日本経済の低迷:少子化という言い訳に逃げて設備・人的投資に消極的だった経営者と投資家の責任
Posted at 22/02/15 PermaLink» Tweet
2月15日(火)曇り
今朝は4時半ごろに起きたのでゆっくり入浴し、ゴミを出しに行ったついでに24時間の西友まで買い物に行って食品や洗剤などを買ってきた。夜中に少し雪が降ったらしくフロントガラスに粉雪がついていたのだが、明けてみても曇り空で寒いのかましなのかよくわからない中途半端な感じがする。この中途半端な感じが、春に近づいているということなのかもしれない。
***
「資本主義の新しい形」3-1-3設備投資の低迷 を読んでいる。なぜ日本の製造業は労働生産性が低く、収益性も低くなってしまったのか、という問いに対する答えだが、内閣府の調査ではその原因の一つとして「設備ビンテージの上昇」を挙げているという。
「設備ビンテージ」といえばワインのビンテージを思い出していいことを想像してしまうけれども、なんのことはない「生産設備が年代物になってきている」ということであり、つまりは古い設備をいつまでも更新しないで使っている、ということである。つまり、「設備投資が行われていない」ために設備が老朽化・陳腐化し、それゆえに収益性が下がっているというのである。
設備投資の低迷はバブル崩壊後の1990年代に始まるのだが、90年代は利益低迷のために投資の原資を捻出できなかったことが原因だった。しかし2000年代に入ると株主配当と内部留保が増大したのに設備投資は抑えられ続けていたという。
なぜ内部留保が増大したのに設備投資は抑えられたのか。それは企業が資金を手元に置いてきおたがるようになったからだが、積極的な投資のための資金としてより、経済危機に備えての流動性確保が大きかったのだといい、それは「バブル崩壊」期において金融機関により「貸し渋り・貸し剥がし」があったことがトラウマになっているのだという。
バブル崩壊期にこうした行為が銀行等によって行われたのは不動産投機の加熱を防ぐために大蔵省が「不動産融資の総量規制」を銀行に対し通達したことによると言われている。これらによって成立していた融資契約を反故にしたり、建設途中の不動産が建設中止に追い込まれたりして、大きな痛手を受けた企業が多かった。これによって不良債権に対する過剰な融資が行われていたことが表面化し、多くの金融機関が倒産に追い込まれたが、同時に多くの企業が融資を受ける金融機関を失ったわけである。
その後遺症によって企業が利益を出しながらそれを手元に残すことを選択して設備投資をしなくなっているとしたら、金融機関が本来の役割を行わなくなっているということが原因なわけで、資本主義の血液である貨幣流通量=信用が毀損されたままになっているということで、大きな問題だと思う。これは製造業だけでなく、金融機関の問題でもあるだろう。
金融機関が貸出に消極的になっている理由としては金融機関の国際基準の問題も絡んでくると読んだ覚えがあるから、この辺のところはもう少し他国の例なども調べて問題の所在を考えてみたいと思った。
もう一つはお金があっても「投資機会がない」という主張がある。この主張の正当化するのは、「日本は少子化により人口減少が起こっているので国内投資を行う動機付けに欠ける」という主張である。生産現場の海外移転を始め、海外への投資は行われる一方国内での投資が行われず、賃金も上がらないとなれば少子化はさらに進むのは当然なわけで、その辺りに根本的な手当てをしなければ何も変わらないのは当然なのだが、今のところその負のスパイラルから脱することができないでいる、ということだろう。
そしてもっと良くないのは、設備投資が行われず老朽化した施設で生産性の低い操業が行われている結果、「最悪の場合、不正行為に手を染める原因の一つ」になっているというわけである。
最近になって、以前なら考えられなかった「大企業の不正行為」が相次いだ悪夢は多くの人が覚えているだろう。日産、スバル、三菱自動車、スズキ、神戸製鋼、川崎重工、三菱マテリアル、日本ガイシ、宇部興産、IHI、住友重機、東洋ゴム、KYB、日立化成などで不正行為が発覚し、果ては経済産業省の統計にまで不正が発覚している。
三菱マテリアルの子会社ダイヤメットの不正行為についての調査報告書によれば、その背景には設備投資の抑制があったのだという。設備投資や人的投資が長年にわたって抑制された結果、製造設備の老朽化・陳腐化が進んでいたのに、経営陣は売り上げ減少を恐れて能力を超える受注が行われ、それを捌くために現場は不正に走らざるを得なかったのだという。(以下のリンクはネットで見られるプレス用の資料)
https://www.mmc.co.jp/corporate/ja/news/press/2018/pdf/18-0328a.pdf
人的投資の抑制により、技術者が不適合品の大量発生の処理に忙殺された結果、不適合品が出荷されたり検査そのものが省略されたりという描写を読んでいると、目を覆わんばかりの惨状だなと思う。
これらは教育現場や医療現場、介護や保育の現場の荒廃の実情と通じるものがあるだろう。十分な要員が確保されていないだけでなく、仕事量やメンタル面で困難な状況の職員が増えれば職員の休職等も増え、業務の皺寄せが行った職員が能力を超えた仕事をせざるを得なくなり退職に追い込まれ、その補填には経験のない新人が配置されるという悪循環である。そのような現場でさらに事故や不祥事が起これば事態はより困難になる。おそらく様々な現場で似たような事態は発生していた、あるいは現在でも発生し続けているのだろうということが、これらのところを読んでいて考えさせられ、暗澹たる気持ちにさせられた。
これらの問題は設備投資と人的投資の抑制のもたらした製造業の破滅的な状況であるわけだけど、「投資が行われない」ということがいかに産業を(だけでなく教育をはじめとするあらゆる人間的営為を)毀損するかということが改めて確認される。「投資は資本主義のエンジン」なのだなと改めて思う。
それにしても、日本に冠たる製造業の名門企業が老朽化し陳腐化した設備で生産力が低下し不正をせざるを得ないというのはまさに貧すれば鈍すというしかない。利益至上主義が悪い意味でのリストラ志向と結びつくと悲惨なことになるということなのだろうと思う。新規投資はおろか設備の更新ができていない製造現場で良質な製品が作れると思う方がどうかしている。第二次大戦末期の間違った精神主義に企業経営陣が陥っているのではないだろうか。不正をせざるを得なかった現場に責任を転嫁するのではなく、真の問題が経営姿勢そのものにあったことを認識すべきなのだろうと思う。
また、利益のみを追求し必要な設備投資に対する消極的な姿勢をとらせたことは株主=投資家側の問題もあるだろう。「株主資本主義の本当の問題点」はそのあたりにもあるのかもしれないと思った。
この辺り、個別産業についてもみていく必要があると思うので、先日買った「日本半導体 復権への道」もそのあたりについて考えながら読んでみたいと思っている。
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