「ウクライナでの戦争」と「「いじめ」という平和な日本のバグ」/歴史書を読むときに押さえておきたい歴史観の違い/「宝治合戦」を読んだ
Posted at 22/08/18 PermaLink» Tweet
8月18日(木)雨
今朝は一時的に小降りの時もあったが、今はずっとそれなりに強い雨が降っている。夜中には1時間に10ミリを超える大雨が降っていたようだが気づかなかった。それだけよく眠っていたのだろう。ありがたい。
昨日は午前中に母を病院に連れて行き、午後は仕事だったが、比較的忙しくなかったので良かった。母の病院も、お盆休み明けだからかなり混んでいるのではないかと思ったが思ったほどではなくて助かった。電話して母のデイサービスのリハビリの様子を聞くなどした。コロナ状況になる前は見学させてもらっていろいろ母と話したりもしていたのだが、今はそういうこともできないので母の不満とやっている側の人の話を聞いてこちらで判断するしかない部分もあって難しい。この状況も早く終わりになってほしいなと思う。
細川重男「宝治合戦 北条得宗家と三浦一族の最終戦争」(朝日新書、2022)を読了した。350ページ余りの新書だが、うち190ページ超が細川さんによる宝治合戦を描いた小説で占められているという斬新な構成。これは面白かった。言葉遣いが横浜のヤンキーみたいなのはあまり私の趣味ではなかったが、そういう人たちが実は心に届く和歌を歌ったり(北条政村)幼い鎌倉殿(藤原頼嗣)の前ではちゃんとした言葉遣いで面白い話を聞かせてやることができる(覚知=安達景盛)というのは面白いと言えば面白いのだが、やはり小説家ではないのでその辺のテクニックはもう少しだなというところはあった。
ただ、自分が読んでいて面白かったのは左親衛=時頼と駒石丸(三浦泰村の息子で時頼の養子になった)とのやりとりで、必死になって戦いを止めようとする時頼がいざ戦いを避けられないと知ると冷徹に心温まる交流のあった駒石丸も切り捨てる、というところと、三浦光村が公暁を慕っていて、その死後は藤原頼経にその面影を見ていた、というところが良いと思った。この辺りのところはもちろんフィクションが含まれているだろうと思うが、それぞれキャラは立っていたなと思う。
宮騒動から宝治合戦への流れというのは知っていたようで知らなかったところが多かったので勉強になった。実質丸一日もかからずに読み終えた新書は久しぶり。鎌倉中期に関心のある人は取っ掛かりとしてはかなり面白いと思った。
***
現在「鎌倉殿の13人」をやっているので鎌倉時代に関心が高い人が多く、学者さんたちもそれぞれ発信しているので興味深く勉強にもなるのだけど、この時代の捉え方としては大きな流れで言って東大系の人たちによる「東国国家論」つまり武家政権の成立を画期的なものと見、東国の独立性を強調する流れと、京大系の人による「権門体制論」、つまり武家政権も全体で見れば一権門にすぎないという見方の二つがあることは知っておくと良いと思う。これはどちらが新しいとか古いとかいうことではないのだが、その人の立場を確認しておくことでより客観的にその主張・描き方を検討することができるから、より客観的な把握ができると思う。
この見方の相違はイデオロギーというところまではいかないが、古い体制がどれだけ形を変えて存続しているかという見方と、新しい勢力がどれだけ影響力を広げたかという見方の違いではあり、伝統的な見方をどれだけ受け継ぐかと革新的な見方をどれだけ示せるかという考え方の違いでもあるので、歴史においては視点の対立があるのだということは知っておくと良いと思う。古代史においても聖徳太子などの存在を抹殺しようとする方向性もあるし従来の日本書紀研究などの見方を受け継ごうという見方もあり、纒向遺跡の解釈などにもそれは及んでいる。どの勢力も自分の主張に沿った方向を「定説」と主張しがちであることもまた押さえておいた方が良いと思う。
***
ウクライナでの戦争をめぐって、「ウクライナは抵抗を止めるべき」という主張を新聞などで時々読むけれども、国際政治学や軍事学の専門の人たちは、そうした主張を強く批判している。私もロシアのウクライナ侵略は言語道断であってウクライナ全土から即座に兵を引くべきだと思っている。もちろんウクライナにもさまざまな問題があることが確かだが、それは軍事行動によって「解決」すべきではない、というのが現代において国際的に合意されている考え方であって、それを否定したロシアが非難されるべきであって戦って抵抗し、主権と生存を確保しようと必死になっているウクライナを非難する倫理的な根拠は全くない。
これを読んでいて思ったのは、校内暴力やいじめはいじめられる方も悪い」という「(間違った)理屈」を支持してきた人たちのメンタリティから「ウクライナが侵略されたのはウクライナも悪い。抵抗を止めるべきだ。」みたいな主張になっているのではないかということだ。
つまり、「表面的な平和」を礼賛し「現実にある暴力」をないものと見做してきた人たちが「ウクライナの必死の抵抗」に戸惑いを感じ、自分のアイデンティティが揺らぐ危機感から「ロシアといういじめっ子は言っても聞かないんだからウクライナちゃんは抵抗しない方がいいよ」と言ってるに過ぎないのではないだろうか。
そういう意味では「平和な日本社会のバグ」がこうしたリベラルインテリの言説に現れているのではないかと思う。
そして日本とウクライナの高校生同士が顔を突き合わせたら、言っている言葉はともかく、日本の高校生の姿形と振る舞いから、日本の平和さは伝わるだろう。それがどれだけ尊く羨ましく感じられることか、当の日本の高校生には想像もできないのかもしれない。
— Satoshi Ikeuchi 池内恵 (@chutoislam) August 17, 2022
このツイートを読んで少し泣きそうになった。シンプルに平和な生活を送れている人たちが多い日本がどれだけ海外から魅力的に見えるか。上にあげたような問題はあっても、世界的に見れば日本の平和は間違いない。
「日本の高校生が世界に発信できることは、80年近く前の知りもしない戦争ではなく、現在の平和な社会の幸福でしょう。」
全くその通りだと思う。「日常系のアニメ」が世界で受け入れられているのも、そういう平和な日常への憧れや共感があるのだろうと思う。パレスチナゲリラのヘルメットか何かに「涼宮ハルヒ」の絵が描かれていたことも、以前ちょっと涙腺にきたことを思い出した。
日本が世界の平和のためにできることは、こうしたマンガをロシア語やウクライナ語、アラビア語やパシュトゥン語などに翻訳して戦地にばら撒くことかもしれないと思ったりした。
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