「2.5次元の誘惑(リリサ)」第122話「業火」を読んだ:世界地図を広げて道に迷っているキミへ
Posted at 22/09/18 PermaLink» Tweet
9月18日(日)曇り
https://shonenjumpplus.com/episode/316112896845928236
橋本悠「2.5次元の誘惑(リリサ)」という漫画がある。ジャンプ+に土曜日に現在は隔週で連載されているコスプレをテーマにした作品である。コスプレという言葉の元はCostume Playであり、英米では主に普段着ない衣装を着た芝居、つまり時代劇(シェークスピアものなど)のことを指す言葉なのだが、日本では主に漫画やアニメの登場人物と同じ衣装を着て、その役や漫画アニメの中の場面を再現することについてこの言葉が使われている。あまり馴染みのない人にはもう一つ伝わりにくい活動だと思うし、私もこのマンガを読むまでは具体的にちゃんとしたイメージができていなかった。
この作品の中では「アシュフォード戦記」という戦記ファンタジーもののスピンオフとして「リリエル外伝」という作品に出てくるリリエルという役が焦点になっているのだが、都内の高校生で「世界一のリリエルオタク」を自認する奥村のいる漫研へ、リリエルのコスプレをしたいので、その写真を撮って欲しいという新入生、天乃リリサが現れ、リリサの夢を叶えるために二人の活動が始まる、という内容だ。
活動を続ける中で奥村の幼馴染・アイドルモデルでリリサの同級生の美花莉(みかりん)が部室に顔を出すようになり、元「コスプレ四天王」のまゆら様ことまゆり先生を顧問に迎え、「コスプレ5人の新星」の一人に数えられるようになり、新星の1人のののあ(ののぴ)と一緒に活動するようになり、「リリエル外伝」の作者の娘・アリアも仲間になり、奥村の初恋の人だったまりな(まり姉)も加わって、その活動は充実したものになっていく。
今回の参加者はこういったメンツ(コスプレしているのはリリサ・みかりん・ののぴ・アリア)なのだが、それに一人新入生が加わり、彼女がメインの展開になる。新しく加わった翼貴(ツバキ)だが、頭がよくお嬢様で何不自由ない育ちながら、自分には何かが足りないと悩み続けていて、それを掴むために「オタクになりたい」と入部し、リリサたちのコスプレを見て自分もやりたいと志願して、最初のイベントであるコススト(コスプレストリーム)に臨む。「四天王」二人も「リリエル外伝」の悪役衣装で対抗してきて大盛り上がりになるのだが、ツバキは一人そのノリについていけない。昨日9月17日(土)更新の第122話「業火」はこの場面から始まる。この話は上のリンクから読めます。
私はこの作品がとても好きで、Kindleで読み始めてからあっという間にのめり込み、何度も感動してきたのだが、その中でも今回は少なくとも自分にとってはいわゆる「神回」の一つで、何度も読み返しただけでなく、一コマ一コマをアップにしてじっくり堪能し、作者の細かい工夫まで味わう感じになった。
コスプレ勢ではリリエルに扮したリリサが中心なのだが、元気のないツバキを見て休憩を入れる。屋内の休憩場所で盛り上がったまま休んでいるグループの中で、ツバキは一人元気がなく、「私はもう十分です。あとは皆さんで楽しんでください」という。楽しめない自分に幻滅して、「こんな自分が大嫌いです」と泣き出してしまうツバキにリリサはおろおろするが、「俺に任せておけ」と表情でいう奥村に、無言で信頼を示して彼女らは再びコスプレの囲みの中に戻っていく。
タイムラインや感想(ジャンプ+では作品の後に感想を書く欄があり、今回は2300以上の感想が書き込まれている)を読んでいると、この場面に言及したものが多いのだが、私もこの場面はよかったなと思う。
ツバキを心配するみんなに大きな笑顔を見せる奥村に、信頼で返すリリサ・みかりん・アリアと、奥村の表情に改めて目を見張るののぴ。まり姉は心配そうな顔を見せるが、それをまゆらが抑えてその場を奥村とツバキの二人にする。ここはひとりひとりの個性と奥村との関係性が言葉に頼らず絵だけで、表情や行為によって表現されていて、神業だと思った。
泣いているツバキは、一人奥村だけが残っていることに気づくのだが、「部長も撮影の仕事があるのでは」というツバキに対し、「俺の仕事は、強いて言えば部員に楽しんでもらうことかな」という。
ここからの展開は実際に読んでいただいた方がいい(上のリンクから読めます:というか第一話から完読して貰えばもっといい、ジャンプ+は1回目は無料で読めるので。ただこの作品は途中で方向性が変わっていて、2巻分くらいまではラッキースケベ的な展開が多すぎてアップルに規制されたらしく、修正がかなり入っているのでKindleか単行本で読んだ方がいいとも言えるのだが:注釈が多くてすみません)のだが、ここまでの感想を混ぜつつ書いてみたい。
今回の奥村の口調は、いつもと違うなと感じていて、なんでだろうなと思っていたのだが、「華さんは頭がいいから」というセリフが出てきて、そうか今回は奥村が「頭がいい子に向けての話し方」をしているからだ、ということに思い当たった。
