ウィルスについて読んでいる

Posted at 21/08/03

「中先代の乱」を読み終わったので、宮沢孝幸「京大おどろきのウイルス学講義」(PHP新書、2021)を読み始めた。


 

新型コロナウィルス、特にデルタ株の感染拡大は止まる気配がない。しかしこれはある程度予測されたことだと思うのだが、多くの人々はオリンピック開催を理由にして、自分たちの感染リスクのある行動を肯定している感じになってきている印象がある。まあ何にしろ、自分の行動を正当化する理由づけが欲しいのはこういう状況の中では仕方ないのかもしれないが、その理由に使われるオリンピックがやはりやや気の毒な気がしないでもない。

この本の著者はツイッターやメディアでも発言しているウィルス学者の方なのだが、医学ではなく獣医学の範疇の人だ。当然ながら人間に感染するウィルスよりも他の動物に感染するウィルスの方が多いから、「ウィルスの専門家」は獣医学の分野にとても多いということになるのだろう。

実際、今回の「新型コロナウィルス」も中国のコウモリが持っていたコロナウィルスが何らかの動物を媒介にして変異し、人間に対する感染性を持つようになって爆発的に感染が拡大した可能性が高いようだ。そういう意味では、動物が持っていて変異の仕方次第では人間に感染し、重篤な症状を引き起こすウィルスを研究しておく意味はあると思う。武漢のウィルス研究所も、本来はそういうことも大きな目的の一つだと思うが、あまりに閉鎖的なため、基礎研究よりも生物兵器として研究しているのではないかという疑いが持たれてしまうところがあるように思う。

この本では第1章でそうした人間に感染したら大きな被害を持つ可能性がある動物界のウィルスたちについて解説している。あれもありこれもある、という列挙式の解説なのでなかなか全体像は掴みにくいが、現在人間に脅威をもたらしているウィルスだけでなく、動物に感染しているウィルスについても研究していくべき、という主張は正しいと思う。

ただ、著者も言っているように、現在の日本の研究状況は大変厳しい。大学の予算はどこも減らされているし、それを競争資金で補うという愚策がいつまで経っても変わらない。「次に来るウィルスが何か」などということは誰にもわからないのだから、幅広く研究しなければいけないのは当然なのだが、「選択と集中」という一見理も利もあるような主張によって、そうした「成果が出るかわからない基礎研究」は危機に瀕している。人材が資源であるはずの高学歴国である日本においてこうした愚策が罷り通っているのは大変残念なのだが、この辺りのところの意見は著者と同じくする。

第2章はウィルスというのがいかに身近な存在かということを言いたいのかなと思う。思ったより我々は野生動物の近くで暮らしているし、それらは人間が持っていないウィルスを持っている。また、世界の変化、特に移動の活発化によって感染が拡大する機会が増えているということもある。また、まだあまり研究は進んでいないが、がんを防ぐウイルスなど、人間にとって有用なウィルスもあるという。こうした状況なのに予算はなかなかつかない、という話にまたなるのだけど、実際それはその通りだと思う。

読んでいて、「ウイルスとは何か」ということについて自分が基本的な知識がいかに不足しているかということがわかってきたので、本を読みながらWikipediaをググりながら読んだりしていた。ウィルスは発見されているのが3万種くらいだが世界に170万種いると考えられるとか、へえと思うしかないのだが、細菌で知られているものは約七千種、古細菌が550種だというのを読むと、これは多いなと思う。哺乳類と鳥類に感染する種類で知られているのは650種出そうだが。

世界の既知の生物数は175万種だが知られていないものを含めると500万から3000万と言われているようで、そう考えてみると生物学や生物に分類すべきか意見の分かれるウィルスなどを考えると、まだまだ博物学的にも研究は未発達なのだなと思う。

最初にその辺のところを書いてくれればいいのにと思ったが、第3章のテーマが「そもそもウィルスとは何?」とされているので、この辺りを読めば疑問は解消するのかもしれない。

それにしても、専門外、馴染みのない分野の本を読むということは、記述が正しいのか正しくないのかさえピンとこないので、なかなか大変だなと思うところはある。筋の悪い書籍を鵜呑みにしてしまうと陰謀論に洗脳されることもなくはないわけで、そうしたところに関するリテラシーは昔に比べれば少しはついていると思うが、それだけに新しい知らない分野の本を読むときには警戒心が強くなるので、なかなか読み進めるのが大変だという面がある。

知らないことを読んでいると、これは正しいのか、それとも著者が読者を煙に巻こうとしているのか、というようなことを考えさせられてしまうことが多い。自分が理解できないだけなのか、ポイントを掴みにくくしているのか、などということを考えてしまう。それは著者の一般向け書籍に対する熟達の度合いというのもあるし、こちらの基礎的な知識ということもあるので、どこに問題があるのかはなかなかはっきりしないまま、とりあえず読み進めるしかないことになる。

そういう読書の仕方は疲れるので、気合を入れないと無理なわけだけど、まあ自分なりに理解しながら少しずつ読み進めていこうと思っている。









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