「鎌倉殿の13人」第23回「狩りの獲物」を見た:父・時政をも従わせ主君・頼朝よりも策において凌駕し、女性をめぐる争いで頼朝に2連勝した義時の一人勝ちの回だった。
Posted at 22/06/13 PermaLink» Tweet
6月13日(月)晴れ
今朝はよく晴れているが、その分冷え込んで10度ちょうどくらいまで下がった。6月に入ってからでも一番低いかもしれない。しかしその分空気も爽やかで、体調も少しいい感じがする。
昨夜は楽しみにしていた「鎌倉殿の13人」第23回「狩りと獲物」を見た。「富士の巻狩」という一大イベントを背景に「曽我兄弟の仇討ち」という日本芸能史に大きな影響を与えた事件が起こり、その事後処理をめぐって大規模な粛清が行われるというある意味初代将軍=鎌倉殿・頼朝の統治の転換点とも言える出来事で、それだけ盛りだくさんでありまたさまざまな伏線回収とフラグ立てなど、つまりはこの「鎌倉殿の13人」というドラマ全体の大きな転換点にもなった回だったと思う。
https://www.nhk.or.jp/kamakura13/story/23.html
それを演出するためにさまざまな対比・また対照的な脚本上の演出が行われていて、自分自身で気づいたところもあるがタイムラインで指摘されて初めてなるほどと思ったことも多かった。今回のドラマ自体も前半がコメディパート、後半がシリアスパートとはっきりと対比されていた。
コメディパートの主筋は「なんとかして萬寿(頼家)に鹿を射させたい頼朝と側近たち」の涙ぐましい努力と、力不足ながらも頑張る萬寿、その一方でやすやすと鹿を仕留め、皆の見ている前で飛ぶ鳥まで落としてしまう「成長著しい」金剛(泰時)の対比というのもあざといくらいに行われていて、それでも「大人たちの見えすいた仕掛け」に嫌悪を覚えながらも「自分の力不足のためだから頑張りたい」と思わせる健気な萬寿、一方でなんでもすぐできちゃう秀才タイプながら大人たちの周囲に漂う微妙な空気を読めない無邪気な金剛、という人物類型の基本構造(主題)が提示されていて面白いなと思った。これからこの「主題」が「展開」していくことになるだろう。変奏曲形式かソナタ形式かはこれからのお楽しみだが。
それにしてもこの前半の巻狩の場面は本格的なロケが行われているようで、LED撮影(スタジオで背景を映写して撮る形)ではないな、と感じさせられる場面はやはり開放感があったし、動いている獣たちをたくさん出してきたり鹿のぬいぐるみをちゃちい仕掛けで作ったりなど、スケールの大きさとキッチュさの対比も面白かった。
後半の「仇討ち」場面では義時と比奈(今気付いたが「ひ」の字は比企の「比」なのだな)の馴れ初めの場面は癒しというか修羅の涙というか、「義時が唯一この女性の前では弱いところを見せる」という萌えポイントがあり、それが清涼感をもたらしてはいるのだが、そのあとは陰謀を企む曽我兄弟と仁田・畠山との戦闘というブラックな場面、そして頼朝の生死不明状態が伝えられた鎌倉でのさまざまな思惑と暗躍、隠れた欲望の顕在化など、「軍事と政治」が本質である武家社会の暗黒面みたいな感じで描かれていたのはかなり引き込まれた。
戦闘面では畠山重忠のかっこよさはめちゃくちゃ際立っていて、中川大志さんはこのためにこの役に当てられたんじゃないかと思ったほど。
ストーリーとしては頼朝の女癖の悪さがまた発揮されてお気に入りの工藤祐経に身代わりさせて比奈の元に忍んでいこうとするが、そこには義時が待ち構えていて説教され、憮然として帰ろうとするが雷雨に見舞われて立ち往生しているうちに戦闘が始まるといういつも通りのコメディなのかシリアスなのかわからない筋立てなのだが、結局身代わりの工藤祐経はなんだかわからないうちに曽我五郎に討たれてしまう。この死に方は流石に工藤祐経が可哀想だと思った。
急報を聞いた萬寿が次々と的確な指示を出し、また金剛を自分の手元に置いて守らせようとするのは頼もしい感じがあって「麒麟の子」感を醸し出していたのが巻狩での未熟さとの対比で際立っていた。
頼朝は自分の色好みがもたらした偶然によってまた助かったわけだが、義時としては父時政が曽我兄弟に利用されて兵を貸したことをうまく糊塗する必要に迫られ、「この件は仇討ちを装った謀反ではなく謀反を装った仇討ちであった」という「虚構」を用意し、「鎌倉殿の治める関東で謀反など起こるはずがない」としなければならない頼朝もこの話に乗る。結局「頼朝への不満からの謀反」は「長年の宿願であった敵討ちの本懐」という「美談」にすり替えることで決着させるという義時の台本が通ったということになり、これを収めた場面で父・時政に告げた「以上です」という義時のセリフと、それを言い残してその場をさる我が子を見つめる時政の「怪物を見てしまったような顔」が強く印象に残った。
