「千と千尋の神隠し」は思ったよりジャンプ漫画だった。
Posted at 22/01/08 PermaLink» Tweet
1月8日(土)晴れ
今朝はどれくらい寒いのだろうかと思いながら起きて、洗濯機を回したら回るので思ったほどでもないかなと思ったが気温を見たら最低気温はマイナス8.6度でやはり寒かったんだなと思った。ガソリンがだいぶなくなっていたので久しぶりに茅野まで車を走らせて給油してきたのだが、思ったより雪が残っていてそんなに標高は違わないのにやはり茅野の方が寒いんだなと思った。デイリーヤマザキの駐車場で気温を確認したらマイナス10.2度になっていて驚いたのだが、それは茅野の気温だった。明後日の月曜が休みなのでスピリッツとヤンジャンの新しい号が出ていたので買った。塩パン三個の袋詰めとコーヒーを買ったのだがデイリーのコーヒー割と美味しいな。カップに「日々カフェ」と書いてあって、なるほどデイリーだからか、と思った。
昨日は色々ハプニングがあったこともあって疲れて「ハロー、ユーラシア」は読み進められなかったのだが、家に帰ってきたら「千と千尋の神隠し」をやっていて報道ステーションとザッピングしながら見た。この作品は元々スタジオジブリの作品の中でも一番好きでBDも持っているのだが、そんなに頻繁に見ているわけでもないのでかなり久しぶりだったからなのか、新しい発見がたくさんあった。
最初見た時にはそんなに好きでもなかったアクションシーン、というかカオナシの大暴れないし千尋とカオナシとの戦い?が、昨日は見ていてすごく良いなと思った。考えてみたらジブリは元からこういうアクションシーンは結構多いわけで、自分がそういうところをあまりみていなかったんだなと思ったり。またこの動きの多い派手なシーンと、静謐な電車の場面が直接つながるところもとても良いなと思った。
1番の驚き、というか発見は、というか今まで何をみていたんだということでもあるのだけど、ラストの両親との再会の場面で千尋が母親の腕を取るのは、今までは単に「甘えている」と思っていて、それまでの場面との整合性が取れないなとずっと思っていたのだけど、昨日見て初めて「千尋が母親を守ろうとしているんだ」ということに気がついた。あるいは、人間に戻ってよかった、戻すことができたと確かめているというようにも取れる。そして振り返ってはいけないと言われて、でも振り返りたいという気持ちを抑えるために体に力を入れている、というふうにも取れるなと思ったり、あの場面の重層性に今まで全然気がついていなかったなと思った。
いずれにしても物語が始まる前の、「何もできない無力な千尋」ではない、両親を守ろうとしている、あるいは両親もハクも守ることができた、そういう守る意志を持つようになった「成長した千尋」が描かれているんだなと思った。そういう意味では、「千と千尋の神隠し」は思ったよりジャンプ漫画なんだなと思ったのだった。
「意志の発明」はルソーによるもの、というのを昨日読んで、それでものの見方が変わったところがあるなと思う、大袈裟に言えばある意味コペルニクス的転回とも言えるんだけど、物語において「意志」を重視するのは近代の特徴なんだと改めて思ったし、そういう意味ではジブリ作品はとても近代的な作品なんだなと思った。私にはそういうのがあまり前面に出るのは割とダサいというかカッコ悪いと思うところがあるのだけど、こういう気がつくか気が付かないかの境目くらいのところで「意志の勝利」を表現しているから「千と千尋」が好きなのかもしれないと改めて思ったり。
これはTwitterでもよくネタにされている、湯婆婆の「千尋というのかい?贅沢な名だねえ。今からお前の名前は千だ。」と名前が取り上げられる場面があるけれども、つまり「千と千尋」は「名前をめぐる物語」でもある。千尋は急激な展開の中で自分が「千尋」であることを忘れ、「千」だと思ってしまっていたことにハクに言われて気づく。そして自分の名前を覚えておくことが大事だと。つまり、「自分が自分であること(を忘れないこと)」の象徴的な意味が「名前を覚えておくこと」に込められているわけである。
名前とは「呪い」ないし「呪」である、ということが夢枕獏・岡野玲子「陰陽師」で語られているけれども、悪しき者から身を守るために、混沌とした世界との関わりの中で自分を守るために使われる、あるいは隠されるのが「名前」であったわけだけれども、それは前近代の話であって、近代では「自分が自分であることを忘れないために」つまり「自分が自分であるという意志」のために名前がある、ということが表明されているのだろう。これは色々考え方があるのは別にしても、生まれた時の名前を守ることで自分が自分であることの意志を表現したいと考える夫婦別姓の主張にも重なることで、ある種近代的な思想の発露なんだろうと思う。
つまり、湯屋において、働くことで失われていく、自分自身が鍛えられはするにしても自分が自分であるという意志、つまり自我が消えてしまいやすいこの湯屋という労働環境は、現代資本主義社会そのものであり、湯婆婆はごうつくばりの資本家そのものであるわけである。その湯婆婆が「大事なものを見失ってる」というのはまあそういう批判と取れなくはないが、物語の中でもまあこの特異なキャラの抜けている点、弱点として面白いところでもある。
そういうゴテゴテした悪趣味な(もちろんそれはそれで魅力的なわけだが)、ある意味トランプタワーのような湯婆婆の湯屋に対して、「あの人はハイカラじゃないでしょ」という双子の銭婆は瀟洒なこじんまりした家に住んでいて、飛んで歩く街灯のような最新のテクノロジーを駆使している(笑)わけだが、誰でも幅広く受け入れる銭婆はある意味社会資本家のようなもので、資本主義社会で怪物になってしまったカオナシも受け入れ、居場所を与えるという慈善的な活動をしているのだが、彼女らが双子であるように、やはりネオリベのブラック労働を強いる資本家と慈善事業に巨大な資金を拠出するビル・ゲイツのように大元は同じなんだよなと思う。
そしてこの社会で消費の欲望にまみれ豚になってしまったしまった千尋の両親というのはまあ、我々バブル世代の戯画化であると思われるし、人間に戻っても全然懲りてないところがまあ可笑しいと言えば可笑しい。ただ千尋はこういう世界でも大切な人を守りたい、守らなければいけないという意志に目覚めたわけで、いやすごく完結性の高い作品なんだなと改めて思ったのだった。
まあこの作品の解釈はもちろん他にも色々いくらでもできると思うし、また各場面の秀逸性もまだ書き足りない部分もあるのだけど、もう20年前の作品が、いや恐らくは20年経ったからこそ改めて現代的な面白さを感じさせてくれるというところに、作品というものの持つ価値があるのだろうなと再確認させられた思いがある。
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