「どんな人間でも「理解」できると思う?」
Posted at 22/04/16 PermaLink» Tweet
4月16日(土)曇り
5時前に目が覚めて、トイレに行ったりお茶を入れたり風呂に入ったりした頃に新聞が来て、Twitterのタイムラインを眺めたりした後、ガソリンの給油に車を走らせて新しい幅の広い道を行き、ガソリンを入れてさらに丘の上のコンビニで塩パンとホットレモンを買って運動公園の中を通ったらすごい数の桜が満開で、たまたまだけどこの道を通って良かったと思った。そこらじゅうで桜が咲いている。この時期は頑張って出かけないと損をする感じがする。
今朝は何を書こうかと色々考えたがあまり思い浮かばず、今読んでいる「文化の解釈学」について少し書こうと思った。この本は面白いのだけど、何を言っているのか掴みながら読むほどにはこの分野(人類学)を理解していないということもあり、感想を書くというのも書きづらい。今はまだ35ページで第1巻の1割ほどしか読めていないのだが、「文化は意味の体系である」、というのはそうだなと思いながら読んだ。
20世紀初頭(1912年)のモロッコでの出来事の記述は、最初読んだ時は何が起こっているのか、何を意味しているのか全然わからない御伽噺のような話だと思ったのだが、解説を読みながら読んでみると、ユダヤ人の商人が賊に襲われて仲間を殺され、その賠償を求めて地元の首長と相談して賊の属するベルベル人の部族の羊を盗むが、その部族も相手が誰だかわかると話し合いに応じ、その結果賠償としての羊を得て街に戻るが、その地を支配するフランス人の軍隊はそれを認めず没収され逮捕されてしまった、という話で、つまりはユダヤ人と主張、賊のベルベル人の部族(フランスに服していない)は伝統的な解決法ー「地元の交易協定に基づいた解決」を行なったが、近代法で支配しようとするフランスはそれを認めず、羊を没収しユダヤ人は逮捕されてしまった、という話だと理解した。
つまり、当時のモロッコ、フランスが支配する前の地元のルール(文化)に基づいた解決をフランスが、彼らがよって立つ近代的な法文化に従っていないという理由で認めなかった、ということで、ユダヤ人の承認はベルベル人と勝手に話をつけたために彼らのスパイと疑われた、という話なわけである。
この羊をめぐる冒険、もとい羊に関する出来事は、賠償の要求の意思表示としての羊の強奪、非を認めた相手方の羊の支払い、フランス人による政治的な羊の没収という形でそれらの行為はそれぞれの持つ意味の文脈によって実行され、それが絡み合っているために理解が難しいのだが、それを意味の体系のぶつかり合いとして読み解いていくのが人類学の醍醐味の一つ、ということなのかなと思った。
これが面白いと思ったのは、つまり意味の体系の違うもの同士のぶつかり合いというのは現代でもしょっちゅう起こっているからだ。ロシアとウクライナの持つ異なる意味体系のぶつかり合い、ウクライナを東欧諸国や西欧諸国、またアメリカが支持しているけれども、それらの持つ文脈はそれぞれ微妙に違うが、「ロシアは国際法に違反した」という一点において同調できるという便利さがあり、それが近代的な法体系なんだなと思う。
またフィクションで言えば「東京卍リベンジャーズ」などの不良もの、あるいは昔からのヤクザものを読んでいても思うのは、「彼らには彼らの意味体系があり、それは近代市民社会と共存したり衝突したりしながらも続いている」ということでもある。市民社会の側で彼らとぶつかるのは警察だが、警察もまた一般市民の世界とは違う文化を持っているわけで、そういう意味で言えば「不良もの」や「警察もの」を読むことは、それがその世界をよく反映しているのであれば、ある種の異世界もの、違う文化体系の世界での話として面白いということになるわけだ。
例えば政治空間の文化においても、韓国と日本では全然違うし、また政治家の世界や、特に学者の世界でもある種喜劇的なことが起こっているのは西部邁さんが活写したりしているわけだけど、その辺りを正確に読み、またそれに一般社会がどう反応するかも読んでいくことは政治の状態をコントロールする上でも必要なことだろうと思う。
まあそういう意味でいうと、人類学というのは従来のエキゾチックな民族誌を読むパイプ片手の紳士の読み物ではなくて、自分たちと同じだが違う意味体系を持つ違う文化の人たちとどう付き合っていくかの丁々発止の場での試行錯誤の試みだと考えることもできる。「文化のない人間、人間集団はいない」というのが人類学の発見であったと思うけれども、だからどのような集団にも文化の体系、意味コードは存在しうるという意味で、「理解可能である」という前提での営為なんだなと改めて思った。
学生の頃、「どんな人間でも話し合えば理解できると思うか」というテーマで友人と議論し、「人食い人種(今ではポリコレに引っかかるな)とでも理解し合えると思うか」と言われて、一晩くらい考えて「理解できると思う」と答えたら「お前が理解できん」という話になったことを思い出すが、「理解」と言っても考え方はわかるだろうというだけのことで、「共感」するというのとは違うのだから、その辺で行き違いがあったんじゃないかと今では思ったりする。
ただまあ、人類学者という人たちはどこにおいてもそういう理解に苦しむ人々の行動を記述し、その中から意味の体系を読み取ろうとしているのだなと思うと、なるほどなあとは思った。自分のその時の考えを振り返ってみると、こういうことだったんだろうなと思えて納得感はあった。
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