「世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」」を読んでいる
Posted at 22/07/29 PermaLink» Tweet
7月29日(金)晴れ
今朝は雨上がりでよく晴れている。昨夜は5時台に16ミリ、7時台に35ミリ、前後合わせて52ミリの大雨が降って久々だなあと思ったのだが、埼玉の方で120ミリの雨を観測したりしていたようで、もっと大変なところは色々あったようだ。一時的な雨なら災害を呼ぶほどでもないからまあいいといえばいいのだが、昼は酷暑で夕方から土砂降り、というパターンも毎日いろいろな天候に対応しなければいけないのでちょっと大変だ。
少し前から倉井高志「世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」」(PHP研究所、2022)を読んでいて、今78ページまできているが、ここまでのポイントはつまりはプーチン大統領はウクライナという民族や国家の存在そのものが「ない」という思想の持ち主で、従ってウクライナはロシアに併合されるのが当然である、という考え方で、今まで国際法上のさまざまな制約みたいなものを尊重する姿勢を見せていたけれども、その彼にとっての主観的真実を実現するためには武力行使も当然であるという決断をしたと考えていいのだと思う。
国家と民族、その領域などが「実在」するかどうかというのはある種形而上的な問題だが、現代の国際法秩序では基本的に「国家や民族が実在するかどうか」という問題は横においておいて、国際法というルールに基づいた取り決めとして国家や国境というものが存在する(いわば仮構された存在として)というプラグマティックな考え方になっている。
これは例えば家族などもそうだが、西欧近代思想において人間は「個人」が基本であって、「家族」は便宜上の取り決めとして存在している、という考え方になっているだろう。しかしそれでは個人がどう守られるのか不安であるということから多くの宗教は家族の存在をある種の「実在」とみなし、その存在を重視していて、その辺りが個人主義を主張する人たちからは問題視されているということになるだろう。
アリストテレスは人間を「ポリス的動物である」としていたが、ポリスに集住してこそ人間、という考え方があったわけだろう。しかしヘレニズム時代になるとポリスよりも個人、という考え方が出てきて、これが現代の個人主義の淵源となるわけだけど、そういう意味では社会が不安定な時に個人主義が伸張し、社会の発展期には集団的な行動が取れるグループが伸張するので、自ずと国家中心主義や家族主義が無意識のうちに強くなるということはあるだろう。
社会が爛熟してくるとそうしたしがらみを脱したいという欲望が出てくるからそういうものは解体に向かうけれども、それらが本来どうあるべきかというと恐らくは流動的な部分がある、その社会や集団のその時の傾向や段階みたいなものに左右されるところがあるのだと思う。そういう意味では、どちらかの教条を信奉することは危険のようにも思われる。
スペインでもカタルーニャの分離独立運動が起こったり、イギリスでもスコットランドの自治要求が強まったりしているが、今のところ国家を割るところまでは行っていない。しかしロシア帝国後の東スラブ地域の展開は、レーニンが民族自決を重視したためにウクライナが独立的な存在であることを認め、ウクライナ人たち自身による「自分たちはロシア人ではない」という意識も相まって、ソ連崩壊後にロシアとは別の歴史を辿るようになった。
ウクライナは東西に広いので、西ウクライナはオーストリアやポーランドなどの「中央ヨーロッパ」史の一部であるように思えるし、東部のドンバスなどは草原の遊牧民族の興亡史の一部のようにも思える。クリミアや黒海沿岸はギリシャやイスラム系との繋がりが深いし、キエフは東スラブ諸民族の国家の原点のような地位を占める。
ロシアがウクライナを失えば自分たちの歴史の頭の部分を失うということになるという危機感はあるかもしれないが、一度東スラブにおいて勢力の中心がモスクワに移ったあとは、ウクライナはモスクワとは別の歴史を辿った部分があるわけで、そこをどう評価するかという問題になるのだと思う。
現在の国際法秩序の立場に立てばプーチンの主張は無理筋だが、ロシアの主観的な判断に従えばウクライナはロシアの一部ということになるわけで、ただその国の主観的は判断で戦争が起こされないようにするために国際法秩序が形成されてきたわけだから、現代社会においてロシアの旗色が悪いのは当然だろう。
ただ、民族や国家というものはそういう理屈だけで割り切れる冷めた存在ではないわけで、それぞれの国指導者や民族の熱のようなものが運命を動かす部分があり、いずれも譲れない戦いになっているということだろう。
われわれとしては基本的に国際法秩序を守るべき側に立つべきだと思うので、ウクライナを支持するのが正しいと思うが、こういうある種の民族的な暗い情熱みたいなものを持っている人というのはどこの国の人であっても、内心ロシアを支持している人は結構いるのではないかという気はする。
ただ、そのやり方を見たら現代においてこれはないだろうということになるわけで、その辺りのところはこの戦争自体が今後の国際秩序の将来を決定する部分がありそうで、国際法秩序の正義になるべく近い形で決着してもらいたいと思っている。
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