アニメ「パリピ孔明」が面白い/「鎌倉殿の13人」第24回「変わらぬ人」を見た:「兄を想い続けた人」と「許嫁を思い続けた人」の悲劇
Posted at 22/06/20 PermaLink» Tweet
6月20日(月)曇り
梅雨空が続く。昨日は一日マンガを読んでいてキリがなくなったのだが、結局録画でアニメ「パリピ孔明」を少し見たら興味が湧き、原作を全9巻Kindleで読んでしまった。バックナンバーを結構処分してあったのでヤンマガの連載にはつながらなかったが、来月10巻が出るようなので、だいたい繋がってくるのだろう。それにしても今年読んだマンガでは出色の作品の一つであることは間違い無いなと思う。
詳しくは書けないがちょっと失敗したなと思うことがあり、朝ドライブしながら給油に行って、帰りに田舎道を走ってきたのだが、まあとりあえず自分の中で折り合いをつけて、前に進むことにした。まあこの世の中、とにかく前に進まないと生きていくのが難しい部分はある。
***
夜は「パリピ孔明」をなんとか読み終わって8時から「鎌倉殿の13人」第24回「変わらぬ人」を見た。
時期としては1193年の富士の巻狩と曽我事件の後始末で頼朝の弟・範頼が伊豆・修善寺に追放された件に関する話から、大姫の入内工作による頼朝一家の上洛(1195)とその顛末、そこで病を得た大姫の死(1197)とそれを範頼による呪詛と邪推した頼朝の刺客・善児による範頼の暗殺、という四年余りのストーリーだった。
曽我事件の後始末で一番大きいのは範頼の追放だが、頼朝と大江広元による尋問の場面で申し開きを止めるところ、修善寺に追放されたあと時政に分不相応だったかと述懐したり、全ては兄頼朝のため、鎌倉のためという気持ちを伝え、農作業に楽しみを見出す場面など、範頼の「真っ直ぐさ」みたいなものが「変わらぬ人」という表題なのだなと思っていた。
比企尼が頼朝と面会する場面で「優しい子だったのに」とにじり寄ってビンタする場面は、まあ「あり得ない」という感じではあるのだが、それでも「この二人にしか無い特別な関係性」みたいなものを表すにはこういう芝居になるのかなあとは思った。草笛光子さんは「真田丸」で大泉洋さんの真田信之の祖母役をやっていて、その関係性みたいなものから「今回のこの芝居のために」草笛さんをこの役に据えたのかな、とさえ思わせたので緻密な配慮のある脚本だなと思った。
マンガなどでもその作者の作品に違う作品のキャラクターが登場することがあり、それは「スターシステム」と言ったりするが、三谷さんは前作の大河ドラマの「二人の関係性」を一つのスターに見立て、今回の大河ドラマで使うというある種の視聴者サービスをしたということでいいのかなと思った。
(第5回放送の際のインタビュー)
それに関連して岡崎義実が出家させられ鎌倉を離れるが、斬られるかと思ったら「頼朝挙兵に真っ先に駆けつけた功」により救われたとか、地味に印象に残る場面だった。頼朝にも後悔はあるんだろうなと。この義実の芝居が今回の放送で一番渋かったと思う。
義時邸で義時と姫の前の馴れ初めについて三浦義村と話してるところに金剛が来て比企尼の使者の来訪を告げ、比企の一族である姫の前が「比企の紙が届けられた(小川和紙・細川紙というらしい)」とその場を離れ、金剛も義村から「うちの娘に気があるなら唾つけとけ」みたいに冷やかされて「貞観政要(唐の太宗李世民の事績とかだな)の勉強があるから(金剛らしい)」といなくなった後、義村が「裏切ったり裏切られたりに飽きたから隠居する」と言い出し、義時が「もうちょっと付き合ってくれよ」という場面はまあ、こういう二人の関係性というもののある種の永遠性みたいなものを感じて印象に残った。
後半は許嫁だった義高のことを忘れられない大姫の話だが、和田義盛の屋敷にいる巴御前を訪ねる。義仲を思い人としていた巴にその子義高のことを聞こうとするのだが、巴はそれには答えず自由に生きていいんだ、というのを聞いて大姫は前向きな気持ちになり、頼朝の望む入内の話を受け入れる。
https://www.nhk.or.jp/kamakura13/special/movie/cm2404.html
しかし入内工作のために京に上った頼朝一家(頼朝・政子・大姫・頼家)だが、丹後局に「お願い」にいくと「入内する覚悟が本人も親もなってない!」と叱責される。確かに無位の政子の娘が入内というのは普通に考えるとあり得ないわけで、そういう貴族社会の常識みたいなことを知らないことで散々責められ、政子は萎縮するし大姫はやる気がなくなる。しかしそれでも「誰に会ってどういう話をすればいいか」を教えてやるというだけ丹後局は「親切」なわけで、この辺が政子の「女の戦いの初心者」感が出ていて良かったのだが、実際にああいう圧迫面接(Twitterで見つけた表現)みたいなことをやられたら大姫のように心が折れてもおかしく無いだろうなとは思った。
