誰細向蒼蒼問
爭遣蚩尤作五兵
この中の、「野蔓有情縈戰骨 殘陽何意照空城」という部分が引用されていて、印象に残った。
「野蔓は情ありて戰骨にまとわり、殘陽は何の意か空城を照らす」というのを読んでいると、滅び去った都で戦った人の骨にすでに野薔薇が絡まりつき、赤い夕日が破られて空になった城を虚しく照らしている、という感じである意味ファンタジーもののラノベの風景などが思い浮かべられる。「ナルニア国」の「魔術師のおい」に出てくる滅び去ったチャーンの都の風景も思い出した。
この時代の詩は日本の和歌と同じく古詩に学ぶところが大きく、特に唐の詩に学ぶ部分が多いそうなのだが、彼自身は陶淵明が憧れの詩人だったらしい。吉川氏は「詩の形に新しいところはないが、読む内容が変わっている」と指摘されていて、貴族社会ではないいわば市民社会になっていた宋金時代の街の風景や、モンゴルに滅ぼされた都市や城郭の風景がそれまでの戦争との違いのようなものを描き出しているように思われた。
彼は同じく金の人で北京征服時にモンゴルにくだり、政府の中枢に入った耶律楚材と同じ歳だそうで、考えてみたら耶律楚材は大変な文化人として知られていたわけだから金にもそういう人はいたわけなのだが、恐らくは南宋から見たら二流三流文化の扱いであり、またモンゴルから見ても被征服民に過ぎないとみなされていたわけで、なかなか金の文化というものは正当には評価されにくいのだなと改めて思った。
彼の詩は江戸時代の末期に日本に伝わって評価はされていたようなのだが、文化史的にはあまり読んだことがなかったので、少し見方が改められる感じがした。
南宋の詩人といえば「正気の歌」の文天祥(1236-83)が有名で、この本でも大きく取り上げられているし、日本でも浅見絅斎の「靖献遺言」で紹介されて以来広く知られ、幕末には志士たちに愛誦され、藤田東湖も同じ題で詠まれた詩があり、こちらも有名だ。ただ私自身としてはこういう「抵抗詩人」みたいな人よりは元好問の詩の方が好きだし、元の時代に流行したという楊維楨(1296-1370)の詩のなんというかふわふわした感じが好みだ。
今日は用事があるので今はここまでにしておくが、また後で加筆できたらしたいと思う。
滅び去った国の文化も見直してみたいものだと思った。
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