権威主義と自由主義:ウクライナと同じく日本の置かれた位置の危ういバランス
Posted at 22/03/31 PermaLink» Tweet
3月31日(木)曇り
令和3年度も今日が最後。この1年間もコロナに翻弄された一年だったけど、2月末からはウクライナ戦役=ロシアのウクライナ侵攻が始まり、日本にも様々な影響が及ぼされてきた。日本自身がウクライナ支持とロシアに対する経済的な制裁を迅速に行なったのは良かったと思う。ただ、日本周辺あるいはアジア全体でもロシアに積極的な制裁を行なっている国はそう多いわけではなく、日本はその意味で「アジアのリーダー」であるとも言え、ゼレンスキー大統領の演説では持ち上げられたけれども、アジアでは少数派の存在である、とも言える状況になっている。
ここで改めて考えてみると、日本は冷戦時代から共産主義の大国であるロシアと中国に囲まれていた。現在では共産主義=東側世界が崩壊し、ロシアはともかく中国も資本主義化が進んだものの、社会の自由主義かは進まず「権威主義」と呼ばれる体制になっている。
だから結局日本は周囲を権威主義の大国である仮想敵国に囲まれているという地政学上の地位は変わっていない。日米安保条約体制のもとで資本主義の大国になった日本は、経済的にも「敵国と商売しないとやってけない」という微妙なバランスを要求される状況は続いている。しかしこれはある意味、開国以来ずっとそうだったとも言える。帝国主義の大国の勢力争いの中でどの一つの大国にもつくことなく自らも帝国主義国として成長することはできたが、その中で自由主義=政党政治の流れも起こり、また日英同盟でイギリスとパートナーシップを結びアメリカとも近い関係を維持できたが、軍事的には特に陸軍はドイツに近い関係を保ち、権威主義的な流れも新たに育っていた。
日本の近代はやはり常に権威主義と自由主義のバランスの上に立ってきているのだけど、昭和初期の政党政治が自由主義に傾きすぎて、権威主義の方向にバランスを取る勢力が薩長に変わって軍部になったということなのかなと思う。そしてやりすぎた。
戦後の日本国内ではアメリカ寄りの企業人・政府と中ソ(露)よりのアカデミズム、みたいなバランスがあったが、今は中国寄りの企業人も増えている。アカデミズムでもアメリカ寄りの人たちが出てきつつある感じはある。その辺もバランスなのだろう。
日本は敗戦後、旧敵国であるアメリカや、現仮想敵国である中国やロシアとも大規模に通商しているのは、地政学的にそうしなければ市場規模を持った経済運営ができないためだが、だがそれ故に常にそれらの外部勢力に「浸透」される危険がある。実際、今回の戦争に関してもロシアの代弁者のような「有識者」が大声で発言しているし、中国寄りの「財界人」や新自由主義やポリコレ・フェミニストの代理人のような「アカデミシャン」も多い。
中国の「発展」に伴い、社会主義国が資本主義化することでより強固な権威主義になるという例を我々は見てきているわけで、「極左は極右に転化する」という歴史上の繰り返しは未だ終わっていない。フランス革命の過激な指導者がナポレオン権威体制でも権力を握り、復古王政の伝統主義者・自由主義者の合作体制の中でようやく断罪された、という例もある。
ロシアや中国、トルコ・シリアや中東の国々がある程度の権威主義的な体制でなければ国を維持できない、というのは一面の真理であるとは思うが、日本がそれらの国々に呑み込まれることはないし、権威主義の脅威にも極左ポリコレ主義の新権威主義にもちゃんと距離をとって、バランスの取れた自由主義を維持していきたいものだと思う。
その点で、「周囲が似たような価値観の国」に囲まれている西欧諸国は、それゆえにある意味平和ボケ可能なのでポリコレとかのある意味でのお遊びに走れるというところはある。強国で地政学的にも孤立した大国であるアメリカもそうだろう。日本はいつも危ういバランスの上にあるということは、自覚していくべきだと思う。
ウクライナもまた、国内にラジカルな極右勢力を抱えていることもまた事実だろう。しかし国全体としては最近は明確に西欧の自由主義を指向している。権威主義よりも自由主義を指向する民族性のようなものは、隣にロシアという権威主義大国があったこともまた影響しているだろう。
まんが「キングダム」で秦始皇帝となる秦王政が呂不韋と議論を行う場面があり、呂不韋はいわば自由主義的な資本主義を主張し、政は軍事的統一による平和を主張するわけだが、作者の原泰久さん自身が「呂不韋の主張の方に説得力を感じる」と発言していて、中国なりロシアなり軍事的統一を成し遂げた国が結局は権威主義になり、各国のパワーバランスの主権国家体制に帰結したヨーロッパ社会が全体として自由主義に舵を切ったのは、それぞれの国際関係に由来する部分も大きいのだろうと思う。
