企業にとっての競争で優位に立つ源泉となるものはいかに変化したか
Posted at 22/01/28 PermaLink» Tweet
1月28日(金)晴れ
1週間の疲れがだいぶ溜まってきて、また今日は少し寒くて(-5.6℃)、どうも身体があまりよく動かない感じなのだが、家と職場のゴミを処理して帰ってきた。今日は旧暦では12月26日、月もだいぶ痩せ細って朝の東の空にかかっていた。
「資本主義の新しい形」1-1-3「企業の競争優位源泉の非物質化」。
これはつまり「企業は何を売るか」という問題だなと思ったのだけど、日本企業は製造業で成功したために「良いモノを売る」「良いモノは必ず売れる」という信念、というか信仰を持っていて、それはガラパゴス的に進化した日本ならでは商品は生み出したが、それはだんだん世界には売れなくなっていったということだろう。単純に技術的に安くて良いモノを作るだけなら、技術的に追いつかれてしまえば新興国には敵わないし価格競争で勝てるはずがない。だから多くの日本企業は海外に、特に中国に移転したけれどもその中で技術も(中身も順位も)抜かれ、今では半導体技術でも台湾企業に後塵を拝する状態に落ちぶれてしまった。
現段階の日本では「良いモノを安く作る」という戦略では生き残りが不可能であるという状況になってきている。まだ特定の分野、ないし特定の会社ではそれが可能なところもなくはないと思うが、全体的な状況としてはそう判断せざるは得ないかなとは思う。
ただ労働集約型の製造業は雇用の安定には不可欠の要素であり、未だの比較優位を保っている自動車産業などは大きな雇用を生み出してはいる。ただ他の製造業、特に家電などは状況は厳しいだろう。
大型の耐久消費財の製造はうまくいけば大きな利益を生み出すから家電は日本の製造業の中心の一つであり得ていたが、この分野は厳しいのが現状だろう。
一方、アメリカは「製造業では日本に敵わない」という現状を受け入れたのち(それでも日米構造協議なので日本からかなりの譲歩を引き出しているが)は「売るものの非物質化」を進め、それに成功したということなのだと思う。
そしてそれが「アメリカならではの付加価値」であったということなのだと思う。日本が戦後、死力を尽くして戦った当の相手であるアメリカの陣営に入り、さまざまな問題はありながらも概ねはアメリカと同盟関係であり続けた一つの理由は、庶民レベルでのアメリカへの憧憬、アメリカの自由さと生活文化への憧れというものがあったと思う。その生活文化は貧しかった日本の生活との対比から「物質文明」といわれたが、決してそれだけではなかった。精神文明はヨーロッパの方が優れているとインテリゲンチャはヨーロッパの方に惹かれたが、「アメリカ体験」というモノは日本人だけでなくヨーロッパ人から見ても、また世界のほとんどの地域の人たちにとってもある種の魅力のあるモノだったことは間違いないだろう。
それはアメリカの自由さ、しがらみのなさというものに象徴される。もちろんある種「歴史的未熟さ」ゆえのしがらみの強さみたいなモノは本当はあるのだと思うが、特に「全く新しいものに挑戦する者に対する社会のサポート」みたいな点においては他になかなか例を見ないと思う。
それは結局は、「売る側の論理」ではなく、「買う側が欲しいもの」をいかに把握しそれに答えていくかというところになったわけだけど、例えばFaceBookの売っているモノは何かと考えてみれば、結局は「人間関係」なのだと思う。FaceBookは新たな人間関係を作るのにも使えるが、古い忘れてしまったような人間関係を復活させることもある。FBによって数十年ぶりの友人とやりとりをしたなんてことも珍しくない。
またAppleが売っているモノは何かと考えてみると、つまりは「自由なライフスタイル」であると言える。なるべくお洒落で機能性も高く、仕事の業務も日常生活に必要なものもmacやiPhone、アップルウォッチを駆使してなんでもできるようにする。そうして余った時間をまたこれらの機器を利用して人生を充実させるのに使う、というような好循環を生み出すのが彼らの「売っているもの」だということになるのだと思う。
アップルの機器を作っているのはアメリカではなく東アジアの企業であり、本社がやっているのは「製品開発・デザイン・ビジネスモデルの構築・知的資産の創出とその権利保護、自らの製品のグローバルな製造・販売チェーンの構築とその管理」であり、「顧客が持つ端末から得られる大量の情報を収集・分析して顧客の嗜好を正確かつ迅速につかみ、それに即応した新しい製品・サービスを次々に打ち出す」ことだ、というのはいわれてみたらその通りなのだが当然ながら従来の「製造業」とは全く違う。
彼らが投資対象として重点を置くのは物的なものではなく「知識」であり、それを創出し生み出す「人間」であり、「これらを生かす組織の構築と経営体制の構築」だということになる。アップルの機器はそれ自体が「商品」であるだけでなく「サービスの媒体」でもあり「情報収集の手段」でもあるから、「顧客の嗜好について知るだけでなくその変化にも即応する体制を築いている」というわけだ。
こうしたものの総体は「形のあるもの」ではないので、「無形資産」と呼ばれるという。もちろん企業はどの企業もこうした「無形資産」を持っているわけだけど、そこに重点的に投資して利益を上げていくシステムを構築したのは新しい成功だったと考えるべきだろう。
つまりこの戦略的に重要な「非物質的要素」こそが「現代資本主義における競争優位の源泉」であるという認識が重要であり、彼らはそこに投資してきたが、それに遅れをとっている日本企業が「ルールの変更」をよく認識できていなくて「勝てない競争」に埋没してしまっている、というのが著者の現状の見立てだ、ということになる。
今まで競争優位源泉は「企業規模」であるとか「技術力」であるとか「知名度」であるとか「巨大な工場」であるとかであってきたわけだが、こうしたものが「新しい競争優位源泉」であるという認識は、まだ日本では不十分かもしれないとは思う。当然ながらこういうものに取り組もうという熱意も不十分だろう。
スティーブ・ジョブズが言っていたように、こうした考えももともとはソニーがウォークマンなどのライフスタイル提案型の商品を出したことに刺激された面があるはずなので、日本企業がそういう方向にいかなかったのは残念だなとは思う。
私は以前「情報資本主義」というエントリを書いたけれども、これは世界的にみれば「知識資本 knowledge / intellectual capital」と呼ばれ、知識資本こそが現代資本主義の際ばいり重要要因であるという立場から、「知識経済」ないし「知識基盤経済」と特徴付けられて膨大な文献が公表・出版されているのだという。知識の一部が資本化され利潤創出の源泉になり、また知識資本を増やす「学習」がその投資であり、知識がだんだん古びていくことを「減耗」と捉えれば、経済学的にも分析できるとのことのようだ。ただこれについては著者は「知識」は「人的資産の一部」と捉えるという立場でこの本を書いていて、知識を独立して資本と考えるというスタンスではないという。
またこれらを「無形資産」と捉える考え方から言えば知識資本はその一部ということになるけれども、無形資産の積み増しは優れた人材を採用し、彼らを生かせる組織や経営体制を作り、創造的なアイディアとそれを可能にする環境を作ることによってその蓄積が促進され、質が改善されるということになるわけだ。
この辺りのことはピーター・ドラッカーがすでにかなり前に言っていたことは覚えているが、すでに多くの研究が行われていることは初めて認識したので、機会があったらそういうものも読んでみたいと思う。
日本企業が今後どのようにして競争優位源泉を再構築していくのかが最大の問題だと思うのだが、経済活動の動きもそういう観点からまたみてみたいと思う。
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