「鎌倉殿の13人」第25回「天が望んだ男」を見た:「鈴の音」を聞いた人たち、そして聞かなかった人
Posted at 22/06/27 PermaLink» Tweet
6月27日(月)晴れ
「鎌倉殿の13人」第26話「天が望んだ男」を見た。建久九年十二月二十七日、源頼朝が相模川の橋の落成供養に参加し、帰路落馬した一日が描かれていた。
頼朝がこの日橋供養に参列したのは、義時の妹で稲毛重成の妻が亡くなり、夫の稲毛がその追善のために相模川に橋を懸け、その供養に頼朝を呼んだということなのだが、不安に駆られた頼朝は縁起を担いで方違えを行い、北方の和田義盛の屋敷に立ち寄ることにする。
頼朝は晩年になって猜疑心や不安に取り憑かれ、血縁を含め多くのものを誅殺したと言われているが、「最後の一日」はその不安の縮図がまず描かれて、橋供養に参加し北条一族や方違えのために立ち寄った和田義盛の屋敷での巴御前との言葉のやりとりなどが描かれている。多くの出来事を圧縮して一日の出来事として描いた作劇法はフランス古典演劇の三一致の法則を思い起こさせたが、時間の統一・行動の統一はあったが場所は移動していた。ただその統一感の中で頼朝という象徴的人物の(事実上の)死が描かれていたことにより、構成が劇的に高められていたと思う。
不安におびえる頼朝が前世に助言された「べからず集」を結局全部破ってしまうというのはある種の喜劇でもありまた予言の成就でもある。また、皆で集まってワイワイと餅を丸める北条一族の有様の幸せそうな様子(りくは横を向いていたが)は、頼朝の死という突然の悲劇と、その後に起こる凄惨な出来事の連続の前の嵐の前の静けさというか、冬の嵐の前のいっときの小春日和のように感じさせられた。
頼朝が何人もの女性と言葉を交わすのは「女好き」の頼朝の去り際としては面白いなと思うし、比企尼とは言葉が通じなかったり、巴にあって思わず義仲を討ったことを謝ってしまったり、牧の方(りく)にそれとなく時政の叛意を聞き出そうとしたり、「いつもの頼朝」である面と「どこかおかしい頼朝」である面の両方が出ていて面白いと思った。それにしても、「恨みを持つものの身内にあってはいけない」と言われているのに巴御前に逢おうとするなど、頼朝の業が現れているようで面白いなと思ったし、まただからこそ予言の成就の確定性を思わせたりもした。
頼時(泰時)が人物月旦をして、最も勇猛なのは和田義盛、知恵が回るのは梶原景時、人を結びつける力は父義時、しかし全てを兼ね備えているのは畠山重忠、と持ち上げるわけだが、義時を除いてそのキレ者ぶりの部分で墓穴を掘っていく感じになる予言にも聞こえ、良いこと、ほのぼのした場面があるとその分の反動が怖いというこのドラマの伏線でもあるなと思った。
女好きは鎌倉殿の証、などと妙な褒められ方をする頼家の二人の女性が、比企一族と共に滅びた比企の娘と、三浦に引き取られた鎮西八郎為朝の孫、というのは出来過ぎだと思ったが、しかしこの辻殿という女性の産んだ子が実朝を暗殺する公暁であり、そこで三浦との関係も出てくるので、すでに波乱ぶくみの二代目の女性関係、ということだなと思った。
女好きを責められると思った頼朝に対し、「あなたが女好きでなければ私と結ばれることもなかった」という政子は、大姫のこともあるからだろうが全く後悔してないとは言えない、というけれども、思わず謝ってしまった巴や比企尼、変に焚き付けてくる牧の方との微妙なやり取りもなく素直に心が通じ合う感じがあって、まあラストにふさわしいやりとりだなとは思った。
暗示的な場面、示唆的な場面、伏線になるだろう場面がふんだんにあり、それに対する考察がネットでも盛んに行われていたが、時政が比奈(姫の前)を「八重」と呼んでしまったのは、もちろん気まずい雰囲気にはなったけれども、これは実はりくが「比企の娘に母上などと呼ばれたくない」という対抗心剥き出しの姿勢を見せたのを、自分が悪役になって場を収めようとして咄嗟に言った、ということではないかと思った。ひなの健気な対応も良かったし、りくもそれ以上ひなに意地悪を言わなくなったので、まあそういうことなんだろう。
ただりくはそれだけではおさまらず、頼朝の側に行って話しかける。「巴」や「牧の方」という、どう考えても頼朝が言葉を交わすような位置にない女性と頼朝の場面を作るのは意図的であることは間違いないわけで、巴には頼朝の謝罪によって前を向く気持ちを起こさせ、りくには「京へ上るべきだしそうやって朝廷を操ろうとしない頼朝ももっと幕府内での地位を高めようとしない時政も「意気地なし」だ」と言われて、まあやりたいようにやるさ、みたいに気分が変わっていく感じも良かったなと思う。
ラストの落馬の場面で安達盛長が思わず「佐殿!」と叫ぶのは、どなたかがTwitterで書いていたけれども、今回の脚本が頼朝の人生を逆回転させて現在から過去に向かって関係のあった人物に会っていくという構成になっていて、そのラストに流人として関東にやってきた時からの従者であった安達盛長と最後の時を迎えたことの象徴で、現在の「鎌倉殿」でなく盛長が誠意を持って仕えてきた頃の呼び名であった「佐殿!」という言葉で送られるというのは味わい深いなと思った。
鈴の音を感じ取る人々…
— 弾正 (@naoejou) June 26, 2022
頼朝死後、熾烈な展開を繰り広げる面子😱#鎌倉殿の13人 pic.twitter.com/Y88Nhrs6Ik
そして、その頼朝の落馬の瞬間に、多くの関係者が「鈴の音」を聞く。このドラマではこの音はいろいろ象徴的に使われてきているけれども、それを聞いたのは梶原・比企・畠山・三浦義村・政子・和田・牧の方・頼家であり、義時だけが一心に手を合わせていてそれを聞いていない。
これに対してはTwitterでもいろいろ解釈が述べられていたが、「義時だけに頼朝は大事なことを言う」という言葉と関連づけて考えている方が多かったように思う。これについて考えてみると、つまりは義時にとっては頼朝の死後、どのように行動すれば良いかはもう決まっていた、という解釈はできるかもしれない。
義時が手を合わせていたのは、普通に考えれば亡くなった妹に対してだろうと思うのだが、頼朝後の権力荒そに関わる人たちにそれが聞こえているということは、義時がこの後どういう立場で描かれていくのかということの一つの象徴であるようにも思った。皆が権力を握ろうとし、またより優位な地位を占めようとする中で、義時だけが台風の目のように静かにそれらの争いを見ていて、主体的には参加しないながらも妥当と思われる側につき、結果的に義時とその同盟者が生き残っていくという展開になるのではないかという気がした。
「鎌倉殿の13人」は実際の歴史にそれなりに忠実に描かれた大河ドラマで、それだけに次々に主要な人物が退場していくわけだが、そのタイトルでもある「鎌倉殿」出会った頼朝の退場は、最も大きなエポックメイキングな事件の一つなわけで、一つのラストでもあり一つのスタートでもある回になったように思う。逆に言えば今までが、「鎌倉殿の13人」というドラマの壮大な序章であり、これからがすさまじいドラマのあらためてのスタートだと言えるのかもしれない。
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