人間らしい生活/ウクライナにおける「法の支配」の問題/中国がウクライナに求める軍事技術:兵器体系の問題/etc.
Posted at 22/08/20 PermaLink» Tweet
8月20日(土)曇り時々雨
今週もようやく週末。私の仕事は火曜日スタートなのだが今週はお盆休みが入り水曜スタートだったのだけど、この時点までで既にけっこう疲労している。母の病院も一回抜けたし仕事量はいつもより少なかったはずなのだが、逆に休み中の疲労が出たのかなあという気もする。
歳をとってきていいことも困ることもあるけれども、「頑張りがききにくい」ということは残念ながらある。かと言って、できる範囲で、というだけでやっていてはできることもできなくなる感じはあるので、どこかで無理をして、それをちゃんとケアする、というサイクルが必要だなと思う。歳を取れば取るほど、そういう生活のサイクルみたいなのが大事になってくる感じはある。
朝車を運転していてFMで「音楽の泉」を聞いていたのだが、ブラームスが取り上げられていて、ブラームスは秋から春にかけての音楽シーズンは指揮活動などで多忙で、夏に避暑地で作曲を行い、短いものなら仕上げてしまうが、長いものは音楽シーズンにピアノ版で試演してみたりしながら仕上げていくというサイクルをとっていた、という話を聞いて、なんというかこれが人間らしい生活パターンだよなあという気がした。夏の間に親しい音楽家たちが彼の住まいを訪れて交流していく、みたいな話を聞いているといいなあと思う。出てくる人たちがクララ・シューマンとかワーグナーとかドヴォルザークとか綺羅星の如くであることもあるのだけど。
かなり昔になるがケン・」ラッセル監督の「マーラー」をみたときの、森のイメージが思い出されたのだが、そういう自然との霊感の交流みたいな感じが生きている人間には必要だよなあという感じがする。
少女の挑発的な肢体を描いてメトロポリタンでボイコット運動が起こったりしたバルテュスなども、アトリエは自然光だけで仕事ができるような構造になっていたらしく、そういう場所が人間には必要だよなと思う。何も創造できなければ宝の持ち腐れだと言われても仕方ないが、それなりの仕事ができなければああいうものは作れないわけで、人は器に合わせた住まいを持つみたいなことはあるのだろうなと思う。
これは自分たちの世代の感覚なのかもしれないが、まず生活環境があって、そこから創造性が生まれるみたいな感じはある。ただ実際には、良い生活環境が得られればそれに満足してしまって創造の方に行かない気もする部分もあるのだが、ただ少なくともそういうヴィジョンみたいなものは持っていた方が励みにはなるよなと思った。
***
「世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」」読了。この本は以前に言及したことが何回かあるので、今回は後半部分の感想について書きたいと思う。「第4章 ウクライナが見せた覚悟」以降。
第4章は「国家の安全はいかにして確保されるか」ということでいくつかの問題点が指摘されているのだが、(1)力には力で対抗するしかない(2)そのためには軍事大国になるか集団防衛体制の一員になるかしかない(3)ロシアのような常任理事国が侵略当事国になった場合、国連安保理は機能しない、という冷酷な現実が整理され、従って(4)国連以外の安全保障の枠組み、特にNATOの役割が拡大していることが示され、それと同時に(5)G7にも果たすべき役割がある、ということについて語られている。
これは全くその通りで、既に「当たり前の現実」でしかない気はするのだが、おそらくまだそこの部分が共通認識として全ての日本人に共有されているわけではないことは、時々炎上する学者の発言や、Twitterでの「平和教育を受けた子どもたち」と「ウクライナの子供たち」の話の通じなさ、みたいな話題などを見ていればよくわかる。この部分の啓蒙はもっと必要だと思うが、平和教育方面の既成勢力からの反撃はまだまだ強いだろうと思う。
現在ロシアに対する圧力として機能している国際的組織は、一番にはNATOであり二番にはEU、三番にはG7というのはその通りだろう。この本で知ったことで言えば、著者の倉井氏は前ウクライナ大使として、2015年に設立された「G7大使ウクライナサポートグループ」について書いている部分で、なるほどと思った。
ウクライナは周知の通り、ロシアの侵攻前にも問題が全くない国ではなかった。特に語られるのは汚職についてだけれども、ソヴィエト連邦、つまり旧社会主義国内の一国であった時から国際社会に出てきて数十年、まだ西側と同じような国家体制が整っていない部分はいろいろある、ということはやむを得ないと思う。
