戦後の東アジアはどの国も極端な政治的実験場だった/考え方を吸収するための読書
Posted at 22/01/06 PermaLink» Tweet
1月6日(木)晴れ
今朝は今年初めの資源ごみの日で4日の燃えるゴミの日も膨大な量を出したが今日もかなりの量があり、それを作ったり雑誌を紐で縛ったりヤンジャンを買いに行ったりしてたらあっという間に時間が過ぎた。雑誌と段ボールは出したので後で瓶缶ペットボトルその他プラスチック等を出しに行く。まずはブログを更新。
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福嶋亮大「ハロー、ユーラシア」の読書も年を越えてしまったが、だんだんこの本の読み方もわかってきた感じがする。思想的にはあまり合わないのでそこを吸収しようとするのではなく、問題設定とそこで取りあげられる思想家や思想について、自分なりのとらえ方をし、考察して行けばいいというふうに思った。
第7章。戦後=冷戦期の東アジアは歴史的な「政治的実験」の場になった、というのはなるほどと思った。大陸中国が毛沢東主義、台湾が中華民国国家の移転先、香港が植民地化から一国両制というそれぞれ異なる実験が行われ、冷戦状況のもとでそれぞれ独立性を保ったと。その一つが「平和主義を選んだ日本」だという指摘も頷きそうになったが、日本単独で「平和主義を選ぶ」ことはできず、また自ら進んで選んだわけでもないから「米軍駐留下での平和主義」というべきだろうと思った。またその伝でいえば朝鮮戦争という「熱い戦争」の後の大韓民国という「開発独裁主義」の実験、また朝鮮民主主義人民共和国の「世襲的主体主義」の実験というみょうちきりんな実験が並列したたぐいまれなおかしな状態の地域だったということもできる。台湾も書いてはいないが数十年の長期にわたる戒厳令下国家であったわけで、その特異な実験についても書いてほしい感じはした。
リベラルデモクラシーの一人勝ちと思われた冷戦後も中国の台頭によりそれの思想的裏付けとしての「天下主義」「天朝主義」が出てきたことで「歴史の終わり」は来ず、「諸帝国の並立」の時代になったという指摘は、現実を反映しているとは思う。
もうひとつ、中国思想の奇妙なものとして毛沢東主義があることを指摘しているのは面白い。「農村から都市を包囲する」という理論は「そういうものか」と思って来たけれども考えてみれば都市労働者の蜂起による革命というマルクス・レーニン主義の正統から言えば明らかに激しく逸脱しているわけで、そのアジア的逸脱が各国に農村に本拠を置く共産主義者という奇妙なものをカンボジアやネパール、そして山村工作隊という形で日本にも影響をもたらしたのは中国紅軍の成功に幻惑されたからだろう。この激しい逸脱は北朝鮮の主体思想にも現れているし、鄧小平思想に至っては資本主義さえ導入するという逸脱というより転換すら起こっているわけで、この融通無碍というより節操の無さは確かにもう一度検討するに値すると思った。「成功した中国史」が実はそうとう異形のものであったわけだから。
第8章は香港の本土主義、第9章は満洲国や汪兆銘政権、冀東防共自治政府などいわゆる対日協力・傀儡政権で活動した知識人など、戦後は黙殺されてきた思想家たちをどう評価するかという話。このあたりもいろいろ興味深いのだが、著者の視点がやはり受け入れにくい部分が多く、どうも積極的に検討する気になれないでいるが、より公平な立場から観察すれば面白いところはかなりあるのだろうと思う。
このあたりのところは確かに戦後は話題にしにくいところだったとは思うが、昭和の終わりとともに天皇制がらみのテーマの研究が解禁された観があり、ソ連崩壊とともに共産主義批判がどっと出てきたように、本当は中共政権が倒れたらもっと研究は盛んになると思うけれども、中共政権の世界に対する圧力が高まっている今こそが、ほんとうは研究すべき時なのではないかという気はする。思想としての有効性がどれくらいあるかは問題ではあるが、「成功した中国史」に対するアンチテーゼであることは確かで、「不発に終わった中国の理想」の再検討はする価値があると思う。
全体に、この本は思想や思想家、作家の紹介者としては雄弁だなと思うし、整理の仕方もなるほどと思う部分はあるが、思想の開陳においては私と見解を異にする面が大きいせいもあるけれども、あまり同意できないところが多い。そのためどうしても読みにくいのだけど、保守ないし客観性の高い立場からこのあたりを研究した書が見当たらない以上は読みにくくても読むしかないのだろうなとは思う。
と言うことで考えてみると、私の読書というのは基本的には考え方を吸収していくために読む、と言う側面が結構強いな、と思った。だから見解を異にする人、意見の違う人の文章は読みにくい。それが芸にまで昇華していればまだ読めるのだけど、生硬な思想や批判されるべき思い込みに準拠していると思われるような考え方が表に出ていると苦いものを食べているような感じで読むのもなかなか大変だ。こう言う本を読んでちゃんと批判できる人は偉いなと思う。そう言う苦さはどのように処理しているのだろうか。
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