「鎌倉殿の13人」第32回「災いの種」を見た:救いようのない鬱展開の中に現れた美しさと希望の光
Posted at 22/08/22 PermaLink» Tweet
8月22日(月)曇り
「鎌倉殿の13人」第32回「災いの種」を見た。毎回鬱展開の度合いがどんどん更新されていくこのドラマではあるのだが、この辺りはおそらく、このドラマでもどん底のあたりにいるのかなあという気はする。
前回は比企氏が滅亡し、死ぬと思われていた頼家が回復するという形で地獄の釜の蓋が開いたわけだけれども、今回はその頼家に事実を知らせ、怒り狂う頼家を結局は修善寺に送るとともに、京都に使者を送り千幡の鎌倉殿継承承認と征夷大将軍の任官を求めるとともに、後鳥羽上皇が千幡に「実朝」の名を与え、名付け親となる展開ということになった。
もちろんそのようなことがすんなりといくはずがなく、頼家に「比企一族が滅亡した」という事実だけを伝えた政子に対し、頼家は「北条を必ず滅ぼす!お前もだ!」と怒り狂う。頼家も臨終出家で剃髪しているので坊主頭で凄みが出てきた部分もあるのだが、やはりある種の滑稽さも出てきてペーソスがあった。
泰時は実は頼家と比企の娘の子・一幡を殺さなかったことを義時に告白する。しかし義時は匿われている善児のところへ行き、殺せと命じる。一幡に慕われて情が移ってしまった善児は殺せないという。善児は鞦(ゆさはり=ブランコ)を作って一幡を遊ばせている。刀を抜いた義時に対し、善児の弟子のトウは「水遊びをしましょう」と一幡を連れ出す。「千鶴丸と何が違う」と問う義時に対し、「あの子は私を好いてくれている」と言い、泣きながらブランコの紐を断ち切る。
ゆさはりとは平安時代からある言葉らしく、ということはブランコもあったわけで、そういう史実も考慮されているのかなと思った。人間らしくなった善児に対比されて義時の非情さがより際立つ。
義時の妻である比奈は、比企の娘である自分に対する北条家内での風当たりの強さを感じたのか、身を引くときと感じて自ら離縁を言い出す。起請文を書いた義時から離縁を言い出したら神罰が下るから、と言っている。義時は何も言わず後ろから抱きしめ、二人が心を通わせた富士の巻狩の夜を思い出す。義時も別れることは不本意なのだが、大きな船を必死に漕いでいる最中なので乗せられない妻は降ろすしかない、という感じである。
頼家は和田義盛と仁田忠常を呼び出して比企滅亡の真相を聞き出すが、怒りの収まらない頼家は二人に時政を殺すよう命じる。和田は一族の三浦義村と相談するがたしなめられて時政に報告する一方、仁田は思い余って義時に相談しようとするが忙しいから後にしてくれと断られ、御所で自害してしまう。
ここはまたショッキングなのだが、義時はこのようなことをすると仁田のような忠義の士が死ぬと頼家に「忠告」する。わしのせいにするのかという頼家に対し、もちろんこちらが悪いのだが、と、頼家の置かれた立場を思い知らせる。この非情さは一度回り出したら止まらない何かの回転に義時も自分自身では止められない感じなんだろうなと思う。頼家は修善寺に送られる際も激しく抵抗するが、結局諦めて「父上、これでよかったのですか・・・」と泣き叫ぶ。
この辺りは、頼朝の後継者として非情に処断する義時と、頼朝の嫡子であるのに力を失ってしまって呆然としている頼家という痛々しい対比が描かれているように思う。
時政とりく(牧の方)は京から実朝の妻を迎えることを話し合うとともに、二人の息子である政範と、娘のきく、その婿である平賀朝雅を呼び出し、新将軍の任命の礼に上京するよう申し伝える。
千幡は元服し実朝と名乗り、新たな鎌倉殿及び征夷大将軍の座につく。その一方で頼朝のもう一人の妻・つつじの元にいる善哉のところに生きているのか亡霊なのかわからない比企尼が現れ、「北条を決して許すな」と言わば呪いをかけて去る。
***
どこを切っても驚くくらい鬱展開ばかりなのだが、思ったこと感想などを。
後鳥羽上皇から贈られた「源実朝」と書かれた文書の「実」の字が旧字の「實」でなく新字体だったこと。一瞬行書か何かでこういう文字があるのかと思ったが、Twitterで少し遡って調べてみると大江広元も「広」という字が旧字の「廣」でなく新字体が使われているとのこと。言われてみればそうだったかも。ということは、この作品では字幕だけでなく当時のものを再現した文書においても新字体を使う、というポリシーで行われているということなのだろう。
この行き方には基本的にあまり賛成できないなと思う。戦後使われるようになった文字を鎌倉時代の文書に再現するのは不自然だということもあるし、「広」や「実」が当時の字ではないということを知らない人にとっても、そのことを知るきっかけが失われる。ここは旧字体を使うべきではないかと思った。旧字体という言葉さえ、本来は「舊字體」と書くべきなのだが。