再び戻った富士の裾野の場面で「北条を信じていいのだな」と問われて「勿論でございます」と答える義時の「間の重さ」もまた印象的だったが、これは頼朝の義時に対する「借り」の感情と「貸し」の感情の入り混じった、いわば「お互いが離れたらお互いが破滅する」という運命共同体的な自覚みたいなものの現れなんだろうなと思った。そして頭角を表した義時に対し「出る杭が打たれないためには自分が守るしかない」という気持ちもあったのだろう。
そして「頼朝は天の守護で助かった」という義時のセリフに、「今まで危機を切り抜けてきたのは天命に守られているのを感じたが今回はただ生き残っただけだ。次はない」という無残な思いと、その自覚による哀愁は頼朝の一番の演技かもしれないと思った。「幕府を打ち立て征夷大将軍になった自分はもうやるべきことがなくなった」という心情の吐露は「平家を倒してもう戦う相手がいなくなった」という義経の吐露ともちろん重ねられているわけで、この天才兄弟の哀愁というものが見事だなと思った。
そして私が一番思ったのは、この件を「丸く収めた」義時の手腕・力量が、すでに父・時政も主君・頼朝も凌駕しているという印象を強く与えているということで、この二人よりも義時の方が大きく見えるようになったということだ。この場面の最後で頼朝は雄大な富士との対比でより小さく見えてしまう。
頼朝は義時に「2度とわしのそばを離れるな。それはわしのためでもあるがお前のためでもある」といい、義時は「かしこまりました」というけれども、この後に起こる大規模粛清の中で頼朝が終わりを全うし北条が生き残るための「駱駝が針の穴を通るような」困難な道の生き抜き方を暗示しているように思われた。
富士の場面の最後に比奈が義時を慕っていることが示されて終わっていて、これは「なぜ義時に惚れたのか」がちょっとわからないなと思って録画をもう一度見直したりしたのだが、以下のような感じにまとめていいのだろうか。
比奈は比企能員に勧められて頼朝の側室になろうと最初は思っていたが政子に頭が上がらない頼朝を見限っていたのだと。そしてはっきりしない義時の態度に煮え切らないものを感じていたが、思いがけず自分が育った北陸の田舎に似た田舎の中で開放的な気分になって義時にも話しかけ、鹿のフンをつまんだりお転婆なところを見せたりする中でイノシシに遭遇し、みっともないところを見せながらも自分を庇ってくれた義時に恋情が生まれ(吊り橋効果?)、なおも迫ろうとする頼朝を撃退するのに義時が付き合ってくれて「気に入ってないわけではない」と頼朝にいう義時の言葉に希望を感じ、「そばであなたを見ていられるだけでいい」という義時が八重に言った言葉を言う比奈に義時も絆されてしまったと。
頑なな心をほぐすことによって自分を支えてくれるようになった八重とは対照的な「鹿のフン愛る姫君」である比奈もその美しさに照らし合わせれば完全にギャップ萌えなのだが、ハキハキとした勇敢さに「自分は汚い男なのだ、あなたを幸せにはできない」と弱さを見せてもついてくる意思を示され、ついには受け入れるようになったと。
まあなんというかオタクが好きな「解釈」みたいな感じだが、まあこのくらいのストーリーを作らないとこの二人の馴れ初めはうまく説明できない感じがするけど、そういう感じだと尊い感じになるのでいいんじゃないかと思った。
それにしても父・時政をも自分の方針に従わせ、主君・頼朝をも「自分を守らせ自分も守らなければならない」と思わざるを得ないようにし、頼朝との女性をめぐる争いにも2連勝した「義時の完全に一人勝ちの回」だったと思う。息子の泰時の優秀さも頼朝の息子の頼家を凌駕していた、というのも含めていいかどうかは微妙だが、まあそこはペンディングということでいいのだと思う。
次週は蒲殿・源範頼の失脚が語られることになりそうだが、予告で三浦義村が金剛に「唾つけとかないととられるぞ」という言葉がタイムラインを賑わしていて、仮にも娘の親が「唾つけとけ」というのは流石に山本耕史さんじゃないと言えない(似合わない)セリフなんじゃないかと思った。この山本さんの「胡散臭さという特権的身体」を三谷幸喜さんはよく引き出しているなあと改めて感心させられた。
史実をスピーディーかつ濃厚な人間ドラマに仕立て上げていく三谷さんの腕前は、一つ一つのネタについては先行する「草燃える」のようなドラマから採用しているところもあるのだけど、先行作品に比べてそのスピード感とコメディとのミックスの具合、それに盛りだくさんな感じというのはやはり三谷さんでないと書けない脚本だと思うし、俳優のそれぞれの個性もまた43年前の「草燃える」に比べると現代的でフットワークの軽い、逆に言えば重厚でないノリの人が増えていることもあり、現代に合わせた大河ドラマに仕上がっているように思われる。
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