「鎌倉殿の13人」を語りたい:さまざまな苦さを織り込みながら続いていく物語
Posted at 22/04/11 PermaLink» Tweet
3月11日(月)曇ってきた
2回目更新。昨日はいろいろあったのといろいろ読んだり見たりしたのとで先程のブログでは現代の話を書いたのだが、今回は大河ドラマの話を書こうと思う。
ワクチン以外にも自分の仕事が動きそうな話が一つあったので連絡を待っているのだがまだ今のところ来ない。明日は営業が休みのところなので後で連絡してみようかなとは思っている。
一つ個人的に大きなニュースがあったのだが、社会学者の見田宗介先生が亡くなられた。演劇のことやそのほか、先生が書かれた文章や授業を通じて啓発されたり救われたりしたことも多かった。もうすでに先生の思想からは離れてしまっているけれども、あの頃の自分にとっては重要なことだった。感謝してご冥福をお祈りいたします。
「鎌倉殿の13人」第14回「都の義仲」。寿永2年の最も人口に膾炙するエピソードは木曽義仲の挙兵と北陸での勝利、そして入京と平家の都落ちだと思うが、その中で安徳天皇を動座させた平家は三種の神器も持ち去ったため、後白河法皇は新たに後鳥羽天皇を即位させたものの神器を欠いた即位であり、このことで起こる天皇としての正統性を欠いているとの指摘が後鳥羽天皇の心中に複雑な、「王者として振る舞うことへの固執」を生んだという指摘もある。
一方でのちの歴史にとって重要なのは九月の義仲入京に伴って行われた論功行賞で頼朝が功第一とされたこと、また後白河法皇に疎んじられた義仲が平家の追討に苦戦している間に頼朝は経済的に困窮した法皇に多量の貢物(物資・食糧)を送り、外交交渉によって「寿永二年十月宣旨」を得、東山道・東海道の事実上の支配権を得るとともに謀反人の立場を取り消され、従五位下右兵衛権佐に叙されて「法皇を助ける」正統性を獲得したことだろう。「鎌倉幕府成立の時期はいつか」という議論には多くのものがあるが、これが一つの大きな画期であることは間違い無いだろう。
ドラマは木曽義仲の嫡子・義高が鎌倉入りし、頼朝・政子の長女大姫と許嫁とされ、二人が急速に仲良くなっていくところから始まる。また義時と八重の中も進展し、鎌倉と江間を頻繁に往復するようになり、やがて八重が身籠る描写もあった。母親がはっきりと明示されない義時の後継者・泰時がどういう生まれかはドラマでいろいろ書かれているが、「鎌倉殿の13人」では八重の子ということになったのだなと思う。
義仲が破竹の勢いで入京しながら朝廷の秩序やその前提となる教養に無頓着で法皇や側近たちの不興を買う一方、鎌倉では義仲に先んじられた頼朝は焦るが御家人たちは出陣する気がなく、鎌倉は再度分裂の危機に立たされる。伊豆の時政を訪ねた義時に時政は「所領を与えればなんとかなる」というが、義時は関東でない所領でいうことを聞くだろうかと疑問を呈するが、時政は「場所なんか関係ない。米がどれだけ取れるかだ」と武士たちの気持ちを代弁し、鎌倉に戻ってくれないかという義時にりくの「呼ばれるまで行かない」という言葉を持って答える。
一方で人質となった義高は大姫と遊びながらも御家人たちに手荒に扱われたり、同じく籠の鳥的な状況にある義経とセミの抜け殻を集めてる話などをするが、義仲が平家と通じているとの風評が法皇から伝えられると、頼朝は勇躍挙兵を告げようとする。しかし北条に近い三浦をも飲み込み大勢力となった反挙兵派の御家人たちをどうするかについて、大江広元は義時に耳打ちして時政に変わって御家人たちの中心的存在になっている上総広常をその会合に参加させる。
結局頼朝は先発隊として義経を向かわせ、御家人たちをまとめてから範頼に引き入らせて軍を編成するという苦肉の策を取らざるを得なくなるが、義経は言葉を失うくらい喜び、兄のために尽くすという。出陣の前に義経は義高に自分が集めたセミの抜け殻を与え、無言で立ち去る。この描写は視聴者は行末を知っているので謀反人の子として処刑される義高を義経が憐れんだ描写として受け取るわけだが、義高は「父に敵うはずがない義経が殺されるのは哀れだ」と義時に言う。この辺り、人質として忍従するだけでない義高の性根が強く表現されていて、とても印象に残った。
また義経が出陣の際、頼朝と短く会話を交わし、「平家を滅ぼして帰ってきたらゆっくり話そう」というのも歴史を知っているものには「腰越状」の悲事を思い起こさせる。さまざまな苦さを散りばめながら、ドラマは続いていく。
次の展開は遠征を嫌がる御家人を駆り立て、まとめるための第15回「足固めの儀式」となるわけだが、それが何を意味するのかは歴史を知っている人は知っているわけだ。また善児が登場するんだろうなとは思うが、17日日曜日のタイトルクレジットにその名を見つけて慄く視聴者のツイートが今から予想されてしまう。
北条義時が主人公ということは当然1221年の承久の乱までは描かれるわけだが、それにしても進行が早い。今は1183年だがドラマのスタートは1175年なので8年も経ったとも言えるし8年しか経ってないとも言えるが、今までの源平合戦を中心としたドラマならもうかなり佳境に入ってきている。後40年近くを年末までにどう描くのかと考えると確かに倶利伽羅峠の戦いとかは紀行で取り上げるしかないかなとは思う。
いろいろ思ったこととしては、一つは後白河法皇に「三種の神器が奪われて不安だろうという純粋な善意」から馴れ馴れしく自分の太刀をあげようとして不興を買った義仲と、頼朝と対等の位置をことあるごとに示したがる上総広常がパラレルに描かれているなということだ。朝廷の権威の尊重の仕方と利用の仕方、今日での振る舞い、軍勢のまとめ方、それらが義仲はうまくできない。それを教養がないからだというふうに従来の義仲像で描いているが、本当のところはどうだったのか。また広常も有力な在庁官人なのだから一定以上の教養はあるはずだという指摘はあったが、このドラマでは教養がないが頑張って字を練習している「いいヤツ」として描かれている。
この二人のこの先は次回描かれるわけだけど、教養や人文的知識を持ち、朝廷との接し方を知っている頼朝が御家人の扱いには手を焼く一方、田舎の武士たちをあっという間に糾合し平家を打倒した義仲が人望はあるが政治がからきしダメだという対比としても描かれている上に、教養のない、頼朝を主としてでなく仲間としてみようとする広常の没落が対比されてもいて、この辺の作劇のうまさはさすがだなと思った。
当然ながら鎌倉幕府成立・確立に至る歴史は「歴史の苦さ」のようなものも多く描かれているわけだが、その辺りをあまり生の苦さではない、洗練された苦さとして表現しているのがいいのだろうなと思う。
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