新たな展開の登場人物として北條政範と平賀朝雅が出てきたのだが、政範は線が細くて真面目そう、一方平賀はちゃらけた都の男という感じで妻よりりくに取り入ろうとする感じに演出されていた。ここで初めて出てきたこの二人は、割合早いうちに退場することになるわけだけど、基本的に相当重要でなければ子役は出さないという方針になっているのかなと思った。先週も比奈に「母上」と呼びかける二人の男の子がいて、これはのちの朝時と重時だと思うが、タイトルロールでも役名は出ていなかった。これは曽我兄弟もそうだったと思うけれども。時房もいきなり元服した姿で出てきて驚いた。この扱いも賛否あると思うが、てんこ盛りの話をスピーディーに進めるためにはやむを得ないことなのかもしれない。
逆に今回退場したのはまず頼家の子の一幡。これは史実では「比企の館で焼死」となっているが、このドラマでは泰時の機転で命を救われた。しかし義時は結局殺すよう命じるわけだが、今まで命じられるままに誰でも殺していた善児が命令を拒む。結局義時の意を汲んだトウが「水遊びに連れていく」わけだが、頼朝と八重の子・千鶴丸を殺したことを知っている義時に理由を問われて、初めて人間らしい感情を見せるわけで、正直主人公の好感度を下げてまで、というか地に落としてまでなぜ一幡が生きていたという展開にしたのかと思った。
しかしまあ、ここは「善児にも人間らしい情けがあった」ということを描き出すためだったのだろうと思う。ここ数回は義時の酷薄さに小栗旬さんのファンすら減るのではないかと冷や冷やする感じなのにさらに好感度を下げてまで善児のモドリを表現し、次回予告では善児が宗時も殺していたことを知る展開になりそうだけれども、一体どのように話を作るのか、ハラハラする感じがある。
二人目は義時の正妻・姫の前(比奈)。比企が滅びた後、いる場所を失った比奈は自ら別れを告げるけれども、仁田とともに頼朝死後の暗い展開の中で視聴者にとっても救いになり、また義時や泰時にとっても明るさを供給してくれた比奈がいなくなることを、もちろん義時もまた覚悟はしていたのだろうけれども、ここは表に感情を出せない立場だけに、辛さがより感じられると思った。
三人目は仁田忠常。気は優しくて力持ち、というこのドラマでの演出から、「吾妻鏡」に描かれているややこしい死に方は似合わないと思われたのだろう。頼家の命令を実行することも逆らうこともできずに、結局自害してしまう。このドラマの中でこういう死に方をした人は初めてなわけで、とりわけ鮮烈な印象があった。強くて明るい二人の退場は、この先の展開の困難さをより感じさせるなと思う。
これからは実朝がどう描かれるのかが問題だけれども、監修の坂井氏は実朝をお飾りでなく「将軍としての役割をちゃんと果たした人物だった」と著書の「源実朝」に書いているので、しばらくは実朝自身がこのドラマの太陽になるのかもしれない。
しかしその実朝の落日を告げる善哉(公暁)に、一族の恨みを背負った比企尼が北条許すまじを吹き込む。比企尼のこの使い方にはまたやりすぎなのではないかという感じもしたが、この展開を考えると和田義盛のところにいる巴御前も、和田合戦まで生きているのだろうなという気がする。苛烈である。
表題の「災いの種」というのは直接には義時が「生きていてはいけない命」という一幡のことだろうが、頼家自身でもあり、また調子のいい平賀でもあり、また比企尼に呪いを吹き込まれた善哉でもあり、また後鳥羽上皇が命名のはからいを与えた実朝との関係でもあるわけで、義時がいくらその種を摘み取ろうとしても摘み取りきれない様々なものが、またこれからも芽吹いていくことになるのだろう。
まあ言葉で書いてしまうと本当に鬱展開なのだが、別れの場面の比奈は美しかったし、御家人たちを前に怯まない実朝の器量にも期待できる。良い場面を楽しみつつ、物語を追っていきたいと思う。
***
昨夜は「鎌倉殿の13人」を見て、しばらくネットで関連情報を調べたりしていたが、なんだか疲れてきて10時半ごろ寝たのはいいのだが、2時過ぎに目が覚めてしまってそのあとは寝床で横になったもののよく眠れず、寝ているのか起きているのかはっきりしないまま4時過ぎに起きた。ちょっといろいろよくわからないことが周りに起こっていてそれこそなんだかよくわからないのだが、まあ心を落ち着けて適切に対処していきたい。今のところ、何が適切なのかもよくわからない部分もあるのだが。
まあなんとか落ち着いて、前向きに明るい気持ちでやっていきたいと思う。
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