身体:内なる外部性/フェミニズムは多様性を嫌う
Posted at 22/04/15 PermaLink» Tweet
4月15日(金)雨
雨になった。昨日は降ったり止んだりだったのだが、昨日深夜から未明にかけて、かなり降っていたようだ。その音に気づかなかったということは、割合よく寝ていたということなのだろう。目が覚めたのは4時半で、大体5時間は寝た勘定になる。
朝は10度前後で、正直暖房が必要かどうか微妙な気温なのだが、「暖かいものが一つ部屋にある」という安心感があるから、ファンヒーターでないストーブを一つつけている。薬缶を置いておけばお湯も沸くので便利でもある。お茶を飲んで入浴。身体のあちこちが微妙な具合だということがよくわかる。軽い花粉症なのか洟水がよく出る。頭も洗った。
風呂に入りながら、身体というものは「自分」であるとともに「自分」でない、というか精神ないしは認識主体にとっては「外部」でもあるよな、と考える。身体は自分なのかそうでないのか。精神主義の人だと肉体の限界を超えることに異様に執念を燃やす人がいるが、あれは外部でもある身体を無理やり精神に一体化させるということだよなと思ったり。逆に身体が不調だとそれに引っ張られて心理的にも低迷するということはよくあることで、内部であり外部である微妙な存在だなと思う。
しかし、普段の生活の中で、調子のいい時は身体のことはあまり意識していない。身体を意識するのはどこか気になる場所があるから意識するわけで、「身体を意識していない状態」というのは「身体と精神の幸福な一体性」が維持されているからだろう。そして身体のどこかに違和感を感じた時、その幸福な一体性は崩れて身体を意識し、それへの対処を始めることになる。
生まれた時から、普段は機嫌のいい赤ん坊も空腹という違和感を感じたら泣き、排泄して下半身に排泄物の違和感を感じたら泣く。赤ちゃんは自分で対処できないから「泣く」という形で対処するわけだが、成長するに従って自分自身で対処することが増えていく。
健康にすくすくと大きな怪我も病気もなく育っていくと、身体を意識する機会は多分そんなに多くない。なんでも普通のことが普通にできれば特に問題を感じることもなく、意識しないだろう。スポーツやダンス、楽器や合唱など、身体を意識する活動をやったり、自然の中で飛び回り自然に身体を晒すような機会があると、より身体を意識する機会は増えるだろう。
私は比較的怪我や病気の多い子供だったので、身体のことは割合いつも意識していた。どこまで無理してもいいのか、何がいけないのか、活動するときには何に注意しなければいけないのか、そのほか自分で意識していたことも多く、また中学生の頃に野口整体に触れたこともあって、その独特の身体観に強い興味を持ち、先日亡くなられた見田宗介先生の授業に参加したり演劇活動をすることでその認識も強まった。整体協会の道場に通うようになったのはこの20年ほどだが、最初に先生に言われた「いい身体してますね」という言葉は今でも強く覚えている。それは「違和感に適度に敏感でしなやかにそれに反応できる身体」だと思うけれども、その感覚を失いたくないこともあり、現在でも通い続けている。
身体というのは身体に精神が宿っているという意味で主体そのものであるわけだけど、認識主体から見たら外部でもあるという「内なる外部性」のようなものを持っているわけで、入浴という身体を意識する機会にそういうことを考えたのだった。
***
フェミニズムというもの、特に現状のフェミニズムというものを、思想として私はあまりよくないもの、自分の考えと相容れない部分が大きいものと感じているのだけど、どういうところが特にそうなのだろうかと考えていて、東北大学の副学長が教員採用におけるアファーマティブアクションについて「男性の研究者の場合は自分の周りには優秀な人で職を得られていない人はいない」と発言して職を得られていない男性研究者を中心に強い反発があったわけだけど、これは確かにそうした男性研究者にとっては大変ひどい侮辱的な発言であり、採用差別の是認であると受け取られても仕方ないだろうと思った。
おそらく副学長氏自身は「悪気があって」言っているわけではないと思うので、そうなるとつまりは副学長氏が依って立つ思想自体、つまりフェミニズムに問題があるということになる。「優秀な男性研究者でも世の中には職を得られていない人がいる」ということを知らないはずがないので、それを強引に捨象しようとしているわけである。「男だから」「女だから」と切って捨てるのが妥当ではないというのは当然分かり切った話であり、それぞれの事情も違うのに、あえてその違いを切り捨てようとする。
また別の例だが、胸の大きな女子高生を描いたマンガが経済紙に広告を出したことにフェミニストが批判しているわけだが、この例だけでなく「胸の大きな女性」が広告等に出ると一斉に非難の声があげられるようになっている。ツイッターなどを見ていると、胸の大きな女性たちの側からはそれに対し強い不満の声があげられていて、「胸の大きな女性を差別するな」と言われているのに、フェミニストの側はそれに向き合おうとしていない。大きな胸は隠せとか小さくする手術もあるなどとほとんど体型差別にあたることをまるで正義のように振りかざす発言は、正気とは思えない。ここでも彼らは「女性の体型のそれぞれの違い」をあえて切り捨てようとしているわけである。
また「弱者男性」という言葉がある。当然ながら男性でも立場の弱い、またさまざまな事情で社会的弱者になっている人は多く、その場合は女性よりも結婚などの機会に恵まれない状況になっていると主張されている。残念ながらフェミニストはそういう境遇にある男性に対しては大変冷たい視線が感じられ、弱者男性の側が差別や不平等の是正を訴えても運動家たちは「自分たちは関係ない、自分たちで解決しろ」というばかりというのが現状のようだ。最近は立場の弱い女性に対するケアは多くなってきているし、もちろんそれもまだ十分とは言えないのが現状だとは思うが、そういう機会を与えられる女性は男性よりも多いだろう。弱者の女性は「弱者であり女性である」ということでプラスポイントが2になるが、弱者男性は「弱者であり男性である」ということでプラスポイント1、マイナスポイント1でプラマイゼロになる傾向があるように思われる。プラマイゼロなら自由競争においては弱肉強食になるから自然淘汰の対象になりがちだということになり、彼らが不満を述べるのも当然だとは思う。
これらの事例を見ているとつまり、フェミニズムは「男女に関係なく、人はそれぞれである」という当たり前の多様性を認めることを嫌う傾向にある。「女性だから差別されている」という認識は、現状の日本においては結構「雑な認識」であるように感じる。「自分の周りには職を得られていない優秀な男性研究者はいない」という認識の雑さは、そういう意味でフェミニズムという思想が持つ根本的な問題点なのだろうと思う。トランス女性の問題などをめぐり、LGBT運動とフェミニズムは対立している面もあるし、こうした考え方の違いからフェミニズム運動にも時期によって幾つかの「波」があるようだが、現状その「雑さ」は今までで一番強まっているように思う。
一人の人間として、困っている女性を応援し援助すること自体に問題があるわけではないけれども、人それぞれの多様性を持つということを軽視した思想運動は容易に全体主義に結びつくし、今のこの運動はキャンセルカルチャーなどの実力行使運動と結びついて、より暴力性を持ち始めているのは大変よくないと思う。
「男だから」「女だから」ではない、より一人一人の人間を見ようとする運動に、また女性だけでなく男性の被る不利益についても関心を閉ざさない運動に変わっていってほしいと思うのだが、現状は期待できそうにないのは残念だ。
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