御柱祭:皆で大きなものを運ぶ楽しさ/「鎌倉殿の13人」:「話し合える」北条一族と「信頼できるものが周囲にいない」義経の孤独
Posted at 22/05/16 PermaLink» Tweet
5月16日(月)曇り
昨日は親戚に声をかけられて諏訪大社下社の御柱祭に出かけた。上社の御柱祭は子どもの頃に行ったことがあるが、下社は初めてだった。上社はどちらかというと田舎道を曳いていくのだが、下社は下諏訪の街中を曳いていくので都会的な趣があった。木遣の声とともに曳き手が声を上げ、呼吸を合わせて大木を曳いていくわけだが、大木が転がらないように木で押さえる役や綱が引き摺られて抵抗がかからないようにする役があったり、前から引っ張るたくさんの人たちの綱だけでなく一番後ろのところにつけた綱を引っ張る人たちもいたりして、なるほどうまくできているなと思ったし、やはりこうやって多くの人が参加してものを運ぶというのは面白いだろうなと思った。
古代エジプトでピラミッドを建設したり、日本でも仁徳天皇陵や戦国時代の城郭を建造したりするのは昔は奴隷労働みたいに言われていたけど、本当はこういう祭りの感覚で盛り上がりながらやっていたのではないかと思った。「センゴク」シリーズの中で安土城の建設に大きな石を運ぶ場面があり、やはりこういう感じで楽しそうにやっていたのだが、その場面を思い出した。
近隣の臨時駐車場がどこも駐車代が高かったので昨日は電車で出かけたが、電車によってはかなり混雑していてコロナ禍とはいえ流石に6年に一度の祭りだなあと思った。家に帰ってから仕事の本を買うのに岡谷に出かけたが、下諏訪の街に入る前の交差点で警察が湖岸の方の道に車を流していて、見えないところで働いている人も多いのだよなと改めて思った。お疲れ様でした。というか今日もまだ祭りは続くのだが。
夜は「鎌倉殿の13人」第19回「果たせぬ凱旋」を見た。前回は平宗盛を連れて鎌倉に入ろうとしてよりともに拒絶された義経の話だったが、京に戻った義経と、なんとか和解を図ろうとする頼朝とのすれ違いが、結局十郎行家の頼朝憎しの唆しによってついに反頼朝の兵をあげてしまい、決定的に亀裂が入るが、頼朝はこの機会を捉えて後白河法皇に西国に守護地頭をおくことを承認させるまでのストーリー。この交渉役に抜擢されたのが北条時政で、義時とともに上京した時政の宿に義経が忍んで現れ、言葉を交わす場面がクライマックスだったかと思う。もちろん史実ではないのだが。
義経に会いたいという鎌倉側の動きはまず義経を伊予守に任官するように後白河院に申し入れるところから始まる(受領に任官されれば京都を守る検非違使と兼任できなくなるので自由に動ける)が、後白河院はそれには応じるものの検非違使との兼任は続けさせ、頼朝は自分よりも院の命令を優先させる義経に怒る。外に出た頼朝はそこで子供たちの相手をする八重に愚痴をこぼすが、義高の死を言い訳しようとしたのを大姫に聞かれてしまう。そんな目にあったしまったのも「頼朝の自己責任」と言う感じだった。
一方十郎行家は頼朝憎しの感情から義経を担いで挙兵しようとするが、義経は難色を示す。更に義経を呼び戻そうとする鎌倉方は父義朝のしゃれこうべを再度持ち込んだ文覚に乗って義朝の供養として義経が参加するように連絡をするが、後白河院は脈を止める演技をして義経を引き止める。この辺り義時が何度も上京していて流石に忙しすぎないかといつものような主人公補正を心配したりした。
一方義経の寵を静御前と争う郷御前は土佐坊昌俊に義経邸を襲わせるが、義経と行家は土佐坊を返り討ちにする。しかしこの襲撃を頼朝によるものと行家に吹き込まれた義経はついに挙兵を決意し、後白河院に頼朝追討の宣旨を出させる。土佐坊の襲撃が郷御前の依頼によるものというのはこのドラマの創作だが、信頼できるもの女性たちも含めて周りに誰もいない義経の孤独を描くには一つの脚本上の演出だったかなと思った。
なお、義経には他に壇ノ浦で捉えた平時忠(「平家にあらざれば人にあらず」の言葉で有名な二位尼平時子の弟)の娘を迎え入れており、その件の方が鎌倉への叛逆の意思表明ととられたというのも読んだが、このドラマには出てこないようだ。実際のところ、後でかなり重要になってくる義時の弟・時房もいまだに出てこないので、登場人物は必要最小限にしようという感じがあるのだろうと思う。
義経の挙兵を聞いた頼朝は義経追討を命じるが、義経の戦上手を恐れた和田義盛ら御家人たちは尻込みし、また義経を非難した梶原景時が大将を買って出てもそれへの反発から応じない。義時が「頼む!」みたいな視線で三浦義村を見ると、義村が立ち上がって「ここで戦わねば坂東武者の恥!」みたいなことを言うとそれに畠山が応じ、それを聞いた和田もやるぞ!的なことを言って雰囲気を作ってしまう。義村は「多分兵は義経の下で戦いたがらないから兵が集まらずいくさにならない」と予言するが、その言葉の通り頼朝が大軍を率いて京に向かうと行家が怖気付いて義経を非難すると言う最悪の行動をとって義経軍は空中分解し、逃亡する。この行家はあまりにあざとかったが、「行家を信じてしまった義経の自己責任」と言う感じが濃く漂ってなるほどと思った。平泉で藤原秀衡が「早まったな、九郎」と呟くのも、軍事の才能のみを愛し政治交渉を教えなかったことへの反省のようなものも感じられた。
後白河院は手のひらを返して頼朝に義経追討の宣旨を出し、鎌倉に戻った頼朝は義経追討のための「院の協力」を求めるための使者を北条時政に命じ、尻込みするときまさに牧の方が大きなお腹で叱咤して渋々出かけることになるが、義時とともに頼朝の代官として院の前に出た時政は、「頼朝追討の宣旨は義経に強要された、全部義経が悪い」と言い訳する後白河院に守護地頭の設置(西国も含めた頼朝による支配)を求め、鎌倉幕府体制の必要条件を整えることになった。
その夜、時政・義時父子の宿に義経が現れる。捕まえてもいいという義経に時政は「義経は九州に落ちているのだからここにいる義経は偽物」と言い放ち、にかっと笑う。そして「経験もないのに自信もなかったらどうやって戦うのか」と言う義経の台詞をひいて、「自信を得るためには経験を積むことだ」と言う。この言葉な色々解釈可能だが、つまりは「義経の政治的行動に対する経験不足が今回の事態を招いた」と言う意味に取るのが妥当かなと思った。
二人は義経を見逃し、勝者の余裕というか度量みたいなものを示すわけだが、実際のところはすでに義経は脅威ではない、と判断したと言うことだろう。しかし表向きには義経追討を名目に鎌倉の権力拡大を図る策士としての時政の姿がクローズアップされる感じだった。
今回はいろいろフィクションを混ぜながら一気に流れを持っていく三谷幸喜さんの脚本の手腕が感じられたが、お互いに信頼し合い相談し合う北条一族や丹後局らの謀臣と謀をめぐらす後白河法皇に対し、政子しか心のうちを明かせない頼朝や政治判断が信頼できる人間が周りに誰もいない義経の孤独のようなものが浮き彫りにされたラストシーンであるように感じた。
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