大姫は宿を抜け出し雨の中をしょぼんと座っているところを三浦義村に見つけられ義村は「好きに生きていいんだ」と慰めるが、大姫は病の床に着いてしまい、「好きに生きるということは好きに死ぬということ」という逆転の、暗転する幸せみたいなことを言って、蝉時雨の旧暦七月に亡くなる。
ここもTwitterで指摘する人がいてこれはと思ったのだが、「セミの抜け殻を集める趣味」を持っていた義高が大姫を迎えに来たということなのではないか、と言われて、もしそうならあの唐突に見えた「義高のセミの抜け殻集め」が大姫の死の演出の伏線だったことになり、この脚本の緻密さは三谷さんは一年分を逆算して書いているんじゃ無いかと思った。
まあ実際に私自身が脚本を書いていた経験からいうと、偶然の巡り合わせでそうなったのを「実は最初から考えていた」みたいになることも結構あるので、全部がそうでは無いかもしれないのだが、それでも相当考えていることは確かだろうと思った。
大姫は義高と許嫁になってから一途に義高のことを思い、義高が殺されてからもその思いは変わらなかった。巴に励まされて前を向こうとしたが入内の高い壁に跳ね返されて望みを失い、「好きな生き方は死んで義高の元に行くこと」となってしまって、「変わろうとしたけれども変われなかった人」ということになった。これもTwitterでの指摘でなるほどと思ったのだが、「変わらぬ人」とは範頼のことだけでなく、大姫のことでもあったのかと思った。
大姫の死の床で「こんな思いは二度としたくない」という政子、心配そうな牧の方、初孫の死に泣き崩れる時政、大姫の妹の三幡を入内する工作を始めろという焦りに満ちた頼朝、畏まりましたとうける義時、というそれぞれの様子が描かれるのだが、野望に取り憑かれたという演出の頼朝はともかく、政子の悲しみはこれから何度も繰り返され、それは承久の乱の御家人たちへの檄へ繋がるわけだし、時政と牧の方(りく)もこれから権力の中心になって行動が変わっていくと思われるし、一歩引いている義時の面持ちもただならぬものがあるし、いろいろな思いとこれからの運命が交錯していく場面としてよく描かれるとともに、その背景に虫の音が流れるのは無常といふ事なのだろうと思った。
大姫の死を範頼による呪詛と邪推した頼朝は範頼を殺させるが、その時に善児に拾われたと思われるトウという娘がこれからの話で重要になってくると思われ、その辺りでもタイムラインでは反応が多い。
頼朝は死期が近づいていることを自ら感じているという様が描かれているが、頼朝は1147年生まれなので大姫が亡くなった1197年でまだ50歳。もしあるとしたら精神的に限界になってきたということなのだろうか。次回は25回「天が望んだ男」という副題で、おそらく頼朝のことを指しているのだろうし、毎回数年進んでいるので、1199年の頼朝の死まで描かれるのではないかという気がする。
ところで万寿は京都にいる時に「頼家」になっているが、これは普通に考えれば元服したということなのだが、実は「吾妻鏡」には頼家の元服の記述がないそうで、いつ元服したかについては諸説あるそうだ。交渉担当の坂井孝一さんは宮中に参上する前に元服しているという説なので今回はそのように描かれているようなのだが、頼家が従五位上に授爵し昇殿が正式に許されたのは大姫死後の十二月の除目なので、無位無官で昇殿することはあり得ないという意見をこちらで読んだ。
ブログに署名がないのでどなたかわからないのだが、これは説得力があるなと思った。むしろ摂関家に許されている「童殿上」(元服前の童子が昇殿を許されること)が九条兼実を介して頼朝にも許されたのではないかとされていて、これはそうかもと思った。
いずれにしても頼家が参内しているとするならば特別の事態であることは確かで、宮中が頼朝に対してかなりの配慮をしていることは間違い無いと思う。劇中で政子が丹後局との会見の愚痴をこぼす一方で大仏を作った陳和卿に面会することを拒否された頼朝も「都は嫌いじゃ」と愚痴を言う場面があるのだが、実際には悪いことばかりではなかったわけで、この辺は時間的に描ききれなかったのか、大姫の悲劇の邪魔になると考えたのかどちらかでは無いかと思う。まあ、こう言う争点になっているところはスルーしたと言う判断もあり得るのだが。
***
「鎌倉殿の13人」が始まってから、毎週月曜日は前夜の放送の感想とか考察について書くようになったのだが、放送中から放送終了後に #鎌倉殿の13人 のタグをつけられた大量の投稿が流れてきて、それについて読んだり考えたりし、また関連する事項を確認したりしていると朝4時前に起きているのに朝食前には更新できない状態になっている。
この時代のことはいざ調べ出すと無限に出てくるということもあるが、史実だけでなくドラマをどう解釈し、タイムライン上の感想についてもどう思うのかみたいな全体像を描こうとしているのでどうしても時間がかかってしまう。
まあそれなりに時間がかかっているので、これからも読んでいただけるとありがたいです。よろしくお願いします。
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