日本帝国主義の再評価の必要性/一帯一路は改革開放に次ぐ中国第三の国家ビジョンであるということ
Posted at 22/01/09 PermaLink» Tweet
1月9日(日)晴れ
「ハロー、ユーラシア」ようやく読了した。今日書きたいポイントはいくつかあるのだがちょっと疲れ的にそんなにたくさん書けないので、2点に絞って。
一つは、日本の大東亜共栄圏構想、そしてその元になる「日本帝国主義が目指したもの」ということを、ちゃんと再評価しないといけないのではないかということ。
この辺りの思想的な品定めは廣松渉がやっているようなのだけど、その辺もまた読んでみたいと思う。
日本帝国主義の実態としては、岡倉天心や後藤新平、大谷光瑞の目指した方向性というものの再評価ということになるだろうか。彼らは一般に帝国主義の尖兵の方には思われていないけれども、色々な面で日本の帝国主義的発展、植民地経営の充実に貢献していることは確かだ。後藤が台湾民政長官としてアヘン中毒者の激減を実現したとか、さまざまな実績をあげていることは知られているけれども、彼らがエコロジカルな地道な調査によってアジア諸地域の開発計画の実現化に邁進していたことはあまり知らなかったのでちょっと驚いた。戦後もその構想はある意味生き残っていて、「文明の生態史観」などはある意味成果のようなものだったのではないかという気がする。
戦前の調査は結構学問的に進められていて、後藤などは実態を把握した上でそれに即した対処方法を考えて実践していたわけで、それはちゃんと学問的な方法論を持って行われていたからなのだろうなと思う。満鉄調査部などもダークなイメージが先行しているけれども、おそらくやっていたことはかなり実効性を持ったもので、だからこそ満州国の産業があんなに発展したのだろう。現在の官僚組織に見られるような統計数字をいじるとかはほんとに末期症状なんだが、日本文明の衰退というのはそういうところに現れてるんだろうと思う。
実際のところ、そういう「調査力」のようなものはフィールドワーク系の諸学問をもっと興隆することが必要だと思うのだが、地理学・地質学・動物学・植物学・民俗学・人類学・などの分野はやはり衰退気味で、その辺のところをなんとかしていかないと日本に未来はない感じはする。社会学も本来はそういう学問だったはずなんだが。
「大東亜共栄圏」の大義は力づくでの征服ではなくアジアの潜在的な力を最大限に引き出し白人世界に対抗していくことであった、というのはすごく納得できる。ただ、日本がそれを目指していたということも「支配される側」にとっては文字通りには伝わってないだろうとは思う。
欧米の帝国主義国と日本の帝国主義の違いというのは、欧米が差別主義に基づく植民地からの収奪が主目的だったのに対して、日本はその困難性に早くから気づいて植民地のポテンシャルを引き上げてそれを活用する方向で植民地経営をしていた。その方向の先に大東亜共栄圏構想があり、特に満州や北朝鮮で産業的発展を実現しつつあったわけで、それはもちろん日本の利益のためだということは否定できないが、現地からの期待というものもそれなりにあったから、汪兆銘やスカルノのような対日協力者が多く現れたということはあるわけだ。
福島亮太さんはそれを現在の中国が一帯一路構想で踏襲しようとしているというけれども、借款漬けのやり方とか、色々問題は大きいなと思う。しかしそれによってアメリカないし欧米に対抗したいと考えているところはまあ同じと言えば同じだなとは思う。というか大東亜共栄圏というか日本帝国主義をもっとちゃんと再評価しないといけないなとすごく思った。ジュニアで矢内原忠雄についてレポートを書いたときに戦前は「植民学」という講座が経済学部にあったことを知ってへえっと思ったのだが、もっと勉強しておけばよかったと思った。
もう一つは、現在の「一帯一路」のビジョンが、つまりは「習近平思想」であるということ。つまり「中国の世界帝国化」中国共産党第一の思想家である「建国の父(にして他の大失敗は不問に付された)」毛沢東、第二の思想家である「改革開放(の主導者にして天安門の虐殺者であることは黙殺された)」の鄧小平に次いで第三の国父としての地位を占めつつある、ということなのかもしれないと。
つまりその評価はともかく、中国共産党政権にとっては第三の発展段階、統一中国の建国・経済発展という二つの発展を実現して「世界帝国」への歩みを踏み出した、ということなのだと思う。
近代日本の大東亜共栄圏構想がある意味日本帝国主義の発展の延長線上にあったとしてもかなり戦争間際のどさくさに出てきた苦し紛れの巨大構想という感じがするが、現代中国の場合は満を持してぶち上げた巨大構想なわけだ。かなりの軋轢は生んでも彼らがある意味本気でこれを実現しようとしているのだろうということはわかるわけで、アメリカも民主・共和を問わず本気で潰そうとしてきているけれども、日本はその狭間で埋もれてしまわないようにしないといけないと思う。
今の感じではこの構想は「高転び」する可能性は結構あると思うので、なんとか足をすくって日本の将来に資するように持っていければいいと思うのだが、まあ無理でもなんでもとりあえず外交当局には期待したい。
あまりうまくまとまらなかったが、とりあえず今日はこんなところで。
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