日本も自ら権威主義国として近代を生きていたが、ロシア革命や中国の辛亥革命後の混乱の中で外的圧力が弱まり、自由主義的な方向性が出てきたところに中国統一の国民革命が起こったことで再び軍部の発言力がまし、権威主義国がわに立って戦争になったことはとても残念なことだったと思う。
これからの日本はなるべく進路を違えないようにしていけると良いなと改めて思う。
カテゴリ
- Bookstore Review (17)
- からだ (237)
- ご報告 (2)
- アニメーション (211)
- アンジェラ・アキ (15)
- アート (431)
- イベント (7)
- コミュニケーション (2)
- テレビ番組など (70)
- ネット、ウェブ (139)
- ファッション (55)
- マンガ (840)
- 創作ノート (669)
- 大人 (53)
- 女性 (23)
- 小説習作 (4)
- 少年 (29)
- 散歩・街歩き (297)
- 文学 (262)
- 映画 (105)
- 時事・国内 (365)
- 時事・海外 (218)
- 歴史諸々 (254)
- 民話・神話・伝説 (31)
- 生け花 (27)
- 男性 (32)
- 私の考えていること (1052)
- 舞台・ステージ (54)
- 詩 (82)
- 読みたい言葉、書きたい言葉 (6)
- 読書ノート (1582)
- 野球 (36)
- 雑記 (2225)
- 音楽 (205)
月別アーカイブ
- 2023年09月 (19)
- 2023年08月 (31)
- 2023年07月 (32)
- 2023年06月 (31)
- 2023年05月 (31)
- 2023年04月 (29)
- 2023年03月 (30)
- 2023年02月 (28)
- 2023年01月 (31)
- 2022年12月 (32)
- 2022年11月 (30)
- 2022年10月 (32)
- 2022年09月 (31)
- 2022年08月 (32)
- 2022年07月 (31)
- 2022年06月 (30)
- 2022年05月 (31)
- 2022年04月 (31)
- 2022年03月 (31)
- 2022年02月 (27)
- 2022年01月 (30)
- 2021年12月 (30)
- 2021年11月 (29)
- 2021年10月 (15)
- 2021年09月 (12)
- 2021年08月 (9)
- 2021年07月 (18)
- 2021年06月 (18)
- 2021年05月 (20)
- 2021年04月 (16)
- 2021年03月 (25)
- 2021年02月 (24)
- 2021年01月 (23)
- 2020年12月 (20)
- 2020年11月 (12)
- 2020年10月 (13)
- 2020年09月 (17)
- 2020年08月 (15)
- 2020年07月 (27)
- 2020年06月 (31)
- 2020年05月 (22)
- 2020年03月 (4)
- 2020年02月 (1)
- 2020年01月 (1)
- 2019年12月 (3)
- 2019年11月 (24)
- 2019年10月 (28)
- 2019年09月 (24)
- 2019年08月 (17)
- 2019年07月 (18)
- 2019年06月 (27)
- 2019年05月 (32)
- 2019年04月 (33)
- 2019年03月 (32)
- 2019年02月 (29)
- 2019年01月 (18)
- 2018年12月 (12)
- 2018年11月 (13)
- 2018年10月 (13)
- 2018年07月 (27)
- 2018年06月 (8)
- 2018年05月 (12)
- 2018年04月 (7)
- 2018年03月 (3)
- 2018年02月 (6)
- 2018年01月 (12)
- 2017年12月 (26)
- 2017年11月 (1)
- 2017年10月 (5)
- 2017年09月 (14)
- 2017年08月 (9)
- 2017年07月 (6)
- 2017年06月 (15)
- 2017年05月 (12)
- 2017年04月 (10)
- 2017年03月 (2)
- 2017年01月 (3)
- 2016年12月 (2)
- 2016年11月 (1)
- 2016年08月 (9)
- 2016年07月 (25)
- 2016年06月 (17)
- 2016年04月 (4)
- 2016年03月 (2)
- 2016年02月 (5)
