「資本主義の新しい形」:日本の失敗は資本主義の本質の現れなのか(単にケインズ政策放棄によるものではないか)

Posted at 22/01/26

1月26日(水)晴れ

天気はいいのだが、夜のうちは曇っていたのかあまり冷え込まなかった。昨夜済ませられなかった仕事があったので、朝6時ごろから仕事をして片付けてきた。

「資本主義の新しい形」を読んでいる。第1章「変貌しつつある資本主義」第一節「資本主義の本質 変わるものと変わらないもの」第1項「資本主義の変わらぬ本質」まで読んだ。

このあたりは現状認識の再説なので著者が何をどう捉えているのかのスタンスが重要だから、ちょっと細かく見てみる。

1950年代に都留重人が「資本主義の問題は解決されたか」という問いを世界の経済学者に行った本があるそうだが、それはつまり当時はケインズ主義政策によって資本主義の問題が解決されたように見えていたからだという。

その資本主義の問題とは、
(1)周期的な景気循環とそれに伴う失業などの問題
(2)独占化・寡占化の傾向
(3)不平等の拡大と貧困化
であると著者はしている。

その解決策として、
(1)ケインズ主義の財政金融政策による景気のコントロール
(2)独占禁止法で独占傾向を押しとどめる
(3)累進課税や社会保障を通じての所得の再分配による平等化

によって解決に向かっている、と高度成長期の当時には考えられていた。

しかし60年後の今日では
(1)ブラックマンデーやアジア通貨危機など景気のコントロールができない状況の多発
(2)GAFAなどの市場独占の危機
(3)世界的な格差拡大

などが問題になっている。

これを持って著者は「資本主義の性質は変わらなかった」と著者はしているのだが、それはどうかなと思う。というか、つまりは「ケインズ主義政策をやめたこと」がこの結果をもたらしている、と私には思われるからだ。

80年代からレーガン主義によって経済政策が変えられていったのは、ケインズ主義政策を続けてきたことに問題があったと思われるようになったということで、
(1)財政金融政策による政府の財政赤字の拡大
(2)国家が強力な企業を持つことによる市場シェアの拡大が独占が禁止されるとできないこと
(3)所得の再分配により「悪平等」が進展し国民の活力が失われたという見方
が強くなってきたということだ、と私は思う。

日本で新自由主義が力を得てきたのは(3)の「悪平等をあらためる」という主張が勢いを持ったからのように思われるが、もともと世界的に新自由主義が力を得たのは、イギリス病と言われたイギリス経済の長期停滞をサッチャー主義によって「立て直した」こと、日本やドイツに国内市場を侵食され国力の減退を感じたアメリカがレーガン主義によって「双子の赤字」の解消に舵を切ったこと、のふたつが大きいように思われる。

ジョンソン・ニクソン・フォード政権下のアメリカでの長期的な低落傾向と、ブレジネフ政権下のソ連での「良くも悪くもならない」停滞は相似的なもののように思われるが、その状態からの脱出を図ったのがレーガン保守革命でありゴルバチョフのペレストロイカだったわけで、前者は「成功」し後者は「失敗」したわけだ。

つまりは世界的なある種安定した冷戦構造の中での盟主国の相対的地盤沈下に危機感を強めた両覇権国の動きがケインズ主義という折衷的な社会資本主義的政策からの離脱を要求し、起業家中心主義的な資本主義の原点に帰ることで活力を呼び戻そうという動きになったのではないかと思う。

ゴルバチョフの失敗は社会主義計画経済の構造的な問題よりも人間の実存たる自由の問題に目を向けたことにあったのだろう。つまり「自由」は社会主義を破壊するというスターリンの洞察の方がソ連国家の維持のためには正しかったということなのだと思う。

そういう意味で、ケインズ主義が捨てられたのは主に「イギリスやアメリカの都合」だったのではないかと思うが、日本でも期せずして「財政赤字の危機的状況」が問題にされたのは、呼応する勢力が日本にもいた、ということなのだろう。

要は自由主義国・資本主義国の牽引国としてのアメリカの力の復活こそが世界経済を回復させる、という主張が説得力を持つものとして受け入れられてしまったことに問題があり、90年代の日本経済はつまずきにつまずきを重ねてハゲタカやリストラ万能経営者(カルロス・ゴーンなど)の餌食にされ、アメリカ経済への従属的傾向を強めるとともに中国の景気動向にさえ左右されるようになってしまい、失業率は上がり、新卒者の就職難から氷河期と呼ばれる世代を生み出し、不安定な雇用が増えるとともに少子化が進行し、高齢人口の割合が増えることになった。

だから日本の問題は単に「資本主義の問題」だけではないのだが、特に90年代以降、日本の企業活動が世界のトレンドについていけてない、世界の消費者や事業者の需要に応えられていないというのは事実だと思うので、その辺りは考えていかないといけないと思う。

とりあえずここまで読んだ私の感想と自分の考えのまとめはここまで。あとはまた読みながら考えたい。

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