ウクライナ自身も政権によって、特にヤヌコーヴィチ政権の時代はロシア寄りであったこともあるが、マイダン革命以後、つまりロシアによるクリミアの一方的併合・ドンバスの親露派政権樹立以降は西側に急速に接近している。G7側の支援内容は多岐に渡り、またゼレンスキー大統領とも半年に一度会合を持って、積極的に話し合ってきたという。
この支援について、著者の倉井氏が最も重視していたのは司法改革、特に「法の支配」の徹底にあったという。この分野に関してはいまだに旧ソ連時代の残滓との戦いの面が強くあるそうだ。この「G7大使サポートグループ」の動向はウクライナ政界で常に話題になるということで、ウクライナにとっても大きな意味がある支援であるようだ。
「法の支配」はもちろん近代民主主義の根本原則であるし、権威主義的な共産党体制やプーチン独裁体制とは最も相性が悪い。国家の代表である大統領にどのような権限を与えるかまできちんと法で定めなければいけないし、超法規的な措置は非常事態を除いて許されないということはあるわけで、システムだけでなく思想的にそれを徹底するのはそう簡単なことではないだろうと思う。ここはウクライナの民主化にとって一つの踏ん張りどころではないかと思った。
ロシアに対する経済制裁については半導体の輸出規制が一番効くような感じで書かれていたが、現時点でどうなっているのかはロシアからあまり聞こえてこないのでよくわからない部分が多いなと思う。もちろんトヨタを含め自動車の生産が止まっていたりの実害はもちろんあるはずだと思う。
***
もう一つ興味深かったのは第5章の中国との関係。中国とウクライナは緊密な関係にあると日本では考えられていたが、それほどのことはないと著者はいう。中国の一帯一路政策において重要なのはむしろベラルーシであり、軍事的緊張を抱えるウクライナはもともと中国は重視していなかったという。中国がウクライナに求めているのはむしろ軍事技術だという。
これはよく知らなかったのでググってみたのだが、以下の記事を見つけた。
https://gendai.media/articles/-/80829
ウクライナの民間企業であるモトール・シーチ社は元々はソ連の企業で航空機のエンジンを作り、また国営企業アントノフ社は機体を作っている。中国の兵器は基本的にソ連系の兵器なので、体系が同じウクライナ製の兵器に関する情報や機密は喉から手が出るほど欲しい、ということのようだ。
ウクライナ自身も兵器の体系は旧ソ連なので西側の兵器がレンドリースされてもすぐには使えず、米軍等の軍事顧問が指導したりしているようだけど、中国も基本的には旧ソ連の体系の兵器を使っているからウクライナに残るそうした技術が中国でも必要とされているということのようだ。逆に日本などにとってはそうした面でのメリットはあまりないということだろう。
この兵器体系というのは実はけっこう防衛にとって重要な事項なんだろうなと思ったのは、自衛隊が実は日本の兵器産業を信用していなくて、できれば輸入兵器を使いたいと考えているという記事(ツイート)を読んで驚いたことがある。本来軍事技術はその国の最高機密だろうと思うのだが、自衛隊は既に米軍仕様で強化されているから逆に日本独自の技術では困る部分があるということなのだろうか。この辺はミリオタの人は詳しいだろうと思うし、機会があったら読んでみたいと思う。
***
また著者が指摘するところの中国の世界戦略は、「米国の覇権を突き崩し政治軍事経済の各面において対等の地位を得て最終的に米国とのグローバルな戦いに勝利すること」とされているが、これはつまりは中国版の「最終戦争論」なのだなと思った。その過程において日本は大東亜共栄圏を作って対抗しようとしたが、中国はロシアとの関係を保ち、一帯一路政策で勢力を世界に拡大することが前提となっていると考えられる。
しかしロシアの動向は必ずしも中国の意図するところではなく、クリミアを軍事的に占領して住民投票で併合する手法などについては積極的には賛成できないということもあるようだ。というのは、これらは満洲事変で満州を軍事占領して満洲国を樹立した日本の手法などと共通する部分があることではないかと思った。
***
第6章はウクライナと日本の関係についてだが、ウクライナでは「北方領土の日」に政府にロシアに北方領土返還を呼びかけるデモが行われているのだという。これは同じくロシアに不当に領土を支配されているウクライナの連帯の意思表示と考えられるが、日本ではほとんど報道されていない。残念なことだ。
ウクライナとの関係は特にロシアといかに付き合うべきかという問題について、多くの知見を日本に与えてくれるところがある。それは軽視してはならないように思われる。
また、ウクライナのあり方や戦争の経過について、何度も書くが本当に色々なことが学べていると自分では思う。それをなるべく多くの人とも共有していきたいと思うのだが、その辺についてはまあ難しい部分も多いなと思いながらとりあえずはこういう文章を書いてみている。