- 2016年01月 (2)
- 2015年10月 (1)
- 2015年08月 (1)
- 2015年06月 (3)
- 2015年05月 (2)
- 2015年04月 (2)
- 2015年03月 (5)
- 2014年12月 (5)
- 2014年11月 (1)
- 2014年10月 (1)
- 2014年09月 (6)
- 2014年08月 (2)
- 2014年07月 (9)
- 2014年06月 (3)
- 2014年05月 (11)
- 2014年04月 (12)
- 2014年03月 (34)
- 2014年02月 (35)
- 2014年01月 (36)
- 2013年12月 (28)
- 2013年11月 (25)
- 2013年10月 (28)
- 2013年09月 (23)
- 2013年08月 (21)
- 2013年07月 (29)
- 2013年06月 (18)
- 2013年05月 (10)
- 2013年04月 (16)
- 2013年03月 (21)
- 2013年02月 (21)
- 2013年01月 (21)
- 2012年12月 (17)
- 2012年11月 (21)
- 2012年10月 (23)
- 2012年09月 (16)
- 2012年08月 (26)
- 2012年07月 (26)
- 2012年06月 (19)
- 2012年05月 (13)
- 2012年04月 (19)
- 2012年03月 (28)
- 2012年02月 (25)
- 2012年01月 (21)
- 2011年12月 (31)
- 2011年11月 (28)
- 2011年10月 (29)
- 2011年09月 (25)
- 2011年08月 (30)
- 2011年07月 (31)
- 2011年06月 (29)
- 2011年05月 (32)
- 2011年04月 (27)
- 2011年03月 (22)
- 2011年02月 (25)
- 2011年01月 (32)
- 2010年12月 (33)
- 2010年11月 (29)
- 2010年10月 (30)
- 2010年09月 (30)
- 2010年08月 (28)
- 2010年07月 (24)
- 2010年06月 (26)
- 2010年05月 (30)
- 2010年04月 (30)
- 2010年03月 (30)
- 2010年02月 (29)
- 2010年01月 (30)
- 2009年12月 (27)
- 2009年11月 (28)
- 2009年10月 (31)
- 2009年09月 (31)
- 2009年08月 (31)
- 2009年07月 (28)
- 2009年06月 (28)
- 2009年05月 (32)
- 2009年04月 (28)
- 2009年03月 (31)
- 2009年02月 (28)
- 2009年01月 (32)
- 2008年12月 (31)
- 2008年11月 (29)
- 2008年10月 (30)
- 2008年09月 (31)
- 2008年08月 (27)
- 2008年07月 (33)
- 2008年06月 (30)
- 2008年05月 (32)
- 2008年04月 (29)
- 2008年03月 (30)
- 2008年02月 (26)
- 2008年01月 (24)
- 2007年12月 (23)
- 2007年11月 (25)
- 2007年10月 (30)
- 2007年09月 (35)
- 2007年08月 (37)
- 2007年07月 (42)
- 2007年06月 (36)
- 2007年05月 (45)
- 2007年04月 (40)
- 2007年03月 (41)
- 2007年02月 (37)
- 2007年01月 (32)
- 2006年12月 (43)
- 2006年11月 (36)
- 2006年10月 (43)
- 2006年09月 (42)
- 2006年08月 (32)
- 2006年07月 (40)
- 2006年06月 (43)
- 2006年05月 (30)
- 2006年04月 (32)
- 2006年03月 (40)
- 2006年02月 (33)
- 2006年01月 (40)
- 2005年12月 (37)
- 2005年11月 (40)
- 2005年10月 (34)
- 2005年09月 (39)
- 2005年08月 (46)
- 2005年07月 (49)
- 2005年06月 (21)
フィード
Powered by Movable Type
Template by MTテンプレートDB
Supported by Movable Type入門