世界の成長はなぜ止まっているか:サマーズの議論
Posted at 22/01/29 PermaLink» Tweet
1月29日(土)晴れ
週末になってだいぶ疲れが溜まってきて朝も早く起きられないし何事もだらだらしてしまう。仕事は土曜日も普通にあるのだが気持ちは週末になっているので疲れも出やすくなっているのか、どうも困る。
「資本主義の新い形」1-2資本主義はどこへ行こうとしているのか
1-2-1資本主義は長期停滞に入ったのか ー サマーズの問題提起
この辺からは本格的な経済学の議論になってきていて基礎知識を確認しながら読み進める感じになってきた。この項は次の1-2-2「自然利子率」の低下が意味するもの・1-2-3「なぜ投資機会の喪失」が起きているのか まで含めて「資本主義の構造変化」の問題を取り扱っている。
経済というものは一定の期間を見ればある種の「波」があるというのは言われていて、「コンドラチエフの波」とかの景気波動を考えたりするわけだけど、資本主義経済の数百年の歴史の中で、現在は「長期停滞期」に入っているのではないかというローレンス・サマーズの2016年の問題提起について考察しているわけである。彼はクリントン政権で財務長官、オバマ政権で国家経済会議委員長を務めている。
この長期停滞の概念を最初に提出したのはアルヴィン・ハンセン(1987-1975) で、彼は1938年の世界恐慌後の一時的回復(ニューディール政策によるもの)ののちの不況下での講演で現況を「これ以上の財政拡張によっても完全雇用を実現することはできず、長期停滞は避けられない」としたものだという。
これは要は財政出動による民間投資の刺激は難しいということでケインズ主義の限界を提示しているのだと思うが、このハンセンという人はFDルーズベルト政権において国家政策調査委員会委員長を務め、アメリカにケインズ革命をもたらすことに尽力した人物であるだけにその問題提起は深刻に受け止められたのだと思う。
しかし現実的には翌年の1939年に第二次世界大戦が始まり、戦争経済がアメリカに好景気をもたらして、また戦後も戦時中に開発された多くのイノベーションがさらに進んだこととベビーブームによる人口増大によって高度成長がもたらされ、完全雇用が実現して、長期停滞論はその後考慮されることはなかったようだ。
サマーズの主張は、
1リーマンショックから5年後時点での先進国の成長率の低迷は一時的な現象でなく長期的な現象である
2その原因は
2−1個人の「貯蓄性向が上昇していること」
2−2民間投資が不足していること
の相乗効果によるものである、というものだということだ。
ではなぜ貯蓄性向が上昇しているのかといえば、
2-1-1所得と富の分配が不平等化しているので消費の割合が多くならざるを得ない中低所得者層の所得が現象し消費が減っている
2-1-2社会が高齢化し多くの人が老後に備えて貯蓄に励むようになった
のふたつがあげられ、民間投資が不足する原因としては
2-2-1企業が現金を手元に保全しようとする傾向が高まっていること(日本で言えば内部留保の増大)(実際に各国で企業の貯蓄が増大していることが示されている)
があるという。
これは著者が指摘するように「利潤を追求する」のが使命であるはずの企業としてはおかしな状態だというべきだろう。その理由として考えられるのは
2-2-1-1企業がもはや投資意欲を持たない
2-2-1-2投資したくてもできない「投資機会喪失」の状態に陥っている
体と考えられるという。これについては後で考えたい。
また民間投資月不足するもう一つの原因としてサマーズが挙げているのは
2-2-2シェアリングエコノミーの進展により実物への投資が不必要になりつつある
ことだとしている。
この件に関しては「資本主義の非物質化」というこの本の本題とも関わってくる、つまりもしそうなら長期低迷は避けられないという話になるが、これはまた違うところで考えたい。
ここで私が考えたことを書いておくと、この主張が「リーマンショック後」の世界経済を考える中で出てきたことだということで、つまり企業は「投資や貸し出しに積極的になりすぎると破綻する恐れがある」ということを学んだということがると思うということだ。
これは日本のバブル崩壊でもそうだが、バブルの波に乗ろうとして多くの企業が不良債権を抱え込むことになり、実際の多くの企業が倒産した。資金があるからといって無秩序に投資しては足を掬われるのは当然のことで、投資により慎重になると投資先がなくなるのは2-2-1-2に当てはまるだろう。
実際、バブル期の不良債権を生んだ多くの不動産投資やリーマンショック時のサブプライムローンのケースは無理な投資が引き起こした問題だということは明らかで、ここに慎重になるのはある意味健全だとは言える。
もう一つ考えたのは、敵対的企業買収の問題で、企業買収から防衛するためには資金を手元に置いてもしそれが敵対的に仕掛けられても対抗できるようにしておくことが必要であることと、もう一つは自分から他の企業を買収するためにキャッシュが必要であるという二つのことが考えられると思う。
もしもし敵対的買収に備えるためにキャッシュを増やしているのであればこれは帝国主義戦争がむしろ成長の鈍化と破局を生んだ、みたいな話になって資本主義の病弊みたいなことになってくるように思うし、そうしたものを法的に規制すべきだという議論も起こり得ると思った。
また「健全な投資先が存在しない」から手元にキャッシュが増えているというならある意味仕方ないとも言えるが、私はそれもどうかと思う。もし経済が経世済民、つまり世界の人をより豊かで幸福な暮らしをもたらすためのものであるならば、(少なくともアダム・スミスの理想はそうだったように思う)低開発国や低所得者層に機会を与えることへの投資等ももっと行われていいし、そこに投資機会もあるのではないかという気はする。
まあ最後はちょっと理想論くさいけれども、思ったこととして一応書いておこうと思う。
世界経済が本当に長期停滞に入ったのか、それにどう対処すべきなのかはまだもう少し先でないと考えられないけれども。
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