***
関連だが、小泉悠さんが大手マスコミに取り上げられて記事になっているものがいくつかあったので、まとめておきたい。
小泉悠さんのロシア観 文春
https://bunshun.jp/articles/-/56361
https://bunshun.jp/articles/-/56363
https://bunshun.jp/articles/-/56364
小泉優さんのこれまで 朝日新聞
https://globe.asahi.com/article/14696970
https://globe.asahi.com/article/14697008
カテゴリ
- Bookstore Review (17)
- からだ (237)
- ご報告 (2)
- アニメーション (211)
- アンジェラ・アキ (15)
- アート (431)
- イベント (7)
- コミュニケーション (2)
- テレビ番組など (70)
- ネット、ウェブ (139)
- ファッション (55)
- マンガ (840)
- 創作ノート (669)
- 大人 (53)
- 女性 (23)
- 小説習作 (4)
- 少年 (29)
- 散歩・街歩き (297)
- 文学 (262)
- 映画 (105)
- 時事・国内 (365)
- 時事・海外 (218)
- 歴史諸々 (254)
- 民話・神話・伝説 (31)
- 生け花 (27)
- 男性 (32)
- 私の考えていること (1052)
- 舞台・ステージ (54)
- 詩 (82)
- 読みたい言葉、書きたい言葉 (6)
- 読書ノート (1582)
- 野球 (36)
- 雑記 (2225)
- 音楽 (205)
月別アーカイブ
- 2023年09月 (19)
- 2023年08月 (31)
- 2023年07月 (32)
- 2023年06月 (31)
- 2023年05月 (31)
- 2023年04月 (29)
- 2023年03月 (30)
- 2023年02月 (28)
- 2023年01月 (31)
- 2022年12月 (32)
- 2022年11月 (30)
- 2022年10月 (32)
- 2022年09月 (31)
- 2022年08月 (32)
- 2022年07月 (31)
- 2022年06月 (30)
- 2022年05月 (31)
- 2022年04月 (31)
- 2022年03月 (31)
- 2022年02月 (27)
- 2022年01月 (30)
- 2021年12月 (30)
- 2021年11月 (29)
- 2021年10月 (15)
- 2021年09月 (12)
- 2021年08月 (9)
- 2021年07月 (18)
- 2021年06月 (18)
- 2021年05月 (20)
- 2021年04月 (16)
- 2021年03月 (25)
- 2021年02月 (24)
- 2021年01月 (23)
- 2020年12月 (20)
- 2020年11月 (12)
- 2020年10月 (13)
- 2020年09月 (17)
- 2020年08月 (15)
- 2020年07月 (27)
- 2020年06月 (31)
- 2020年05月 (22)
- 2020年03月 (4)
- 2020年02月 (1)
- 2020年01月 (1)
- 2019年12月 (3)
- 2019年11月 (24)
- 2019年10月 (28)
- 2019年09月 (24)
- 2019年08月 (17)
- 2019年07月 (18)
- 2019年06月 (27)
- 2019年05月 (32)
- 2019年04月 (33)
- 2019年03月 (32)
- 2019年02月 (29)
- 2019年01月 (18)
- 2018年12月 (12)
- 2018年11月 (13)
- 2018年10月 (13)
- 2018年07月 (27)
- 2018年06月 (8)
- 2018年05月 (12)
- 2018年04月 (7)
- 2018年03月 (3)
- 2018年02月 (6)
- 2018年01月 (12)
- 2017年12月 (26)
- 2017年11月 (1)
- 2017年10月 (5)
- 2017年09月 (14)
- 2017年08月 (9)
- 2017年07月 (6)
- 2017年06月 (15)
- 2017年05月 (12)
- 2017年04月 (10)
- 2017年03月 (2)
- 2017年01月 (3)
- 2016年12月 (2)
- 2016年11月 (1)
- 2016年08月 (9)
- 2016年07月 (25)
- 2016年06月 (17)