今まで奥村が話してきた相手は、まず第一にリリサに対しては「リリサのリリエルが世界で一番可愛いんですけど?!」とド直球だった(第12話)のだが、それはリリサが天然で真っ直ぐなオタクだからだった。対人恐怖で声が出ないののあに対しては、心を解きほぐすような話をした後で「もし話すのが苦手だったら待ちます」と10分以上待って、それでののあは声を出せるようになり、リリサと話せるようになるきっかけを作った。(41-42話)自分が描いた作品があまりに評判が悪く、それを恥じる作者(つまりアリアの父)に対しては、「あんな漫画なんて言うな。作者に作品を貶める権利なんかない」「あんたが描いたあんたの漫画が、俺を幸せにしたんだ!その事実を変える権利なんか、作者なんかにねえよ」と圧倒的な肯定で作者をも圧倒した。(58話)
ツバキに対しては、兄が妹に話しているようだ、とツイートしている人がいてなるほどと思った。ツバキが奥村にだけ一見反抗的な態度を見せるのは、お母さんに対する態度と同じで「自分の持ってないものを持ってる大人」に対するやっかみと甘えの表現でもあるので、「兄貴と妹」という関係性はちょうど当てはまるなと思った。そういう子供っぽさを持ったキャラは今まで出ていなかったから(皆同級生以上)、ツバキの登場で作品の世界はまた広がったと思う。
「趣味に没頭することは現実逃避じゃない。現実も、二次元も全部が現実で、この日々が人生なんだ」という奥村に対し、ツバキは「才能の開花を強制し人間らしく生産性の高い生き方しか許されない希望のない未来をどう生きていくのか」と問うのだが、奥村は突き放したように「何かの本にそう書いてあったのか?」と問う。このコマは大仏顔(修学旅行で大仏を見ている男子の死んだ目)の奥村に、ツバキが顔を真っ赤にして怖い表情のだが、めっちゃいい。頭でっかちのツバキを煽っていてハラハラするけど、これがなければここからの展開がない。しかし描くのに私ならある程度勇気がいるなあとおもったコマだった。
奥村は「小学生の頃はまって2000時間やったゲームが後で見たら世紀のクソゲーと評価されていた」という話をし、人に作られた価値観で自分を測る必要はないんじゃないか、自分でやってみなければわからない、「もし人生がクソゲーだったとしても、俺だけは楽しめるかもしれないだろう」という。
そして本当によくできた比喩だっと思ったのが、「華さんは賢いから本当にいろんな事を知ったんだろう。でも俺には君が、世界地図を広げて道に迷っているように見えるよ」という。でも自分の人生、体験は自分だけのものだ。君が悩んでいる趣味も生産性も社会も未来も人生も幸福も、誰かの体験だ。「意味は自分で決めていいんじゃないか」と解きほぐす。そしてツバキは本当はなんでも楽しめる人間なんだ(それをオタクと奥村はいうわけだが)ということを再確認させる。
それは頭では分かっていても、周りのプレッシャーや自分の「生産性のある生き方をしなければという」自分自身が思い込んでいる価値観からの焦り強い焦りを感じていることを叫ぶように訴えるツバキに、「君に足りないのは狂気だ」、それを跳ね返して楽しむシンプルに圧倒的な熱量を、炎を爆発させろとハッパをかける。それを受けてツバキは、「自分に足りなかったのは炎だ」、と、ついに自分の中の自由に気づく。この展開は何度も何度も読んだ。
頭のいい子を動かすのはそれだけ段階を踏む必要があるわけで、考えすぎて自家中毒を起こしている堂々巡りしているエネルギーを、楽しむことに集中させることで壁を壊させる。すごくよくできた、頭のいい人の動かし方だと思った。改めて感心させられる。
奥村自身も本当はいろいろと深刻な問題を抱えていて、特に深刻なのは「2次元の女性は愛せるが、3次元の女性には興味を持てない」ということがあり、ただそれもリリサとの出会いでコスプレなら、つまり「2.5次元なら」心を動かされるということがわかって、それをヒントに成長し始める、というのが一貫した大きなテーマなのだが、こうしたツバキとの関係がツバキをどのように変え、そして奥村自身をまたどのように成長させていくのか、それもこれから楽しみなことの一つだ。
最初の方の話を読んでいるとただのエロマンガのような気がしてしまうのだが、方向性がはっきりしてきた12話くらい以降からは本当に熱い「ジャンプのマンガ」になっていて、しかも熱さだけではなく内容もどんどん深まって行っていて、本当に2週間後が待ち遠しい作品になっている。
「コスプレ」が題材なだけにエロが苦手な人にとっては読みにくい部分もあるかなとは思うのだが、本当に面白いので一度手に取ってもらえると気に入っていただける人も多いのではないかと思っている。今年の夏のコミケでは「リリエル」やリリエルの仲間達「天使空挺隊」のコスプレをした人もたくさんいたらしく、コスプレイヤーたちの間でも読む人が広がっているのは嬉しい。今後の展開に期待したい。
***
昨夜はブラタモリを見ようと思ってテレビをつけたら巨人戦をやっていたので予定を変更、少しスマホを見ていたけどすぐ眠くなったので9時ごろには寝たのだが、1時半ごろ起きてしまい、2度寝したけど3時に目が覚めてしまったので風呂に入って、お茶を飲んだらもう感じが変わっていて眠いのか眠くないのかわからないまま今日の行動について考えていたのだが、4時半ごろに西友に買い物に行き、さっき戻ってきた。卵がなかったと思って1パック買ったらまだ7個くらい残っていて、2週間あるから食べられなくはないと思うが突然の卵長者になってしまった。
ブログは何を書こうかと思っていたのだけど、昨日「2.5次元の誘惑(リリサ)」についてかなり何度もツイートしているので、ブログに形にして残すためにも、少し書いておくことにした。
感想というものは結局ストーリーを書かないと説明できないのでちょっと書き過ぎてしまったが、
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