日本と中国はどこが違うのか
Posted at 21/10/30 PermaLink» Tweet
相変わらず忙しくていろいろな多種多様な仕事がたくさんあるのだが、今日は比較的メンタルが明るくていい感じの朝になっている。全体的にやることを整理してできることからやっていきたいと思う。
まあ、ハードルの高い仕事を二つ片付けた、というかまだ片付いてはいないが着手した、ということもあるかもしれないな。この二つはやってみたら思ったほど大変ではなさそうな感じなので、それでほっとしたということはあるのだろう。いろいろとやることが集中しているときに新しいことに着手するとまた仕事が増えて大変になる、ということの意識が強いので、新しいことに着手するのに慎重になりすぎるところはある。
まあぼちぼちやろう。
***
「荘園」「平成史」を読み終わったので少し時間が取れるとき、空いた時間には谷口雄太「分裂と統合で読む日本中世史」(山川出版社、2021)を読もうと思っていたのだが、時間が取れたときにこの本を持っていき忘れて、これも読みかけになっていた丸橋充拓「江南の発展 南宋まで」(岩波新書シリーズ中国の歴史2、2020)を読んでいたのだが、これは思いがけず勉強になった。
私は中国史は専門ではないけれども世界史の教員ではあったのでそれなりに読んでいるつもりではあったのだけど、「江南」に的を絞ったものは読んでいなかったなあと思う。
特に勉強になったのが、中国史、三国・晋・南北朝から隋唐に至る時期の社会の中心的な存在だった「貴族」というものの認識についてで、なんとなく西欧中世や日本の鎌倉以降の時代における「領主」というものをイメージしていたのだけど、中国における貴族は自立的・自己完結的な封建権力としての領主ではなかった、というのは初めてしっかり認識できた感じがする。
それはなぜかというと、中国では意外なくらい、というかそこの認識が弱かったのだなと改めて思ったが、「一君万民体制」がずっと強固であったことが重要であるようだ。一君万民体制というのは要するに中間的な諸権力を認めないということであるから、存在として重要なのは「皇帝」と「民」、実質的には「小農民」だけということになる。だから中間的な勢力、あるいは権力を振るう勢力としての「貴族」「官僚」「宦官」「士大夫」などは実質的には大土地所有者であっても「皇帝の権威・権力を借りる」=「虎の威を借る狐」になるか、「小農民=民衆」に支持される=輿論・郷論に支持されることが必要になる。
よって貴族は皇帝のもとで官職を求める官僚であるとともにまた農民たちの輿論に支えられる名望家でなければならないということになり、名望を保つために文化的な権威である必要があり、それが華やかな六朝文化の原動力であったということになる。また九品官人法など上位の官職を持ったものが子孫にその権利を伝えていくことが可能な制度があったことによって、貴族は名門化していくことができたと。
そして、よく言われることで不思議に思ってはいたのだが、彼らは皇帝よりも強い文化的な権威と名門意識を持ち、場合によっては皇帝の一族との縁組を断るほどの権威を持っていた。
「軍事的な権力」と「文化的な権威」の対立共存というのは日本の幕府と朝廷、西欧の皇帝と教皇のように文化的権威が形式的には上位であることが多いが、中国の六朝の場合は軍事的な権力が皇帝で文化的な権威が貴族官僚なので官僚が皇帝の一族との通婚を拒否したりなんか屈折した現象が起こっことはようだ。
昔から六朝貴族の傲岸不遜さと言うのは感覚的によくわからなかったのだけど、日本や西欧とは状況が逆なんだと考えればひとまず理解できるように思った。京都人の「いけず」みたいなものだと考えればいいのだろうか。権力の中枢である東京中央を「あずまえびす」とか呼ぶような屈折があったということなのだろう。
先日「荘園」を読んでいても思ったが、日本では国家が成立した当初から、天皇=大王の権力の絶対性はなく、また自立した小農民や力を持った民衆の共同体などもなくて、その中間にあたる豪族などが力を持っていたので、一君万民制とは程遠く、中国の真似をして律令を導入し、均田制的な仕組みを作ったがすぐに形骸化していき、荘園制などの私有的な部分が強くなっていって、院政に寄ってその仕組みが上から強化されて国家制度としての封建制=荘園制(封建制という言葉は最近は使われないのかな)が成立し、領主権力が成立していって最終的には江戸時代まで続く。中間階層の世界が制度として保障された社会だったと言えるだろう。
それに比べると中国では中間階層は常に「農民=庶民」と「皇帝」を意識し、その支持を取り付けなければならない。だから特に個人の能力が問われる科挙の時代になると個人の能力をひけらかす必要が生まれ、官僚間の党争など言語による争いが強くなる。
日本の官僚や領主たちは出世のためにはもちろん朝廷を意識しなければならないが、朝廷=天皇とは言えず、さまざまな階層の貴族たちがそれなりの権力を持っていて、漢籍を読んでその知識をひけらかしたり(=からごころ)することや天皇に取り入ることよりも実務的な能力(=やまとだましい・やまとごころ)を持ち同輩者や直接関係を持つ上司や部下、つまり「共に仕事をする仲間」に支持されることの方が重要だったわけで、それが日本的な意味での「信頼社会」を作ってきたのだろう。
一方農村では室町期のあたりから技術の進歩や自然災害の減少などにより村落が固定化され、ようやく農村共同体が力を持ち始めてきたということなのだろう。それらが領主権力と対抗することで村落共同体の結束が強まり、いわゆる「ムラ社会」が形成されてきたということなのだと思う。ムラ社会は団結のために各家族・各個人にまで干渉を強め、裏切り者を許さない「安心社会」を形成していったのだろうなと思う。
*「安心社会・信頼社会」はもともと山岸俊男史の概念のようだが、私は↓の論説で知った。
中国と日本はそうした形で社会の成り立ちがかなりかけ離れたものであるので、そういう形は近代以降の歴史においても大きく影響したように思う。
基底の世間においては信頼社会、中間以上の世間においては信頼社会であった日本に対し、中国では一君万民制下の砂粒のような個人を団結させてきたのが「幇」の存在だったのだろう。個人と個人が強固な繋がりを結ぶことが重視される。三国志の桃園の誓いなどが「幇」の一つの原型なのだろう。これらの個人の結びつきの強さが重視されるのはシチリアのマフィアなどもそうで、マフィアも元は犯罪組織というよりはそうした強い任侠的な結びつきだったと読んだことがある。
この「幇」の関係の重要性は中国では反社会集団や群雄の世界だけでなく、官僚の世界でもあったわけで、その極地が科挙の最終段階である「皇帝が直接試験官となることで高級官僚予備軍の「師」となり個人的な関係を結ぶ」=「殿試という制度」であったと言えるのだろうと思う。
こうした観点から日中の文化比較をすることによって日本社会の特徴や中国社会の分析、また中国でなぜ個人崇拝を伴う一党独裁制が成功したかなど、現実の政治社会の分析にも参考になるように思う。
また、日本と中国におけるぶ「文化」の地位の違い、もっと言えば日本がなぜ「文化」が軽視される傾向があるのかなどもそういうところから分析できるかもしれない。
というようなことを考えている。
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