「鎌倉殿の13人」第36回「武士の鑑」を見た:小栗旬(北条義時)と中川大志(畠山重忠)のガチの殴り合いに驚いた
Posted at 22/09/19 PermaLink» Tweet
9月19日(月)雨時々曇り
今日は敬老の日なのだが、移動祝日になってから敬老の日という感じがあまりしない。台風が接近していて、今は九州あたりにいるようなのだが、こちらでも時折強い雨が降るし、強い風が窓に吹き付ける時もある。明日が彼岸の入りで、もう秋も暦の上では半ばに差し掛かっているわけだが、暑かったり涼しかったり、この台風が季節の変わり目になるのだろうか。
昨夜は「鎌倉殿の13人」第36回「武士の鑑」を見た。扱われているのは1205(元久2)年6月の畠山重忠の乱。この回の放送についてはタイムライン上でもいろいろ語られていて、自分の中でもいろいろ思うことが渦巻いている感じがあり、なかなかうまく書けない感じがある。
史実としての畠山の乱というのは武蔵支配を狙う北条時政が畠山重忠に謀反人の汚名を着せ、北条義時を総大将とした幕府軍によって二俣川(現在横浜市の免許試験場がある)で滅ぼした戦いということになる。
もともと畠山重忠は時政の娘(役名はちえ)の婿でもあり、時政に協力して行動してきたのだが、比企氏を滅ぼして武蔵に支配を広げ、牧の方の娘婿である平賀朝雅が国司となったこともあって、在地勢力の雄である畠山と国衙領をめぐる対立もあったところに、時政と牧の方の子・政範が京で急死した事件をめぐって平賀と畠山重保との間に対立が起こり、時政が平賀の側についたことで対立が激化するというきっかけもあった。
ドラマの中では前回の「苦い盃」で重忠は義時と盃を交わす中で、「あなたはわかっているはずだ」と時政のやり方を非難しているわけだが、義時は「それ以上は」と止める。争いを未然に防ごうということだけれども、重忠追討を決意した時政は幼い鎌倉殿・実朝を半ば騙して下し文に花押を書かせ、追討を後戻りできないようにする。
義時はそれならばと戦いを避けるために総大将を引き受けるわけだが、高地に陣をとる畠山に対し、その戦う意志の固さを知り、和田義盛を説得に向かわせる。この場面は本当にほのぼのしている。
和田義盛が説得に来るのを、畠山重忠は受け入れて話をするわけだが、畠山の決意の硬さを知った和田が「それなら」と言いかけると「腕相撲はしない」と制止し、実際に兵を戦わせると、「和田は馬鹿の一つ覚えで横から攻めてくる」と戦術を見抜いているわけだけど、つまりは中川大志さんがいうように「畠山は誰よりも和田のことを理解している」ということで、その二人の最後の場面として見ると、感慨深いものがあった。
戦が始まると和田の突撃を華麗にスルーし、バッタバッタと幕府軍を薙ぎ倒していく重忠だが、義時を誘き出すために初陣の泰時を狙うのだが、それに気づいた義時と一騎討ちになる。馬上での戦いから馬から引き摺り下ろしての組み伏せての殴り合い。これは流石に鎌倉時代の戦い方ではないと思うが、「重忠に一発殴られたい」というのは義時役の小栗旬さんの希望でもあったらしく、希望通りやたら泥臭い戦いになったわけだ。鎌倉武士の華麗な騎馬戦を再現するには騎馬と騎乗する武士の数が足りないということもあっただろうけど、ここは華麗さよりも泥臭さ、というか二人の「人間臭さ」を表現したかったのだろうなと思う。
圧勝した重忠が脇差を死を覚悟した義時の顔の横に突き立てて去っていく場面は、現実ならありえないことではあるけど、それだけの強さを持った重忠という武士が、義時に「鎌倉を正す」ことを求めた、という中川さんの解釈をここは敢えて取っておきたいと思った。
ついに人気の高い、また役者としての評価もうなぎ上りの中川大志さんの畠山重忠が退場したわけだが、そのあたりを語ったインタビューも読ませるものがあった。
見せ場はもちろんこの戦の場面だが、戦の前に幕府首脳が話し合う中にりく(牧の方)が加わって口出しをしていて、時政に「死を覚悟した武士の恐ろしさを知らない者が口出しをするな!」と思わず一喝するところなど、見どころはあったのだが、この場面も皆が立ち話をしているのが不自然に思ったのだが、確かに腰を落ち着けての話とは雰囲気が違うということもあるかもしれないし、まあ今回は普通の大河ドラマの演出からすれば破格なところはあったのではないかと思った。
畠山討伐後に北条への不満が高まったのを時政一人の責任に転嫁させ、稲毛重成を討ってさらに時政への不満を高める手段をとった義時に、時政は悔し紛れに笑ってみせ、政子は「恐ろしい人になったわね」と言い、義時は「全て頼朝様に教えられたこと」と答える。八田知家を噂づくりに加わらせ、義時に知らせずに畠山重保を討った三浦義村には「下がっていいぞ」と怒りを表明する。そして時政の実質的な権力を奪うために政子に没収した畠山の所領の分配を行わせる。時政にはめられた実朝も責任を感じ、政子にそれを委ねることになる。
ラストは流れるように次回予告につながり、当然ながら話は「牧氏の変」につながるわけだが、副題が謎の「オンべレブンビンバ」というのがつけられていて、ネットでかなり話題になっている。イタリア語で「愛児の影」という意味だとか密教の呪文だとかいろいろな説が流れているが、次回それは解決するのだろうか。ついに北条家内が分裂するわけだが、それで実朝初期の政変は一度終息する。次は8年後、2013年の和田合戦になるわけで、まだまだ先は長い。
従来のこの時期の政変に関しては、「義時が全てやった」みたいな完全な義時悪役史観が支配的だったわけだけど、今回は極力「義時の意図」とは違う方向からのアプローチがとられていて、それでも義時がやったとしか考えられないところは敢えて汚名を着る覚悟のようなものを見せる展開になっている。私自身も、義時が能動的に策謀したことはそんなに多くないのではないかと思うし、判断の揺らぎがある部分も当然あると思うのだが、実際問題として伊豆の所領だけでなく鎌倉のある相模と大国である武蔵を支配したことが北条氏の強い権力基盤にはなっているので、これは比企・畠山を滅ぼした時政の功績であると言えなくはない。
義時の最大の事績は「上皇軍を討つ」という乾坤一擲の大博打に勝ったことであって、それまではちまちました部分が多い気がするのだが、その辺のところはもともと北条の館で米の分量を図っていた男であるというあたりがその表現につながっているのだろう。
あとつぎでもなかった米を量をはかるのが好きな陰キャの少年が最終的には朝廷を屈服させ上皇たちを島流しにする、というのがストーリーの最大の眼目なのだろうと思うし、そういう意味での現代性や批評性もあるのだろう。いわゆる「封建道徳」的な部分がほとんど全く出てこないのがある種の軽さをこのドラマに与えているわけだけど、そこに重厚な歴史の重みを感じたい従来の大河ドラマファンは物足りなさを感じると思うけれども、逆に言えばその軽さがある種の現代劇としてこの作品を見ることを可能にしているわけで、それぞれのキャラクターが現代の人たちに例えらるある種の使い勝手の良さみたいなものも、そこに由来してるんだろうと思う。
次回牧氏の変。「父の追放」がどのように描かれるのか、期待したい。オトブレブンビンバの謎も解けるのだろうか。
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