「ハロー、ユーラシア」:中国による「新しい大東亜共栄圏」と日本が主導した「自由で開かれたインド太平洋」

Posted at 21/12/23

12月23日(木)晴れ

朝は冷え込んだ。いろいろ仕事が多いせいか、4時ごろ目が覚めてしまった。寝直してとりあえずは5時半までは寝たのだが。

「ハロー、ユーラシア」第三章読書メモ続き。中国の現代思想について。



地政学的認識を現実にしようとしているのは第一地域の日本ではなく第二地域のロシアであり中国である、ということを言っているけれども、日本がアメリカの手を借りてやろうとしている(安倍政権がとなえトランプ政権が賛同した)「自由で開かれたインド太平洋」というテーゼはまさに「海洋国家=シーパワー」のテーゼであって、地政学的に中国やロシアに対抗しようという考えはある。

地政学でもイギリスのマッキンダーはランドパワーを重視したが、先行するアメリカのマハンはシーパワーを重視しており、「自由で開かれたインド太平洋」連合(日米印豪など)が大陸国家(中国・ロシア・トルコなど)を包囲するという発想はシーパワー連合がランドパワー連合と対決するという考え方である意味地政学的な伝統の延長線上にあると言えるだろう。

現代の日本の保守派でも岡崎邦彦のように親アングロサクソン論者は要はシーパワーがランドパワーに勝つというところが論拠としてあったように記憶しているし、この「ハロー、ユーラシア」ではランドパワーの超大国としての中国が論点になっているわけだけど、シーパワー論もやらないとバランスが悪い感じはする。

しかし取り上げられている中国の思想家たちは全然知らない人たちで、この人たちの名前に触れただけでも読んだ価値はあった気がする。地政学者の閻学通、哲学者の趙汀陽(1961-)、劉明福、香港の盧斯達(1990-)、公羊学の蒋慶、甘陽、と言った思想家たちである。

閻は「アメリカ中心の覇道政治」を終わらせて「中国による王道政治を復活させよう」という三国志のビデオゲームかと思うテーゼを打ち出していると言われるが、日本も第二次大戦中は似たようなことを言ってたなと思う。趙は天賦人権や民主主義、主権国家秩序のような西欧起源の社会認識を否定し、世界そのものを「天下」と見なす発想から始まる議論を展開して、儒教の王道政治を世界に広げようということのようである。この辺りは読んだだけではあまりのアナクロニズムに目眩がする感じはあるが、日本でも呉智英さんのように儒教的世界観、封建主義の復活を主張する人がいるわけで、ある意味で世界の現状の行き詰まりを批判する射程を持っているとは言えるのだろうと思う。

著者は21世紀の中国のイデオロギー現象を儒教の学問の体系の中で捉え、春秋左氏伝の研究から始まった左伝学が尊王攘夷=ナショナリズム的色彩が強く、公羊伝の研究から始まった公羊学が大同を重視するコスモポリタニズムを持っていて、前漢の時代は後者が強かったが、のちに前者に圧倒され、清末に康有為が後者を復活させ、21世紀の中国では公羊学の伝統を引く蒋慶らが出てきたことを指摘していて、なるほどと思った。

こういうのを読んでいると中国は西欧とは関係ないところで長い学問論争の歴史を持っていて、そういうのも前近代の遺物というイメージが強かったが、こういうところで復活してくるところは侮れないなあと思う。日本でも江戸時代は儒教についてさまざまな議論があったけれども、現代において重視されているのはむしろ国学の方であって、その辺は国学思想に基づく尊皇論、大和魂論が維新から第二次大戦までを主導したことと関係はあるだろう。

この辺りのところまでを見るとすでに情報量が多すぎて整理が難しいのだが、日本は近代以降に西欧の世界観・体系を導入し、「国際社会」とはそれで渡り合ってきたわけだけれども、江戸時代の中期までは仏教や儒教といった輸入学問を導入し、それを日本的に咀嚼することで日本的な社会を作ってきた。それは仮の作りの上に仮の作りを重ねる、恐らくは異形の構造体になっていて、その辺りをガラガラポンして西欧思想で上書きしたのが近現代の社会なのだが、上書きしきれなかった部分が常にバグのように日本社会を動かし、恐らくはいずれまた西欧近代思想も日本化されてある種の異形性を持つようになるのだと思う。というかフェミニズムなどを見ているとすでにそういう部分もあるんだろうと思う。

日本は敗戦という大きな蹉跌を経験し、思想的な連続性について色々なところからの横槍が入りやすいのだが、中国やロシア、またポリコレに取り憑かれた欧米に巻き込まれないためにも、連続性を持った過去からの思想を踏まえた歴史の連続性を持った思想を打ち出していく必要があるだろうと思った。

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