「鎌倉殿の13人」第30回「全成の確率」を見た:阿鼻叫喚の展開に救いを与える三谷演出の巧みさを感じた
Posted at 22/08/08 PermaLink» Tweet
8月8日(月)晴れ
昨日は午前中に岡谷に出かけて、「全部ぶっ壊す」の単行本3巻を買おうと思って行ったのだが、最初の書店では売り切れで、支店に電話してもらってモールの中の書店で取り置いてもらい、ようやく入手することができた。なければ松本まで行くかなー、と思っていたので助かった。ユニクロでリング式のベルトを買い、スーパーで昼と夜の買い物をして最初の書店に戻り、色々物色したが結局ピンキー・ウィンタースの「Pinky」を買った。彼女の動画は探したが下の二つが見つかった。50年代、アメリカの良き日々の作品。
それから今井登志喜編「信濃二千六百年史」の古本(昭和16年刊)と、細谷雄一編著「世界史としての大東亜戦争」を買った。今井は高校(旧制中学)の先輩・東大西洋史の大先輩ということになるが著書は出さずにこうした編著を主に出すタイプの学者だったとどこかで読んだことがある。彼のものを一冊買っておきたいと思っていたので買ってみた。「世界史としての大東亜戦争」は面白く、今少しずつ読んでいる。
***
午後は本を読んだり部屋の片付けをしたり、夕方になってから草刈り機で駐車場の草を買ったりして過ごし、「ワンピース」の録画を見ながら夕食を食べて、8時から「鎌倉殿の13人」第30回「全成の確率」を見た。
取り扱われた史実は建仁三年(1203年)5月の阿野全成の変と6月の処刑だが、この年は鎌倉殿・頼家は病にかかり8月には危篤状態になっていて、9月に比企能員の乱が起こるなど激動の半年間になる。
ドラマでは時政とりく(牧の方)に唆された全成が頼家を呪詛した証拠が、アヴァンの時連(時房)と平知康の師弟コンビの蹴鞠コントで後頭部に玉を喰らった知康が倒れて床下の人型を発見するというドタバタから、OPが終わると詮議の場に移り、狼狽える時政と事態を鎮静化しようとする義時、これを機に一気に北条を潰そうとする比企能員など、一気にドラマは緊迫する。
しかし頼家は口出しをしてくる比企を疎ましくも思っていて、また貧しい御家人たちに土地を与えることを考え、比企や北条などの大領主から所領を取り上げて分配するという一所懸命の御家人たちにとっては到底受け入れ難い策をまず「側近である比企」に強要しようとする、という政策問題も絡んでくる。この辺史実にこういうことがあったのかは知らないのだが、比企がより家に対し腹に一物を持つようになる動機としては上手い設定かなと思った。
今回の主役は拷問され常陸の八田の所領に流される阿野全成と妻の実衣(阿波局)なのだが、尼御台所として頼家に対しても大きな発言力を持つ政子は全力で実衣を守る。結局全成が流されるだけで話は終わると思いきや、比企が頼家に対する呪詛を配流地の全成を訪ねて依頼し、その人形が見つけられて結局全成は処刑されることになる。
このドラマの中では終始一貫して全成は頼朝の弟であり義経の同母兄だが人の良い、また法力的にもあるんだかないんだかよく分からない(その確率の低さが今回のサブタイだったわけだが)、でも奥さんを可愛がるキャラとして描かれてきて、その辺りを今回は徹底的に描き切り、伏線も回収した感があった。
処刑の場面の全成は実衣との出会いの場面で「九字を切って風を起こす(臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前を唱えて印を結ぶ)」ことに失敗した伏線を見事に回収して嵐を呼び起こし、「お前には赤が似合う」という妻想いの気持ちを自分が斬られた血を見て思いだし妻の名を叫ぶ。恐れ慄く従者たちの中で八田知家だけは神仏の祟りを恐れず全成の首を切り、首桶を鎌倉に送る。義時からその話を聞いて涙ながらに夫を誇りに思う実衣の表情は、確かにこの人にしかできない演技という感じはあった。
全成と実衣の夫婦はこのドラマでは基本的に喜劇枠で、話の展開にとってはプラスアルファなので撮ったもののカットされた場面はかなりあるらしいのだが、今回はそれぞれが全開に描かれたサービス回という感じもあった。特に、「差をつけられた」と感じている姉の政子に保護されることに抵抗を感じている天然で子供っぽい実衣が、尼装束の頭巾が蒸れないかと女学生みたいな会話を政子とする場面は、一周回って姉妹に戻った感じがよく出ていたなと思う。
義時はこの一連の出来事で「比企を排除する」という思いを固めていくわけだが、それを頼家に忠言するために呼び出した比企とのやり取りの末に、頼家の急病が告げられるという場面で終わった。
ラストの比企の「自分の望みは一幡を鎌倉殿の座につけて日本一の武士として京に上り、君臨することだ」と自分のストレートな欲望を義時にぶつけるセリフは、恐らくはこの時代の武士にとって自然の欲望の表現であったと思われるが、結局は「源氏を鎌倉殿としてトップにいただく御家人連合政権としての鎌倉(政権)を確立し守っていく」という立場の義時と政子と、「私利私欲の塊」として描かれた比企との対立という形にシェイプアップされていったなと思う。
義時ももちろん北条家を守ろうと手を尽くすわけだし「鎌倉あっての北条」といえども鎌倉は元より北条が潰れたら意味がないわけで、その辺の自己防衛はもちろんあるわけだけど、「鎌倉政権に害をなすものは排除する」というある意味ダークに見えるけれども筋の通った行動が屹立してきた感はある。
ここまでの展開で基本的に義時が「進んで手を汚した」場面はなく、その辺りは不自然と言えば不自然だが、それはまあ「主人公補正」である意味仕方がないし、そういう場面があると「鎌倉を守ることに注力する義時」という設定自体が揺らぐので、逆にいえば比企と話をする場面に善児を待機させるということ自体が「重大決意の現れ」であるということなんだなと思う。
来週はいよいよ比企の乱で、義時のある意味での非情性がついに発揮されていくわけだが、どのような展開で描かれるのか、そのあたりも楽しみにしたいと思う。
この阿野全成の変にしても、史実から考えるともっと暗い感じで描かれるかと思ったが、逆にいえばこの回を暗くしすぎないためにこの夫婦を喜劇枠にしたのだなと今になればわかる。タイムラインを見ると阿鼻叫喚ではあるのだが、私の予測に比べればずっとマイルドに描かれていて、正直言って安心したというか、流石にウェルメイドのドラマを作るのに長けた三谷幸喜さんだなと改めて感心している。
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