「鎌倉殿の13人」第33回「修善寺」:頼家の死が華々しい活劇に演出されたが、善児の死と被せたのがよかったのかどうか
Posted at 22/08/29 PermaLink» Tweet
8月29日(月)晴れたり曇ったり雨が降ったり
土曜日から引き続き忙しかったが、まあなんとかひと段落した。昨夜見た「鎌倉殿の13人」の感想を、今日のうちに書いておこうと思うのだが、いろいろなことをやった後なのでどんな感じになるか。
「鎌倉殿の13人」第33回「修善寺」を見た。
https://www.nhk.or.jp/kamakura13/story/33.html
今回は新たに発足した三代鎌倉殿・源実朝政権の成り立ちに関わる様々な周囲の蠢きと、修善寺に幽閉された二代鎌倉殿・源頼家のさまざまな動きからその暗殺までをめぐる話だったとまとめられるだろう。時期としては建仁3年(1203)の10月から翌年の7月まで、と言う感じになるか。
新将軍となった鎌倉政権で実権を掌握したのは執権となった北条時政だが、その妻りく(牧の方)の野望が時政によって実現していると言う感がある。また後鳥羽上皇は鎌倉から、つまり北条時政からの実朝の嫁探しの話に嫌悪感を示すが、これは源氏の将軍こそが後白河法皇以来、朝廷の守護者であると言う認識から来ていて、その家来に過ぎない北条氏があれこれ言うことに嫌悪感を示したと言う解釈で、これは割とそうかなるほどと思った。帝王からすれば全てが臣下なのは当然にしても、源氏は頼朝によって樹立された鎌倉政権の主人として配慮を示さなければならない存在であると認識しているが、その下の北条氏などは自分に物申してくるだけで嫌悪感を示すべき存在だと言うことになる。義時はそれを十分認識しているが、他の御家人たちにはどれだけ理解されているかはわからないなと思った。
実朝の教育係として派遣された源仲章は、実朝の乳母である実衣と結託し、政子が和歌を教えるよう依頼した三善康信を追い出す。史実としては誰が実朝に和歌を教えたかは特にわからないらしいけれども、実朝を独占しようとする人々と排除された人々、と言う対比が描かれていたのだなと思う。実衣の子・頼全を討ったのがこの源仲章なのだが、それは知らないと言うことになっているのだろうか。
頼家の方は追い出されたことに不満を述べるが、使いに行った三浦義村はやりたいようにやればいいが協力はしない、と言う。頼家の人望のなさが気の毒でもある。
比企の乱のやりすぎにより御家人たちに避けられてしまう北条氏だったが、頼家の問題に頭を痛める義時は和田義盛のところに飲みに行くが、そこにたまたまいた運慶に「悪い顔になったな」と言われる。「悪い顔だが、悩んでいる。悪い顔だが、いい顔だ。」と義時を表する運慶の言葉に、何か救いめいたものが感じられた。
毎回どんどん人が死ぬ凄まじい鬱展開のこのドラマだが、どん底はおそらく今回なのだろうと思う。だからここにこうした義時の悩みの話とか、頼家暗殺をいくつもの脇筋が絡むドラマチックに剣を交える展開として描き出し、「吾妻鏡」にあるような暗さを少しでもカタルシスのあるものに変えたのだろうと思う。
頼家が後鳥羽上皇と通じていた、と言う話は聞いたことがないのでよくわからないが、言われてみたらそう言うことがあってもおかしくないなとは思った。まあこのドラマでは梶原景時にすら食指を伸ばしているわけだから、無聊をかこつ頼家にモーションをかけても不思議ではないなと思った。
後鳥羽上皇に北条追討の院宣を要求した、と言う話が鎌倉に伝わり、ついに幕府首脳は追討をきめ、善児にやらせようとして、善児の小屋で兄・宗時の形見を発見して宗時を殺したのが善児であることを知る。しかし今の自分に善児を責めることはできないとそのまま頼家の暗殺を命じる。
それを聞いた泰時は義時に食ってかかり、危急を頼家に伝えに行く。その一本気なところに自分の若い頃を見るが、「じゃあ自分は兄上のなんですか」と時房に聞かれて、義時は答えられない。これがまた今後の展開に関わってくるのだろう。
頼家と猿楽を見ているとき、横笛の演者の手が動いていないのを見て「暗殺者」であると気付いて斬ろうとするが、善児に手もなくやられる。しかしそれで隙をつかれることなく二人は堂々と渡り合うことになり、頼家の書いていた「一幡」の文字に動揺した善児は頼家に切られるが、頼家も背後からトウに斬られて絶命する。そして善児も復讐の時を待っていたトウに斬られて死ぬ。考えてみたら修善寺に流された源範頼に仕えていた農民だった両親はここで善児に殺されたわけで、郷里の地でトウは仇を取ったことになる。
このドラマにおいて、善児というのはものすごく大きな存在になっていただけに、善児の死が頼家の死をよりドラマチックにした、というよりは、頼家の死の方が善児の死に隠れてしまったという感じさえするので、ドラマとしては面白いけれどもなかなか難しい演出になったなとは思った。
ただ、頼家の死が風呂場での暗殺ではなく、活劇の末の死になったことは、少しでも武士らしい死に方をさせてやりたいという配慮が三谷脚本にあったのではないかという気はする。
ただ、Twitterで指摘を受けてなるほどと思ったのは、「丸腰でなければ殺せない」と暗殺者が思うからこそ入浴中を襲う、それだけ相手がツワモノであると認識されている証拠だということで、それが共通認識になればむしろ入浴中に殺される方が英雄に相応しい死ということになるのかもしれない。
頼家の祖父にあたる源義朝も平治の乱の際、本拠の関東に落ち延びる際に家来に騙されて風呂場で殺されているし、また戦国時代に入った頃の関東で扇谷上杉家の家宰として活躍していた太田道灌が主人の上杉定正に恐れられて風呂場で殺されている。確かにいずれも優れた武将であることは確かで、優れた武将であるが故の屈辱、というような感じなのだろうなと思った。
来週以降も楽しみにしたい。
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