香港の都市国家としての可能性/戦国時代の北進論と南進論/人民の意志を政治の主体にしようというルソーの破天荒な発明
Posted at 22/01/07 PermaLink» Tweet
1月7日(金)晴れ
関東では積雪と寒さで大変なことになっているようだが、当地では積雪もなく気温も普段とそう変わらないので特になんと言うことはないのだが、それでも寒いものは寒い。
***
「ハロー、ユーラシア」、11章まで読んだ。20世紀に科学・議会制・世俗主義を推し進めた国(旧・帝国)が2010年代に宗教に回帰するバックラッシュが起こった(トルコのイスラム・インドのヒンドゥー・中国の儒教)という指摘があって、それはその通りだなとは思ったが、それを言うならその先駆者はイランのホメイニではないだろうか。ホメイニ以来のイランの歩みは、イスラムを基軸にしても現代国家を維持することが可能だという実例を提示したわけで、これは現代社会に大きな影響を与えたと思う。
香港が都市国家としてある種のナショナリズムが生まれ、雨傘運動につながったというのは興味深い。2014年の台湾のひまわり学生運動が親中的な馬英九政権に対する異議申し立て、つまり本質的に反中の台湾ナショナリズム運動であると考えると、それが香港の雨傘運動につながったと考えて良いのだろうな。自立する中華の周縁、反中の盛り上がり。それが最近の習近平の強硬姿勢にも反映されて来てるのだろう。
香港の本土主義者がリベラルメディアの左膠(日本で言うマスゴミ的な左傾報道)を批判しトランプを支持したのはとても共感できた。著者は「トランプが最大の権力者であることを忘れている」というけれども、トランプのあの引きずり降ろされ方を見ていると「本当の権力者」はトランプではないだろう。それが「ディープステート」であるというと陰謀論になるが(というかその陰謀論が現実のアメリカのパワーエリート支配を隠蔽しているのだと思うけれども)、その辺の指摘を避けてトランプをとりあえず悪者にしようという話の持って行き方はあまり面白くない。
しかし香港はこれからどうなっていくのかな。ただ単に広東省の一都市になっていくのか、それともシンガポールのように特異な都市国家的存在であり続けるのか。それは中華人民共和国という国がこれからどうなっていくのかにもよるが、今のところは全力で潰そうとしている。ただ、本当に潰れるのかはまだわからない。中国ではチベット、台湾、香港、モンゴル、東トルキスタンの独立勢力を五独というけれども、そういう「分離主義」をあからさまな警察力・軍事力で潰そうという姿勢はかなり明確になってきた。しかし本当にそれが可能であるかもわからない。
ただ、中国が内部崩壊するというのはしばらく前までは可能性として考えていたけど、最近ではその可能性は低くなってきたなと思う。思想的な裏付け(天下主義・天朝主義)も出てきたし一般市民のナショナリズムもかなり強くなってきている感じがする。北朝鮮でさえ内部崩壊しない。朝鮮戦争で生き残った誇りがまだ生きてるんだろうなと思う。ユーラシアの権威主義的旧帝国勢力とその北朝鮮やシリアのような寄生国家群はより明確に侮れない勢力になりつつある。またその理論的裏付けも進んでいる。他世界に説得力を持つかは別にして。
全然話は違うけれども、戦国時代に形成された領域国家ではない都市のネットワークというのは、堺や博多を含めたマラッカなどの諸都市を結ぶ東南アジア的な海港都市のものとしてあったというのが割と明確なイメージを持ってきたのだけど、最終的にはイギリスとの抗争に勝ったオランダの通商網に制圧されて行き、それがアヘン戦争までは続いたというのがなるほどと思った。
ただ、それを成し遂げるのはオランダではなく日本であった可能性はないかについて少し考えた。豊臣秀吉の唐入りの意志の中には寧波を含む明との貿易網の構築があったように思う(「センゴク権兵衛」では唐入り自体がそういう世界観で描かれている)が、明や朝鮮に進出するより東南アジアでヨーロッパ諸国に対抗することを考えた方が良かったのではないかという気がするが、結局は航海術・造船術で彼我の差があり、あっちの方へ行ってしまったのだろうなとは思った。そこを頑張れば海上帝国建設の可能性もあったかと。いわば戦国時代の「北進論」と「南進論」ということになるが。
この本を読んで改めて、というか今更ながらここが重要だなと思ったのは、政治を「同意」の問題ではなく「意志」の問題としたのはルソーの発明だ、ということで、「あ、そうか」と思った。これはハンナ・アーレンとの指摘だそうだが、人民が政治において「同意」(たとえばローマ皇帝即位の兵士たちの歓呼とか)だけでなく「意志」を示した例、またそれ自身を統治の原理として確立した考え方は確かに「ルソーの発明」と考えるべきだなと思った。民主主義社会に生きてると「人民主権」という概念がいかに「新しい」「破天荒である」かというのは、なかなか思い及ばないところなのだよなあ。
事実を積み上げて体系を作り上げる「科学」と人民の意志で政治を決定する「民主主義」は確かに西欧近代の破天荒な発明だったなと思う。まあそれが万能なわけではないし、その万能性を否定しようというのが現代の中国の動きでもあるわけだけど、西欧の「発明」については改めて認識させられた。
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