- 2016年04月 (4)
- 2016年03月 (2)
- 2016年02月 (5)
- 2016年01月 (2)
- 2015年10月 (1)
- 2015年08月 (1)
- 2015年06月 (3)
- 2015年05月 (2)
- 2015年04月 (2)
- 2015年03月 (5)
- 2014年12月 (5)
- 2014年11月 (1)
- 2014年10月 (1)
- 2014年09月 (6)
- 2014年08月 (2)
- 2014年07月 (9)
- 2014年06月 (3)
- 2014年05月 (11)
- 2014年04月 (12)
- 2014年03月 (34)
- 2014年02月 (35)
- 2014年01月 (36)
- 2013年12月 (28)
- 2013年11月 (25)
- 2013年10月 (28)
- 2013年09月 (23)
- 2013年08月 (21)
- 2013年07月 (29)
- 2013年06月 (18)
- 2013年05月 (10)
- 2013年04月 (16)
- 2013年03月 (21)
- 2013年02月 (21)
- 2013年01月 (21)
- 2012年12月 (17)
- 2012年11月 (21)
- 2012年10月 (23)
- 2012年09月 (16)
- 2012年08月 (26)
- 2012年07月 (26)
- 2012年06月 (19)
- 2012年05月 (13)
- 2012年04月 (19)
- 2012年03月 (28)
- 2012年02月 (25)
- 2012年01月 (21)
- 2011年12月 (31)
- 2011年11月 (28)
- 2011年10月 (29)
- 2011年09月 (25)
- 2011年08月 (30)
- 2011年07月 (31)
- 2011年06月 (29)
- 2011年05月 (32)
- 2011年04月 (27)
- 2011年03月 (22)
- 2011年02月 (25)
- 2011年01月 (32)
- 2010年12月 (33)
- 2010年11月 (29)
- 2010年10月 (30)
- 2010年09月 (30)
- 2010年08月 (28)
- 2010年07月 (24)
- 2010年06月 (26)
- 2010年05月 (30)
- 2010年04月 (30)
- 2010年03月 (30)
- 2010年02月 (29)
- 2010年01月 (30)
- 2009年12月 (27)
- 2009年11月 (28)
- 2009年10月 (31)
- 2009年09月 (31)
- 2009年08月 (31)
- 2009年07月 (28)
- 2009年06月 (28)
- 2009年05月 (32)
- 2009年04月 (28)
- 2009年03月 (31)
- 2009年02月 (28)
- 2009年01月 (32)
- 2008年12月 (31)
- 2008年11月 (29)
- 2008年10月 (30)
- 2008年09月 (31)
- 2008年08月 (27)
- 2008年07月 (33)
- 2008年06月 (30)
- 2008年05月 (32)
- 2008年04月 (29)
- 2008年03月 (30)
- 2008年02月 (26)
- 2008年01月 (24)
- 2007年12月 (23)
- 2007年11月 (25)
- 2007年10月 (30)
- 2007年09月 (35)
- 2007年08月 (37)
- 2007年07月 (42)
- 2007年06月 (36)
- 2007年05月 (45)
- 2007年04月 (40)
- 2007年03月 (41)
- 2007年02月 (37)
- 2007年01月 (32)
- 2006年12月 (43)
- 2006年11月 (36)
- 2006年10月 (43)
- 2006年09月 (42)
- 2006年08月 (32)
- 2006年07月 (40)
- 2006年06月 (43)
- 2006年05月 (30)
- 2006年04月 (32)
- 2006年03月 (40)
- 2006年02月 (33)
- 2006年01月 (40)
- 2005年12月 (37)
- 2005年11月 (40)
- 2005年10月 (34)
- 2005年09月 (39)
- 2005年08月 (46)
- 2005年07月 (49)
- 2005年06月 (21)
フィード
Powered by Movable Type
Template by MTテンプレートDB
Supported by Movable Type入門